第6話
GPSはまだ機能しているとはいえ、自動運転でも対処できないような道を通る場合は運転手が自分で運転する必要がある。
それにこの車は両親が結婚したばかりのころに買ったものだから、自動運転機能も今となっては古いタイプのものだ。
昔両親が運転していた時の記憶と、車を運転するゲームでの記憶を思い出しながら、私はハンドルを握る。
車道にはほかにも何台かの車が走っている。
その目的は家族と最後にいろいろなところに出掛けようというものだったり、運転するのが好きだったりと様々だろう。
もしかしたら私たちと同じ目的の人もいるかもしれない。
そんなことを考えながら街の外に出る。
都市部を離れて住宅街に出る。
すでにお昼を過ぎている。
今日で地球が終わることは確実視されているけれど、それが一体いつなのかははっきりとはわかっていない。
深夜かもしれないし、もうすぐかもしれない。
街には夜ご飯の材料なのかたくさんの食材を抱えて歩く人の姿がいくつか見える。
最後の時を一緒に過ごす人と早めの夜ご飯で盛り上がるんだろうな。
持っているものは高そうなお肉や魚が多い。
レストランへのお客さんもたくさんいるんだろうな。
そういえば、いろいろとあってまだお昼ご飯を食べていない。
あのスイーツでおなか一杯になったとはいえ、さすがにそろそろおなかもすくころだ。
私は隣に座る彼の方を見る。
彼はさっきからスマホでどの道で行くのが最短なのかを調べてくれている。
一応自動運転機能が最短ルートを導き出してくれているとはいえ、異常気象などの影響で必ずしもそれが安全かつ最短なのかはわからない。
そういう時は自分で情報を集めたほうが安心できる場合もある。
とはいえさっき私が免許を持っていないといった時にものすごく驚いて、次いですごく不安そうな顔をしていたからあんまり信用していないのかもしれないけど。
そんな彼に私は聞いてみた。
「ねぇ、おなかすいてない?」
「おなか?そういえばカフェに行ってから何も食べてないな」
ちょうどその時、ぐーーと私のおなかが鳴る。
思わず顔が熱くなるのを感じながら小さく「私も」とこぼす。
「どこか開いているコンビニにでも止まろうか」
私がそう聞くと、彼は「そうしようか」と私の方を見ないで同意する。
見るとわずかに震えている。
「あ!笑ったでしょ!」
「笑ってないよ」
「嘘!ちゃんと目を見ていって!」
「だから笑ってないって」
だけどその声はどう聴いても笑いをこらえている声だ。
私は「もう!」と漏らしながら、行き先を近くのコンビニに設定する。
それに従って、車は自動的に近くのコンビニへと向かい、駐車場に停車する。
先に助手席の彼が降りる。もしも警察がいたとしても、助手席に座っている彼ならば見つかっても問題ないからだ。
しばらくしたら彼が戻ってくる。
「大丈夫だよ」
その言葉を聞いて私も車から出る。
コンビニはカフェとは違って普通にお金を払う必要がある。
とはいえお金は全部スマホに入っているから問題ない。。
それは彼も同じのようで、私たちはそれぞれ食べたいものを手に取ってレジに持っていく。
レジに商品を置いてスマホをかざせばそれだけで購入は完了する。
先にレジを済ませた彼のもとに向かうと、何やら大学生くらいのお姉さんとももめていた。
しんぱいして近づく。
「何があったの?」
私に気づいた彼は「それが」と訳を話した。
なんでもこのお姉さんが商品をお金を払わずに持ち出そうとしていたらしい。
それを止めたところ、こうして文句を言われているそうだ。
「だから、いちいちうるさいのよ!あたしがないしようが勝手でしょ!」
「そういうわけにはいかないですよ。それ、ちゃんとお金を払って買わないと」
彼の言葉にお姉さんはチッと舌打ちをする。
「どーせ明日にはみんな死んじまうんだ。今更ルールに従う必要なんてねぇだろうが!!」
「だけど!」
「うっさい!!」
お姉さんは彼を突き飛ばしてお店から出ていく。
私は突き飛ばされた彼に駆け寄る。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう。それより買えた?」
「うん」
私がそう言うと、彼は「じゃあ戻ろうか」といって立ち上がる。
私たちは車に戻ると、再び自動運転機能をつけて車を走らせる。
その間に私たちはそれぞれが買ったものを開ける。
私が買ったのはサンドイッチとミルクティー、それからメロンパン。彼は鮭おにぎりと緑茶、ドーナツを買っていた。
「さっきの君の言葉、間違ってないと思うよ」
私がそう言うと、彼はおにぎりを食べながら「ありがとう」という。
「だけどあのお姉さんの言う通りかもしれない。明日世界が終わるっていうのに、律儀にルールを守ろうとするのはばかげているのかもね」
「私も今まさに無免許運転っていう犯罪を犯しているけどね」
私がそう言うと、彼は「たしかに」と苦笑して言う。
「きっとあの人の不安なんだと思うな。時間が迫るにつれて、死ぬことへの恐怖がどんどん迫ってくる。私も君がいなかったら今頃部屋で一人で不安に押しつぶされていたかもしれない」
「それで言ったら僕だって、一人だったらそうなっていたかもしれないな」
「私たち、互いに支えあってるんだね!」
「そうかもね」
車は住宅街を抜けて高速道路に入った。
高速道路には街中とは違い、車の姿はほとんどない。
もともと今日が最後の日だってことはずっと前から言われていた。
高速道路で移動しなくちゃいけない場所に行く人たちはずっと前から行っていたんだろう。
目的地まではしばらく直線に進むだけだ。
行く先に車がいないことを確認した私は、アクセルを全力で踏み込む。
自動運転機能がサポートできないスピードは出ない設定になってはいるけど、それでも車はさっきまでとは打って変わり、勢いよく走り始める。
「ちょっとはやくない⁉」
そんな彼の言葉は気にしないで私は窓を開けた。
外からの風が勢いよく入り込む。
「一度やってみたかったんだよね!はー、気持ちーい!!」
エアコンで車内は涼しいとはいえやっぱり直接風を浴びたほうが何倍も気持ちがいい。
「ほら、君も」
私はそう言って助手席の窓も開ける。
車の両側から風が入ってくる。
「本当だ。たしかに気持ちがいいね!」
「でしょ?」
私たちは笑いながら誰もいない高速道路を激走していった。
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