第9話 間接キス

時々見せる葉月の優しい顔が困る。


意識してなかったけど、あんな顔されたら恋人じゃないのにそんな気分になってしまう。


待ち合わせの時間までもう少しある。

早めに来てしまった自分が恥ずかしい。


どうやら浮かれている感じがして、傍のカフェでドリンクを買うと待ち合わせ場所に戻る。


冷たいカップが指先を冷やしていく。

頭を冷やすには丁度心地いい。


道の向こうから葉月が歩いてくるとすれ違う女の子たちが彼に振り返った。

葉月は前しか見ておらず周りの視線など関係ないらしい。


『待った?』


一見チャラいこのイケメンはサングラスをずらして笑ってみせる。


『待ってない。ドリンク飲んでたし。』

『ああ、俺も飲みたい。』


『買いに行く?』

『いや、いい。』


葉月は手を伸ばすとドリンクのストローを銜えた。

葉月の髪がかじかの頬に触れて甘い匂いが鼻を掠める。


『うーん、甘い。うまい。うん?』


急な接近にかじかの心臓がドッと走り出していた。

ぎゅっと目を瞑り顔を背ける。


『どうした?』

『なんでもない。』


『うん?』


葉月が顔を覗きこむので手に持っていたドリンクを葉月に押し付けた。


『ほら、飲みなよ。美味しいよ?』

『ああ、ありがと。』


何、これ?だって葉月は友達じゃない。

おかしいよ、こんなの。


隣を歩く葉月を見上げる。

サングラスを外した顔はいつもどおりでかじかの視線に気付くと優しく笑った。

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