雲雷

木兎

祈り

大気を切り裂く轟音、雲天を染めし嵐雷の響きと共に、遥かなる吟声ぎんせい荒ぶる大竜の気配あらわれはじめぬ。


辰砂の朱雲たなびきて巨躯の影籠もり、苔生した太古の祭壇は混沌とした大気の振るえにより震わせらる。


大地を踏みしめし歴戦の狂い竜に、今再び月光を宿らせし巻尾が現れん。


紫電の射す離ればなれし雲間より、鱗うろこに月の輝きを宿す逞しい竜の巻尾顕れり。


今宵極彩の舞手たちが奉祭の幕を開かん。


金燭の炎よろめきつつ祭壇の四方に灯され、蒼の煙り祭壇の周りに立ちこめる。


咆哮とどろく龍の轟音に祈りの始まりあり。


執り行う巫師、古の言の葉を詠じ出でば、極彩色の衣繻ころもを翻し疾く舞う。


祝詞との問答のこだまに呼応するように、雲外れの彼方より龍の咆哮ども重ねられ、地に足鳴りめき渡る。


七籟の響きに導かれし舞人たち、金竜の巻尾に奉祭を捧ぐ。幣帛へいはくを奮って翻して身を尽くし祈りを捧ぐる。


祭儀の一瞬この破矚の契機に、身は万象と渾然たり。


龍の巻尾の光芒、傲りして天を射すより七種の宝珠、大龍昇れりと讃える兆しなり。


雷鳴轟く割目を開き、彩雲の間遥かより龍の一瞥うっかりと視えしのみ。金色に輝く鱗に宿りし焔もて、九重に彩られし雲を射しぬ。


息绪いくすをとどめし一陣の静寂のあとに、疾く龍の爪跡はとどめの一吼をくり返し、大気の揺らぎに混じりて朽ち果てゆく。


祭祀の場にただ、竜の響き禍祟をくり返さん年回りをまたしく願う老爺の思念遺されるのみ。

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雲雷 木兎 @mimizuku0327

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