梅雨の僕

五月下旬、今年はいつもより少し早い梅雨入りだそうな。

外を見ると雨がザーザー降っていた。

そして今日は花の金曜日。

大学から帰ってきた僕は一人ゲームをする…予定だった。


「それじゃあ、行こうか。」

「…はい。」


僕は悠星と傘をさしながらいつものバイト先のあるモールへと向かっていった。

なんでこうなったんだっけ?


さかのぼること2時間前。


『やぁ、今日の調子はどうだい?』

『あの、悠星さん?みんながこっちに注目してるんですけど?』


なぜみんながこっちを見ているか。

それは悠星がこの大学で人気者で僕がみんなの目にも止まらないような人だからだ。

僕たち二人が話しているのがみんなには異様な光景だったらしい。


『そんなことはどうでもいい。僕は君を変えたいんだ。野ブt…オタクをプロデュースだ!』

『う、うん、わかったからあんまり多き声出さないで!恥ずかしいよ!』

『じゃあ、早速この後の講義が終わったたらまたここに集合だ。』


で現在に至る…


「それで僕を変えるって具体的には?」

「まずは見た目、そして中身だ。」

「中身からじゃないんや。」

「中身は今までにしみついてしまってるからね。あ、完全に変えるわけじゃないよ。ポジティブになろって話ね。」

「ほう。」


かなり考えてくれているようだ。

そんな彼のために頑張ってみよう!

…と思った時期が私にもありました。


「あの、悠星さん?これは…」


遊星はバイト先でたくさんの服を持ってきた。

店長はいいって言ってくれてるけど他のお客さんも…って今日そんなに入ってないか。


「とりあえず君に合うぴったりの服を一着用意するんだ。特別な日はそれを着よう。たとえば明莉さんに話しかけると決めた日とかね。」

「なるほど?」

「見た目を変えると自然に自信がつくということもあるらしい。だから見た目からということもあるんだ。」


それから何着も服を着て確認した。

そしてついに…


「この服いいかも…」

「どうやら決まったようだね。」

「お?決まったか?」

「あ、店長。どうでしょうか?」

「おお、いいんじゃね?あとは背筋しっかり伸ばしてな!」

「はい!」


***


服が決まり僕たちはフードコートエリアで次の作戦会議をしていた。


「それでポジティブになるって具体的にどんな感じなの?」

「そうだね、とりあえず簡単なことからでいいんだ。例えば今日、野田さんを見かけたとか。虹を見たとかね。」

「そんなことでいいの?」

「そんなことでいいんだ。なんでも前向きな気持ちが大事だからね。」


なんとなくわかってきた。

身なりで自分を自信をわかせて、ポジティブな考えの練習をすることでそれを日常に落とし込もうということか。


「ありがとう!なんとなくわかってきたわ!」

「なに、これは君の物語だよ。主人公は君で僕はその主人公のサポート役さ。」


とても面白い例え方だった。

主人公か。

今まで自分のことそう思ったことなかったな。

今はまだかっこいい主人公じゃないけどいつかなれるといいな。

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