第三章 殺人鬼の影 4
「なんだか物騒なことになって来たね、合宿大丈夫かな」
鈴が夕香に話しかける。
「強姦殺人魔か、危険な雰囲気がプンプンするね。しかも同じ街で起きてるし、こりゃ気をつけなきゃいけないかもよ」
いつもは冗談で受け流す夕香が、今夜はなぜか真面目な顔で応える。
「健一たちが夜警をしてくれることになったけど、なにせ相手は殺人犯だからさ。そこらの不良の喧嘩みたいにはいかないわ、なにも起きなきゃいいけど──」
「やだ夕香ったら、怖がらせないでよ」
鈴が夕香の腕をつかむ。
「あはは、ごめんごめん冗談よ。こんなに大人数なんだもん、向うだって下手に手出しできないって。単独行動さえ取らなきゃどうって事ないよ、安心しな」
夕香は笑っているが、鈴は妙な胸騒ぎがして笑う気にはなれずにいた。
「おいみんな、今日の風呂はちょっと大人数になるが、二班に分かれて行くことにする。第一班は麗子先生と住職の了海さんが同行してくれる。第二班は俺が引率する、先に行きたい者はすぐに準備をしろ、十分後に出発だ」
晃彦が声を掛ける。
「さあみんな、わたしと一緒に行く人は誰かな。八人選んでちょうだい」
麗子の元に、すぐさま生徒たちが集まる。
「なるべく早い時間がいい、遅くなると怖いもん」
「強姦殺人犯でしょ、気持ちわるーい」
口々にぶつぶつ言いながら、洗面道具を手に持っている。
「じゃあぼくは男子に声を掛けて来ます、十分後に境内で集まりましょう」
そう言って晃彦が本堂から出て行った。
その夜はみんなの心配をよそに、寺ではなにごとも起こらずに朝を迎えた。
しかし町では第二の殺人事件が発生していた。
早朝五時前に、海岸沿いの地域はけたたましいサイレン音に包まれた。
砂浜の片隅にある掘っ立て小屋で、少女の遺体が発見されたのだ。
地元の学校に通う高校二年生の少女で、強姦されたうえで首を絞められ殺害されていた。
浜を見回っていた、漁業組合の人間が発見したのだという。
サイレンの音で目覚めた生徒たちは、何ごとが起きたのかとみな海岸まで降りて行った。
辺りには十台近いパトカーが、赤いランプをチカチカさせながら停まっていた。
まだ遺体はその場にあるようで、掘っ立て小屋の周りは青いビニールシートで厳重に囲まれている。
一台の救急車が小屋の直近まで来て停車する。
中からシートに包まれた何かが、警官たちによって運び出され救急車に乗せられる。
そのシートに縋りつくように中年の女性が泣き叫んでいた。
その女性を抱きかかえるようにして、同年代の男性が寄り添っている。
多分被害に遭った女子高生のご両親なのだろう。
「マジやばくない? こんな近くで事件が起きるなんて、怖くて出歩けないわ」
「昼間だって集団行動しなきゃ、どこにも行けやしない。早く犯人捕まらないかしら」
そんな光景を目の当たりにして、女子生徒たちはみな顔を真っ青にして震えている。
中には泣き出す者もいた。
「やっぱよ、俺たちも今夜から夜警に参加しようぜ。女子たちになんかあったら大変だからな。バットとか鉄パイプも探しとこう、素手じゃ怖ええよ」
「そうだな。岡部くんたちだけに負担はかけられねえ、俺も参加するよ」
「なあに、相手がいくら凶暴でもこっちは数がいるんだ、負けやしねえさ」
男子生徒は口々に、今夜からの夜警の参加に言及している。
三十人以上の若者の集団に向かって、二名の私服刑事らしい恰好の人物が近づいて来る。
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