初めての『選択肢』
山の麓を目指して歩き続けて三時間、何とか森の付近まで辿り着いた。道中、スライムが密集している地域などがあり、思ったより大変だったが、収穫もあった。
まず、スライム(仮称)には目や鼻、口と言った器官が見ての通り存在しない。もしかしたら、見えてないだけでそれらに該当する器官があるのかと思っていたが、この道中でその考えはほぼ完全に否定された。
奴らは「音」にのみ反応する。その確証に至った理由は幾つか存在するが、最も大きな理由として、木から果実が落ちた際、既に地面に落ちている食べ頃の果実が疎らにあると言うのに、直前に木から落ち、音を発したものだけにほぼ全ての個体が群がり、ベチョベチョと言う擬音を放ちながら喧嘩をし、勝者が果実を食べていたと言う出来事が上げられる。
落ちた果実が直ぐに腐るからと言った理由なのかと疑いながら、奴らの近くに手のひらサイズの石を放ってみると、奴らは地面に落ちた果実ではなく、音を発した石の方へとこぞって寄ってきては、先程と同じように喧嘩まで始めた。
因みに最終的に喧嘩に勝ったスライムは石を体に沈め食べようとしたが、何時まで立っても溶けない石が食べ物では無いことに気付いたのか、何処か寂しげな背中でノロノロと別の方向へと移動して行った。彼奴ら、ちょっと可愛いぞ。
この検証から奴らは音を聞いているのでは、と思ったが、奴らに耳があるのか?と聞かれれば、それには疑問が生じた。
確かに奴らは「音」に反応した。だが、それならば何故奴らは「石」と「果実」の音の違いが分から無いのだろうか?
少し離れた位置でも分かるくらいには音が違った。もし耳が聞こえるとして「ドンッ」と「ガンッ」音の違いは分かるだろう。
だが、奴らには音の違いが分かっていなかった。つまり、奴らが認識しているのは、「音」では無く「振動」だ。
それに気づいてからはスライムを回避するのは簡単だった。何せ、遠くから手頃な石を投げれば、ほとんどのスライムが落ちた石の元へと寄っていってくれるのだから。
……しかし、足音の振動が伝わればどうなるか分かったものでは無いので、それなりに神経は使ったが。動きを見る限り、補足されても逃げ切る事は出来そうだが、逃げている最中に別の生き物に襲われないとは限らないからな。
「一応、食料は確保出来たから後は水だな」
次の収穫は先程、スライムが食べていた果実である。見た目は拳より大きなザクロではあるが、色はや皮の表面の食感は梨に近く、匂いは林檎に彷彿とさせる。皮を剥いてみると、蜜柑のように実が分かれている。脳がバグりそうだ。
一時間ほど前に小指の爪ほど食べて見たが、今の所腹を下してはいない。
「これだけあれば、今日の夜と朝はなんとかなるだろ」
無理くりポケットに突っ込んだ五つの実をポンポンと叩いた俺は、だいぶ乾いてきた喉を少しでも潤す為に、実をひとつ取り出して皮を剥く。
「甘いな」
食感は蜜柑の癖に味はリンゴとか、中々に意味が分からないが、水分量が非常に多く、喉が渇いた今の俺にはうってつけだ。……この体積の何処にここまでの果汁が詰まっているというのか。
……だが、あくまでその場凌ぎにしかならない。こんなもので脱水症状という最悪の事態から逃れるのは難しいだろう。
「さて……」
眼前に広がる、得体の知れない森を見据えて、俺は軽く体のストレッチを行う。もう従前にほぐれ切っては居るが、長時間の移動で足に多少の疲労が溜まっている。もしも熊に遭遇した時に足がつりでもしたら、内蔵をむしゃむしゃされる未来へとたどり着いてしまうことだろう。
Q.『ラインの森』へ入りますか?
《YES》 《NO》
自分のあまりにも情けなさすぎる死に様を想像しながら、一人笑っていると、目の前に半透明な青い板が現れる。いきなりの出来事に、思わず拳が出てしまったが、触れることは叶わなかった。
「こんなにハッキリ見えてるのに、触れないのか」
目の前で起きている非現実な現象を何とかして暴いてみたくなったが、今はそんなことをしている場合では無い。いつの日か、あの『Black』とやらに何とかしてやり返す(方法は考えていない)するその時まで、俺は野垂れ死ぬ訳には行かない。
あんなに巧妙に俺の事を謀ったのだ。奴は絶対に許しては行けない。
※草
「……」
選択肢の横にピョコンっと現れた、一回り小さな青い板に書かれた白い文字を見て、頬がヒクリと動く。
安全な場所からこの俺をおちょくるとは、とことん気に食わない野郎である。お前程度、俺が部屋にまで押しかければ、俺の豊かなボキャブラリーと、それを育むに至った広〇苑で心身共にボコボコにしてやると言うの_______
Q.
《YES》 《NO》
「
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