水底

木兎

深き地

暗闇に広がる碧き深淵の大海原、そこには知る者ごく稀なる祭祀さいしの地あり。


朝な夕な満ち引く潮の波、静けさに響く潮音ちょうおんのみが、その地を知る手掛かりとなるべし。


深海に棲む幻獣の姿かたち、おぼろげなれど濃密なる色彩を湛えて、時に海面に影を見せばや。


そこには神々の深淵の軌、つぎてみちびきし、海底の聖域なりき。


ひとたび満月の夜に祭壇に通じる入り江の扉が開くその時を待ちわびて、えらより水を通す海神たちの行列、遠き習わしに倣いて集うなり。


深海に咲く不思議の花を手に、揺れ動く光の円環に包まれつつ、岩嚢の上を遥かなる祭壇への参道に続く。


たどり着きし地、鮮やかなる発光生物の光が灯り、天蓋を彩る。


遠き祖代よりの祝詞を捧げしめて、平和の祈りを海の底に流すとき、沈黙の音が大海に満ちる。


奇異なるひれの錦を地に掲げ、儀式の踊りを極彩の舞い手たちが翻すと、次第に海中を渦巻く歓びの環流生まれんとす。


心なごやかなる、海の杜の守り手たちの歌声が重なり合い、万象に満ちみちた調べとなる。


奇祭の一瞬、そこには慶賀和合せし海神の世界のみ存する。


大海の摂理を尊び、永遠なる命の循環を祝福する祭儀の夜なり。


やがて明けの潮汐と共に、聖域は再び海の中に溶けゆき、水底に祭壇の影を残すのみ。


知る者ごく稀なる海底の神秘、大河に縋り海に継がれ行く永遠の祀りなりき。

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水底 木兎 @mimizuku0327

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