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魔鉱世界リットファームには、日々、魔鉱石を買い付けるために他世界から来訪者がやってくる。
本日もリットファームの港は盛況だ。
魔力のジェットエンジンによって宙を飛ぶ魔導船。
――これについては、あらゆる世界が技術を提供し合い、その発展に寄与しているものの、まだまだ不安定な面も多い。
なにぶん、離着陸の難度が高かった。
船が安全に離着陸するためには、浮遊魔法の力などで離着陸を補助してくれるような、ちゃんと整備された魔法港が必要不可欠だ。
リットファームは異世界間の交流に積極的な世界だから、もちろん、充実した設備が整っている。
『こちら貨物魔導船・ノーマン号。じきにリットファーム世界圏に入ります。レベル4の着陸補助を要請』
魔導船のパイロットから、リットファームの管制塔に通信が入る。
『了解。大型着陸場に魔法士が4名待機中ですので、そのまま着陸態勢に入ってください』
応答したのは女性の管制官。
いかにも仕事ができそうな、落ち着いた声の女性だ。
港の空に、巨大な影が浮かぶ。
縦長の胴体に翼を広げた、鳥のようなシルエットだ。
やがて雲を抜けて、その姿がはっきりと現れる。
全長は40メートルほどで、両翼を広げた幅はおよそ60メートルにもなる、大型の魔導船。
ジェット噴射をゆるめて、地に向かって下降していく。
地上には、黒い作業着に身を包んだ男が、四人立っている。
彼らは大きく四角をとるような配置で、空から降りてくる船を待ち受けていた。
息を合わせながら、同時に、長々とした呪文を唱えはじめる魔法士たち。
大型魔法のため、詠唱時間は三分ほどかかる。その間、船はあるていど高度を保って待機。
やがて詠唱が終わると、魔法士それぞれの足元に魔法陣が浮かぶ。
さらにそれらが共鳴して、中心に巨大な魔法陣が出現した。
それは浮遊魔法の陣。
浮力を生み出して、船をゆるやかに下降させるのだ。ここで船が着陸脚を出す。
一連の流れは、管制官が、船や魔法士にそれぞれ指示を送って、タイミングを合わせている。
そうして魔法の力と、人の連携力によって、大型の貨物魔導船は無事にリットファームに降り立つことができた。
とくに大型の魔導船ともなると、着陸するだけでこれだけ大がかりな仕事になる。
仮に小型船であっても、地上の応援なしに着陸に臨むというのは、よほど腕利きのパイロットでなければ難しい。
『着陸完了です。おつかれさまでした。次の入出港予定まで少し時間が空きますので、魔法士のみなさまは休憩して、魔力の回復につとめてください』
管制官の女性は、魔法士に休憩を促したあと、通信の音声を切る。
大型魔導船の離着陸は大仕事だ。とくに管制官の負担は大きい。
しかし、この女性にとっては慣れた仕事のようで、その顔には疲労感もない。落ち着いた様子で、次の仕事を確認している。
魔鉱石は宇宙でも広く取引される交易品。
その原産地であるリットファームは、貿易監査局の支援を手厚く受けている。これだけ港の設備が整っているのも、その賜物だ。
そもそもこの世界原住のオークは、浮遊魔法を扱えない。港の魔法士はすべて当局から派遣されてきた者たちなのだ。
そして、この女性も監査局から派遣された管制官。
指示の的確さは、折り紙付きだ。
「現在、在港船の数も少ないし、出港船はしばらく予定なし……。着港予定は三十分後に一件。これは……
入出港の申請リストを見ながら、女性管制官がつぶやく。
指示を出すのが派遣管制官である自分にして、浮遊魔法をあつかうのも同様に派遣された魔法士、そして着港するは巡回警備船。
すべて貿易監査局の関係者ともなれば、次の着陸作業はかなりスムーズにできるだろう。女性管制官は思わず気を抜いて、ぐぅっと伸びなどする。
ふと空を見た。
本日、リットファームの中心地は、あいにくの曇天。
一面の青や、その奥に広がる無限の魔素宇宙など望むべくもなく、暗い雲が空を覆っていた。
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