異世界魔法少女真依
にゃべ♪
第1話 異世界本屋に元の世界に戻るヒントはあるか
異世界ラーズワース。その世界はよくある異世界ファンタジーのお約束の通りの世界だった。人里離れた場所では各種モンスターが
世界はまだその全てを人間に明かさず、日々新しい発見と試練を人々に与え続けていた。
そんな世界で、1人の魔法少女とお供のマスコットが冒険を続けていた。彼女は討伐対象のゴブリンに向かってステッキを振りかざす。
「マジカルスィートキーッス!」
技名を叫ぶと同時にステッキの先から形成されるのは、無数のぷっくりとした真っ赤な唇の形をしたエネルギー弾。それらは一斉に逃げるゴブリンの深緑色の肌に連続で激突して、派手に爆発していく。
「ピギィィィ!」
この爆発でゴブリンは呆気なく死亡。魔法少女はサクッと魔物の耳を削り落とす。
「真依、お疲れ様ホ!」
戦いが終わって、まるまると太った鳥の姿をしたマスコットが彼女の側にやってきた。真依と呼ばれた少女は耳をアイテムボックスに入れ、近付いたマスコットの目の両脇あたりを握りこぶしでグリグリする。
「お疲れ様じゃないでしょ! 今までどこ行ってたの?」
「た、戦いの邪魔にならないように退避していただけホ!」
「あんまり離れたら変身が解除されるって言ったのは、トリ、あんただったよねえ」
「痛いホー! だからギリギリ変身が解除されない距離を保ってたホー!」
どうやら魔法少女の変身には条件があるようだ。トリと呼ばれたマスコットは必死に言い訳をして真依に許しを請う。散々グリグリして気が晴れたのか、彼女はトリを開放した。
「ま、いいわ。街に戻りましょ」
「がってんホ!」
変身を解除して街に戻った舞依は、まっすぐにギルドへと向かう。そこで依頼達成の報告をして、戦利品を手渡した。受付で倒したゴブリンの数の分の報酬を得た彼女は、次の依頼の吟味もせずにそそくさとギルドを出る。
外に出た真依は、街の繁華街に向かって歩き始めた。この街は辺境とは言え地方都市だったので、日中も結構賑わっている。人通りの多いところを歩けば、常に何かしらの屋台が賑やかに呼び込みをかけていた。
「お腹空いたホ。何か食べるホ」
「まだ早いでしょ。そんなに丸々してるんだから我慢してよ」
「舞依はケチホー! あの屋台に連れてけホ! アレが食べたいホ!」
トリがやたらと急かすので、彼女もその屋台に目を向ける。確かにそこから美味しそうな匂いが漂ってきていた。ただ、何の料理を売る屋台か確認した舞依は、そこでニヤリと笑みを浮かべながら彼の顔を見た。
「あの屋台、焼鳥だよ? 共食い?」
「そんなんじゃないホ! 僕は聖獣! 名前はトリだけど鳥じゃないんだホ!」
「何それ、受ける!」
気を悪くしたトリがクチバシを尖らせて
メインストリートから離れて少し静かな雰囲気になったところで、トリは真依が目的を持って歩いている事に気がついた。
「一体どこに向かってるホ?」
「もうすぐ着くよ」
その宣言通り、進行方向の先にとある建物が見えてきた。それを目にしたトリは大きくため息を吐き出す。
「また本屋に来たのかホ? 目的は元の世界に戻る方法だホ? そんな事を書いてある本なんてある訳ないホ」
「何よ。絶対ないなんて言い切れないじゃない。私は早く戻りたいの!」
彼女はトリの言葉をスルーして、若干キレ気味に本屋さんに入っていく。彼もすぐに後をついていった。店内はこじんまりしていて、様々な本が棚に雑然と並べられている。異世界なので漫画は存在しておらず、難しい文字ばかりの本がずらりと並んでいた。
舞依はそれらしい本を見つけてはパラパラと中身を確認する。元の世界に戻るのが目的なので、魔導書を中心にチェックしていた。
「う~ん、違うなあ」
「こんな街外れの本屋に高度な転位魔法を記した魔導書なんてある訳ないホ。早く屋台村に戻るホ!」
「うっさいな。静かにして」
彼女はトリのクチバシを左手で抑えながら本を探し続ける。目を皿のようにして本を探し続け、一巡してもあきらめずに探し続けていたところで、ついにそれっぽい本が見つかった。
「おお! 見つけた!」
真依がその本を手に取ろうと腕を伸ばしたところで、別の方向からニュッと伸びてきた別の手が先にその魔導書を抜き取る。争奪戦に負けてしまったのだ。
悔しがる彼女は、店主に精算をしに向かうその青年の背中に向かって声をかける。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「何だ?」
「私もその本が欲しいの。きっとあなたよりもね」
「はぁ? 早いもの勝ちだろ」
彼は真依の言葉を意に介さず、自分の正当性を訴える。どちらが正しいかと言えば、当然彼の方だろう。先に手に取った方に所有権があるのは異世界でも当然の話だ。
けれど、そんな正論に屈する彼女ではない。
「そうは行かない。私にはその本が絶対に必要なの」
「じゃあ何だ? 俺から奪うってか?」
「そうよ! 奪ってでも手に入れる! あなたには渡さない」
舞依は気迫を込めた目で青年をにらみつける。その強い意志を感じ取った彼は手にした魔導書を棚の適当な隙間に押し込み、改めて自分に強い視線を飛ばしてくる相手を見定めた。
「へぇ……よく俺を魔族と見破ったな」
「え?」
「いいだろう。では、勝負に勝った方が本を手に入れると言う事でいいな」
何と、青年は魔族だったらしい。真依の追求を勝手に勘違いして自白したようだ。勿論彼女は目の前の人物が魔族だなんて思ってもみなかった。ただ魔導書が欲しかっただけなのだ。元の世界に戻るヒントが書かれているかも知れないから。
ただ、この展開は渡りに船だったので、舞依はちゃっかり話の流れに乗っかった。
「いいね。お互いに恨みっこなしで」
「では結界を張るぞ。書店を壊してはならんからな」
青年が結界を張る事で、周囲の空間は異空間に変容する。この空間の中ならどれだけ暴れても外の世界に影響はないと言う訳だ。わざわざ人の世界の本屋に現れるほどの魔族の青年の、本好きらしい気遣いだった。
結界が完成したタイミングでアイテムボックスからステッキを取り出した彼女は、それをかざしながら思いっきり叫ぶ。
「マジカル☆ミラクル! フォーム……アーップ!」
ステッキの先から放出された光の粒子が真依の体を包み、衣装を魔法少女のものに変えていく。キラキラと可愛いピンクのミニスカ衣装に身を包んだ彼女は、ビシッとポーズを決めた。
「私は絶対あきらめない!」
「お、おう……。何かすごいな……」
いきなりの変身、そして名乗りに魔族の青年は圧倒されていた。そして、この意識の差がそのまま戦闘の流れに反映される。変身した舞依は通常の3倍のスピードで動いて彼を翻弄し、その動きを止める事に成功。
隙を見つけた彼女は、そこで一気に攻撃に転じたのだ。
「マジカルスィートキーッス!」
「うわあああ!」
数々の戦いを経験したであろう魔族も、魔法少女の攻撃は未体験。そのため、威力の低い攻撃ですらロクな防御も出来ずに直撃を受けてしまい、マトモにダメージを食らってしまう。
ふっとばされた魔族は負けを認め、すごすごと本屋を出ていった。
「君には負けたよ。本は別の本屋で探す事にするさ……」
「バイバーイ!」
こうして魔導書の所有権を得た舞依は、確認のために本の中身を確認する。しかし、その本文は彼女には読めない古代文字で記されていた。
この事実を前に愕然とした舞依は、目に涙をたっぷりと溜める。
「全然読めない~」
「どれどれ? 任せるホ」
そこに顔を出したのがマスコットのトリ。どうやら彼はこの古代文字も解読出来るらしい。舞依は文字を読めないため、トリの言葉を信じるしかなかった。
ある程度読み進めた彼は、クチバシに翼を当てて意味深そうにうなずく。そうして、真依の方に顔を向けた。
「これは料理のレシピ本のようだホ」
「へ?」
「食べるとバフのかかる料理みたいホね」
魔導書の正体を知った真依は、見当違いだった事が分かって思い切り力が抜ける。それでもあきらめきれなかった彼女は、店番をしている店主を呼んだ。
「あの、この本って……」
「そうだよ。魔導料理のレシピさ。でも古い本なんでね、再現するのは難しいよ。今は存在しない食材が使われてたりもするし」
「あ、じゃあいいです」
こうして、手にした本がお目当てのものではない事が分かり、舞依は何も買わずに本屋を出る。収穫がない事は今に始まった事ではなかったので、舞依は右拳を高く上げ、次の可能性に向けて歩き出すのだった。
「次こそ元の世界に戻る手がかりを見つけるぞーっ!」
「それより先に屋台ホーッ!」
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