第12話 好きな子
二人の距離が少し縮んだ気がして、かじかは少し戸惑っていた。
別に手を繋いだりするわけじゃない。
ただ一緒にいて話をしているだけ。
二人で楽しい時間を過ごしているだけ。
これからランチを一緒にするわけだが、以前と比べてかじかにとっても特別になっている。
席についてから携帯電話に目を落としていると傍に誰か立っている気配がした。
ふと視線を上げると綺麗な女の子が立っている。
『ええと?』
かじかが驚いて声をかけると綺麗な顔のその子は眉をひそめた。
『ねえ、優雨と付き合ってんの?』
『え?』
かじかの言葉に彼女の目がつり上がる。
そばの椅子に座るとかじかの顔を覗きこんだ。
『付き合ってないなら、こうやって会うの止めてくんない?優雨、最近デートも断ってくる。私のほうが先に好きになったんだから。』
『・・・あ、友達だから。』
『友達だったら、なおさら止めて。』
『あの。』
かじかの手を掴んだ彼女の手は綺麗なネイルだ。
華奢で細い指輪が似合っている。
『本当に・・・お願い。好きじゃないなら止めて。』
綺麗な顔に大きな瞳が揺れている。
かじかは困ってうつむくしか出来なかった。
『ごめんなさい・・・。』
彼女の手を外して鞄を持つと頭を下げた。
『・・・約束はできないけど・・・迷惑はかけないから。』
席を立ってカフェを出る。
足早に駆け出すとその場から逃げ出した。
綺麗な女の子。
葉月の隣に並べば絵になるだろう。
たまらなくなって逃げ出してきたけど、鞄の底のほうで携帯電話が鳴っている。多分葉月だろう。
さっきの彼女の泣きそうな瞳が忘れられずに、鞄を開けられなかった。
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