第2話 願いを叶えるぬいぐるみって、そんなベタな話……

 今日も今日とて真依とトリは冒険を続けている。今回の討伐対象はコカトリス。冒険の果てにそれを見つけた彼女は、早速ステッキを振りかざす。


「フルチューンダイレクトボンバー!」


 今回の技はステッキに魔力をフルチャージさせて行うもので、一撃必殺の威力を持っている。今まで真依が出会ったモンスターで、この技を当てて一発で倒せなかったものはいない。ただし、隙が大きくて連続発射が出来ないのが難点だ。

 とは言え、事前に魔力を溜めていればすぐに撃ち出せるので、作戦次第では弱点も克服出来る。今回はそれが上手く行っていた。


 舞依はコカトリスの羽をむしってアイテムボックスに入れる。すると、そこにマスコットのトリがやってきた。


「いや~今回は作戦勝ちだったホね」

「あんた何もしてないじゃん」

「邪魔もしてないホ!」


 真依のツッコミに、トリは何故か誇らしげに胸を張る。その斜め上の反応を見た彼女は、大きくため息を吐き出すのだった。

 街に戻ってギルドで依頼完了の報告をした後、舞依は受付のサラに金貨を1枚渡す。


「何か良い情報ない?」

「そうねえ……あ、最近広まっている面白い噂があるよ。何でも願いを叶えてくれるぬいぐるみが現れたんですって。このギルドでもそのぬいぐるみを探すパーティが増えているわね」

「じゃあ、その話は結構信用出来るんだ?」

「眉唾ではあるんだけどね。真依も探してみる?」


 サラはにやりと笑みを浮かべながら真依を煽る。元の世界に戻りたい彼女はこの話に乗っかる事にした。


「今も探しているって事はまだ見つかってないんだよね? そのぬいぐるみ、私がゲットするよ!」

「頑張ってね~」


 彼女は手を振って真依を応援する。このぬいぐるみ探しはギルドの依頼ではない。だから見つけても報酬は発生しない。それでも、願いが叶うと言うのが本当なら金銭以上の価値があった。

 舞依はギルドに集まっている冒険者達にぬいぐるみに関する情報を聞いて回る。けれど、集まったのは荒唐無稽なものばかりで、有力な手がかりは何ひとつ得られなかった。


「やっぱり自分の足で地道に調べるしかないか」


 舞依は拳を握りしめて気合を入れる。ぬいぐるみ本体の情報はあてにならないので、今度はぬいぐるみ探しをしている冒険者の情報を集め始めた。街の人に聞いたり、店の人に聞いたり、情報屋にお金を払ったり――。

 そうして次に向かうべき場所が見え始めたところで、トリが口を挟んできた。


「本当にそのぬいぐるみをゲットするつもりなのかホ?」

「当然じゃん。だって他に手がかりないでしょ」

「無謀ホ。今回はライバルがたくさんいるホ。しかもみんなパーティ単位で探しているんだホ。真依1人でそれに対抗するなんて……」


 彼は今から探しても先に誰かが見つけてしまうと言いたいようだ。確かに今回の争奪戦、舞依は数の上ですごく不利だろう。

 そんな状況なのに、彼女は全く怯む様子がなかった。


「私もトリとパーティじゃん」

「僕を数に入れるなホー!」


 喚くトリを尻目に、舞依は早速行動を開始する。まず向かったのは街から南東に進んだ先にあるトンポ遺跡。そこの何処かに隠されていると言う噂を確かめに向かった。


 遺跡自体は半分観光地化しているのですぐに見つかる。行ってみると、何組かのパーティーが必死に何かを探していた。まるで発掘隊のように慎重に辺りを掘り返している。それは一種異様な光景にすら見えた。

 彼女もすぐにその中に入って同じようにぬいぐるみを探す。けれども、出てくるのは土偶ばかりだった。


「もう嫌だ~」

「あきらめるのが早いホね。まだ半日しか経ってないホ」

「半日やれば十分だよ。トリがここが怪しいって言ったんでしょ!」

「僕はここが街から一番近いって言っただけホ!」


 地道な作業に飽きた舞依はトリに八つ当たり。彼も正論で殴り返してきたので、キレた舞依は作業を途中で放り投げて別の候補地に向かった。


「もう、トリなんて知らない!」

「ちょ、待つホ~!」


 次に向かったのは街の南に広がるプパストの森。その面積は街よりも広いらしい。森の中にあるらしいと言う噂はあったものの、具体的な場所の情報は得られていなかった。

 広大な森は迷いやすく、専門家をパーティに入れる事が暗黙の了解になっている。その話を知っていながら、舞依は単独で森に入っていった。


「ちょ、1人は無謀ホ!」

「今はこの森にぬいぐるみ探しのパーティが何組も入っているんでしょ? その人達を見つければ問題ないじゃない。後はついていくだけ」

「そんな簡単に見つかる訳ないホー!」


 トリの抗議も虚しく、舞依はずんずんと森の中に。そこは似たような光景が続く如何にも迷いやすい森だった。そんな森に足を踏み入れた彼女も速攻で迷い、宛もなく彷徨っていく。


「どこに向かってるホ?」

「分かんない。勘かな?」

「もし奇跡的にぬいぐるみをゲット出来ても、戻れなくなるんじゃないかホ?」

「その時はその時! 今は考えない!」


 トリは真依の行き当たりばったりな考えに呆れ果てる。けれど、今までそれで何とかなってきた事も思い出し、敢えて反論はしなかった。

 最初の計画は既に森の中に入っているパーティを見つけ出すと言うものだったものの、歩けど歩けど冒険者の姿は見つからない。歩き疲れた彼女は、近くにあった手頃な岩に腰を掛けた。


「帰ろっか」

「帰れるのかホ? 言っとくけど魔法少女の技にそう言うのはないホ」

「トリの本能でどうにかならん?」

「僕は渡り鳥じゃないホ。そんな都合のいい能力は……」


 彼が最後まで言い切る前に地面が強く振動する。この事態に目を輝かせた舞依はすぐに駆け出した。


「どこ行くホ!」

「近くに強そうなモンスターがいる! まずは倒そう!」

「どうしてそうなるホー!」


 彼女はバトルジャンキーと言う訳ではない。ただ、強いモンスターはお宝を守っている事が多い。つまり、お目当てのぬいぐるみが近くにあると舞依はにらんだのだ。

 走りながら魔法少女に変身した彼女は、振動の発生源に辿り着く。そこにいたのは、身長が3メートル近くはありそうな巨大なサイクロプスだった。


「いいね! 如何にもお宝の番人だ」


 サイクロプスは握っていた巨大な棍棒こんぼうを振り上げる。巨体なだけあって動きは緩慢だ。そこで舞依はステッキをかざして速攻で攻撃を開始する。


「マジカルスィートキッス!」


 唇の形の魔法弾が次々に撃ち出され、サイクロプスは攻撃をキャンセルされまくる。その後も撃って撃って撃ちまくり、手数の多さでこの巨大モンスターを打ち負かした。


「ゴリ押しホね……」


 トリが呆れている内に、舞依はその先にあった宝箱を発見。嫌な予感を覚えた彼がその行為を止めようと近付いたところで、あっさりとそれは開けられる。


「うわっまぶしっ!」


 宝箱から発せられる強い光に包まれた2人は、謎のダンジョンに転移していた。光が収まった後に周囲を見渡した彼女は、大きく目を見開く。


「ここだよ、ここにぬいぐるみがあるんだ」

「ただの罠だホ……」

「トリ君は聖獣なのに夢がないなあ」


 希望に満ち溢れた舞依はトリの背中をバンバンと叩く。その後も勘でダンジョンを進んでいくと、冒険者パーティと次々にすれ違った。彼らは何かから必死に逃げているようだ。その様子から、彼女はパーティーが逃げてきた方向に向かって走り出した。


「どこ行くホ!」

「きっとこの先にボスがいるんだよ!」


 どうやら、舞依はダンジョンボスを倒せば今度こそぬいぐるみが手に入ると考えているようだ。仕方なくトリも彼女についていく。行き着いた先に待っていたのは、これまた巨大なドラゴンのぬいぐるみだった。

 森のサイクロプスに負けない図体にファンシーな見た目が不自然で不気味でもある。


「うひょー! おっきい! あなたが願いを叶えてくれるの?」

「我を倒せればな」

「よーし! 勝負だあ!」


 舞依の魔法攻撃と巨大ぬいぐるみの戦力は互角で、一進一退の攻防が続く。お互いに最後の一撃が決まらずにバトルは泥沼化していった。


「フハハハ! 楽しいのう」

「あなたもやるじゃない。じゃあ、奥の手を出すね」

「ぬ?」


 早く決着をつけたかった彼女は、ステッキを第2形態にする。そうして、大きく息を吸い込んだ。


「メガビックバン!」

「うおおお、なんとぉ……」


 舞依はステッキに残っていた残存魔力を全て圧縮して撃ち出し、勝負を決める。力負けしたぬいぐるみは発火。どんどん燃え広がりながらその場に倒れた。


「さあ、願いを叶えて頂戴!」

「出来ぬのだ。我にその力はない」

「どゆ事?」


 彼女が小首をかしげる中、ぬいぐるみは真実を話す。自分は魔道士によって作られた戦闘用ぬいぐるみであり、その強さ故に毎日が退屈だったと。自分より強い相手と戦いたくて、願いが叶うと言う噂を広めて戦いに明け暮れていたと言う事だった。


「じゃあ嘘だったのー!」

「ああ、最後にいい勝負が出来た。有難う」


 燃え尽きたぬいぐるみは文字通り消滅。その瞬間に真依達は森の外に転移する。ぬいぐるみを倒したら出られる仕組みになっていたらしい。

 結局願いも叶わず、何も得られなかった事実を前に、彼女は感情に任せて両手をブンブンと振り回した。


「またダメだったー! 今度こそ!」

「そ、その意気ホ!」


 舞依の冒険はまだまだ続く。そう、彼女が元の世界に戻れるその日まで。

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