第5話 彼氏

撮影のたびに葉月はかじかを誘う。

遅くなるときは必ず送ってくれる。


けして送り狼にはならない葉月はかじかにとって良い友達・・・なんだろうか?


二人で会う時間が多くなっていても嫌な気はしない。


でも葉月といると感情が複雑になってくる。


前の彼氏と比べたら圧倒的で、思い出すことすら無駄な時間だ。

そんなことを葉月に零したら彼は笑っていた。


『そんな奴、さっさと忘れちゃえよ。』


海にカメラを向けて葉月は言う。


『俺がいるんだし、忘れちゃえよ。新しい恋見つけたほうがいいよ。』

『簡単に言うなあ・・・。』


かじかがぼやくと葉月が笑う。


『当たり前じゃん。忘れたほうがいいからな。』

『・・・それって友達として言ってんの?』


かじかが投げた言葉が波に消えた。

葉月はただカメラを覗いている。


何度目かの波が打ち寄せて葉月の足元を濡らしては消えた。


何か囁くような声が聞こえた気がして、かじかは視線を上げたが、葉月は相変わらずカメラを構えたままだ。


違うのは時々こちらを向いているだけで。


『撮ってんの?』

『いいや、撮ってない。撮ってもいいなら撮るけど。』


『あー、それは無理。写真は好きじゃない。』

『ん?かじかは映像専攻だっけ?』


『・・・まあね。作るのは好きだけどさ、なんかね。』

『うん?自分に自信ないの?』


いきなり図星をつかれてかじかは苦笑した。


『うっわ。そう、美人でもないし、ほら背が高いからさ・・・。』


かじかは175センチ近くある。

普通の女の子と比べると背が飛びぬけている。

おかげでヒールも選んだことがないし、流行の可愛い服も着た事がない。


『そう?』


葉月はかじかの傍に立つと片手で頭に触れた。


『俺はかじかよりもでかいから、気にすることないんじゃないの?』


頭一つ分背の高い葉月。

話しているとき少し目線が高いのは少し新鮮だ。


『それに美人じゃないなんて誰が言ったんだよ?お前は自分を知らないだけだよ。』


誰もが振り向く男に言われてもと、かじかが苦笑すると葉月はかじかのおでこをつついた。


『何でそんな顔すんの?本当・・・そういうのはよくないぜ。』

『・・・うん。心に留めておく。』


かじかの心無い返事に葉月は小さく溜息を付くと、かじかの前髪を指先で跳ねた。

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