1-5

 魔鉱世界リットファームには、日々、魔鉱石を買い付けるために他世界から来訪者がやってくる。


 本日もリットファームの港は盛況だ。


 魔力のジェットエンジンによって宙を飛ぶ魔導船。

 ――これについては、あらゆる世界が技術を提供し合い、その発展に寄与しているものの、まだまだ不安定な面も多い。


 なにぶん、離着陸の難度が高かった。


 船が安全に離着陸するためには、浮遊魔法の力などで離着陸を補助してくれるような、ちゃんと整備された魔法港が必要不可欠だ。


 リットファームは異世界間の交流に積極的な世界だから、もちろん、充実した設備が整っている。



『こちら貨物魔導船・ノーマン号。じきにリットファーム世界圏に入ります。レベル4の着陸補助を要請』


 魔導船のパイロットから、リットファームの管制塔に通信が入る。


『了解。大型着陸場に魔法士が4名待機中ですので、そのまま着陸態勢に入ってください』


 応答したのは女性の管制官。

 いかにも仕事ができそうな、落ち着いた声の女性だ。



 港の空に、巨大な影が浮かぶ。

 縦長の胴体に翼を広げた、鳥のようなシルエットだ。


 やがて雲を抜けて、その姿がはっきりと現れる。

 全長は40メートルほどで、両翼を広げた幅はおよそ60メートルにもなる、大型の魔導船。


 ジェット噴射をゆるめて、地に向かって下降していく。


 地上には、黒い作業着に身を包んだ男が、四人立っている。

 彼らは大きく四角をとるような配置で、空から降りてくる船を待ち受けていた。


 息を合わせながら、同時に、長々とした呪文を唱えはじめる魔法士たち。

 大型魔法のため、詠唱時間は三分ほどかかる。その間、船はあるていど高度を保って待機。


 やがて詠唱が終わると、魔法士それぞれの足元に魔法陣が浮かぶ。


 さらにそれらが共鳴して、中心に巨大な魔法陣が出現した。

 それは浮遊魔法の陣。

 浮力を生み出して、船をゆるやかに下降させるのだ。ここで船が着陸脚を出す。


 一連の流れは、管制官が、船や魔法士にそれぞれ指示を送って、タイミングを合わせている。


 そうして魔法の力と、人の連携力によって、大型の貨物魔導船は無事にリットファームに降り立つことができた。


 とくに大型の魔導船ともなると、着陸するだけでこれだけ大がかりな仕事になる。

 仮に小型船であっても、地上の応援なしに着陸に臨むというのは、よほど腕利きのパイロットでなければ難しい。



『着陸完了です。おつかれさまでした。次の入出港予定まで少し時間が空きますので、魔法士のみなさまは休憩して、魔力の回復につとめてください』


 管制官の女性は、魔法士に休憩を促したあと、通信の音声を切る。


 大型魔導船の離着陸は大仕事だ。とくに管制官の負担は大きい。

 しかし、この女性にとっては慣れた仕事のようで、その顔には疲労感もない。落ち着いた様子で、次の仕事を確認している。


 魔鉱石は宇宙でも広く取引される交易品。

 その原産地であるリットファームは、貿易監査局の支援を手厚く受けている。これだけ港の設備が整っているのも、その賜物だ。

 そもそもこの世界原住のオークは、浮遊魔法を扱えない。港の魔法士はすべて当局から派遣されてきた者たちなのだ。


 そして、この女性も監査局から派遣された管制官。

 指示の的確さは、折り紙付きだ。



「現在、在港船の数も少ないし、出港船はしばらく予定なし……。着港予定は三十分後に一件。これは……監査局ウチの巡回警備船ですか。これなら楽に済みそうですね」


 入出港の申請リストを見ながら、女性管制官がつぶやく。


 指示を出すのが派遣管制官である自分にして、浮遊魔法をあつかうのも同様に派遣された魔法士、そして着港するは巡回警備船。

 すべて貿易監査局の関係者ともなれば、次の着陸作業はかなりスムーズにできるだろう。女性管制官は思わず気を抜いて、ぐぅっと伸びなどする。


 ふと空を見た。


 本日、リットファームの中心地は、あいにくの曇天。

 一面の青や、その奥に広がる無限の魔素宇宙など望むべくもなく、暗い雲が空を覆っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る