初夏の俺

梅雨も終わり、初夏がやってきた。


「暑い…」


講義が終わり午後4時。

今日はもうやることがないから家でアイスでも食べよう。

そしてゲームしてご飯食べて寝る。

うん、これがいい。


「おーい!」


後ろから大きな声で誰かを呼ぶ声がする。

だが、俺でないことはたしかだ。

今日は男友達は全員さぼりで休んでるはず。


「おーい!どうして無視するんかなぁ!」


知らない。

俺は知らない。

大学内でこんな暑苦しい日に声をかけてくる人なんて知らない。


「ほい、捕まえた。」

「いやぁ!人違いですぅ!」

「いや、なに言うてんねん。うちや、うち。」

「俺の知り合いにうちなんて人はいません。だから人違いです。」

「うちうち詐欺とちゃうねん!明莉や!あ!か!り!」

「あ、明莉か。」

「気づいとったやろ!バカ!あほ!」


なんていつもの冗談。

そう、いつもの冗談だった。

だがここは大学の敷地内。

俺と明莉が仲良いことを知ってるのは少人数なのでこの冗談は大学内のみんなはあまりしらない。

周りが少しザワついている。


「明莉、ちょっとここから離れようか。」

「なんで?」

「いいから、早く!」


***


「「はぁ、はぁ…」」


2人で走って大学から1番近いコンビニへ来た。


「なんなん?急に走って。」

「いやいや、周りの目を見ーや!明莉は大学内の男子から結構モテてるんやぞ!」

「やっぱり?って今はそれ関係ない!」

「あるわ!男子から人気の明莉が俺と仲良くしてたら俺が何もんかとか噂になるやろ!」

「…それはそうかも。」

「わかったか?話をするのはいいけどいつも通り話してたら勘違いされるぞ?」


「…君となら勘違いされてもいいんやけどな。」


明莉は俺に聞こえないような声でなにかボソッと言った。


「なんか言ったか?」

「べつに、なんもないしー。」

「…今日家来るか?来るならここでアイス買ってから行こうぜ。」

「…せやな。買っていこか。」


いつもより少し元気のない返事。

ちょっと強く言いすぎてしまったか?

でも俺と付き合ってるなんてみんなに勘違いされると明莉が大変なことになりそうだ。

裏でこそこそ言われることだって増えるだろうし。


「君は…うちのことどう思ってるん?」


明莉が唐突に言い出した。

ドウオモッテルン?

つまり明莉をどう見てるかってことだよな?


「んー…なんだ?ゲーム友達?心許せる仲間?」

「ふーん。」

「あ!女友達で1番仲良くて信頼できるパートナーやな!」

「……ふーん、まぁ、それでええわ。」


明莉は俺の顔から視線を逸らした。

なぜか耳まで真っ赤になってるがきっとこの暑さにやられたんだろう。

俺も少し顔が暑いような気がする。

夏は始まったばかり。

俺たちの顔が赤くなってるのもきっとこの夏のせいなんだ。

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