第16話歯車の大きなパーツ
現在大型商業施設の家電売場にて僕はミカと爻の為にプレゼントを購入していた。
今回は前回とは違い少しだけ重量のあるものを購入していたため珍しく車を運転して赴いたのだ。
商品を購入して車に運ぶとその足で歌穂の家へと急いでいた。
前回の店休日から一週間が経過していたが水野彩は完全に戦力へと進化していた。
彼女の存在は僕にとってかなり助かるものだった。
「何処かに行くんですか…?」
身支度を整えていると水野彩は僕に寂しそうな表情を浮かべてメモ用紙を見せてくる。
僕の心は何処か少しだけ傷んでいるようだった。
それに気付かないふりをしながら…
僕は気まずそうに苦笑の表情を浮かべて言い訳のような言葉を口にした。
「幼馴染家族と会ってくる。家に残して行くけど…好きに過ごしていて…」
僕の言葉に彼女は少しだけ拗ねるような困ったような表情を浮かべてメモ用紙に再び何かを書き記している。
「今日中に帰ってきますよね?」
それに僕は大きく頷くと…
「ちゃんと帰ってくるよ」
そんな言葉を口にして柔和な笑みを浮かべると僕は完璧に身支度を整えて家を後にするのであった。
そして冒頭に戻り…。
歌穂の家へと向かう道中である。
大きな荷物を後部座席に乗せながら僕は歌穂の家を目指すのであった。
彼女の家に到着すると僕はインターホンを押す。
モニターで僕を確認したであろう彼女らは喜び勇んで玄関のドアを開ける。
「待っていたよ!」
爻が満面の笑みを浮かべて僕の下まで駆け寄ってくる。
その後ろからミカも同じ様な表情で向かってきていた。
一番後ろから歌穂が何処か気まずそうな表情を浮かべてやってくる。
「久しぶりだね。プレゼント買ってきたよ」
そんな言葉を口にすると各々にプレゼントを渡していった。
「待って…!パソコンじゃない!?」
ミカは箱だけで理解したようで僕は微笑んで頷いた。
「ありがとう!大事に使う!」
「あぁ。部屋まで運ぶよ。セッティングも手伝う」
「セッティングは自分でやりたい」
「分かった。わからないことがあったら聞いて」
ミカはそれに頷いて応えるので僕は彼女の部屋まで荷物を運ぶ。
爻には新しいゲームソフトを数本買ってあげていた。
「じゃあ約束通り…これ…」
爻は僕の為に描いてくれた絵を手渡してくれる。
それを眺めて僕は言葉を失いかけていた。
「上手すぎない?」
表情が固まっている僕に爻は少しだけ照れくさそうな表情を浮かべていた。
「ありがとう…頑張ったんだ」
「そっか。ありがとう」
「こちらこそ…ありがとう」
そんな感謝の言葉を交わしあうと爻は自室へと駆け足で向かっていった。
最後に残された歌穂に僕は少しだけ気まずい雰囲気を感じ取りながら口を開く。
「随分久しぶりになってごめん」
「そんな…仕事だったんでしょ?」
「そうだね…」
何処か後ろめたいような思いに駆られている僕は言葉に詰まりながら彼女にプレゼントを渡していた。
「良かったら…受け取ってよ」
僕からのプレゼントの包装を開けた歌穂は驚いたような表情を浮かべている。
「毎回ごめんね…そんなつもりじゃないんだけど…」
「いえいえ。歌穂ちゃんが好きそうな香りだと思って…気に入った?」
「うん。凄く気に入った。ありがとう」
僕は事前に彼女が好きそうな香水をネットでいくつか購入していた。
どうして彼女が好きそうな香りが分かっていたかと言えば…
端的に過去の事を思い出していたのと…
再会してから何度か会う内に彼女の使っている香水の系統が理解できていたのだ。
それ故に同じ様な香りの香水をいくつか購入していたのだ。
喜んでもらえたのであれば…それは幸いだ。
「中入ってよ。食事にしよう」
歌穂からの誘いに乗るように家の中に入ると僕らは昼食を頂くのであった。
そこから数時間ほど子供たちと遊んだり歌穂と世間話をして過ごしていた。
しかしながら時計の針が十七時を指した辺りで僕は席を立って別れの挨拶をした。
「もう帰るの?」
寂しそうに伝えてくる三人に僕は少しだけ表情を崩してごまかすような言葉を口にしてやり過ごす。
「うん。新メニューを考えないといけないんだ。また今度ね」
僕の言葉に彼ら彼女らは納得してくれたようで何度か頷いていた。
「じゃあまた」
別れの言葉を口にして僕は帰路に就く。
安全運転で…しかしながらなるべく急いで帰宅するのであった。
帰宅すると水野彩は夕飯を作って待っていた。
「ただいま」
僕の帰宅の挨拶に彼女は綻ぶような笑顔を向けてくる。
「おかえり」
予め用意していたであろうメモ用紙を見て僕の表情も綻んでいく。
「夕飯作ってくれたの?」
僕の問いかけに彼女は嬉しそうに大きく頷く。
その表情を見て僕は嬉しくなってしまう。
二人でリビングに向かうとお酒を嗜みながら本日も二人きりの夜を過ごしていくのであった。
本日も確実に自らの成長に繋がるであろうアフレコを終えたケイは充実感に包まれながら帰路に就いていた。
そう言えば…と店長のことが不意に気になってしまう。
彼は今、誰と何処で過ごしているのだろうか。
何を思って何をしているのだろうか。
そんな事を思いながら帰宅していた。
不意にスマホに通知が届いて私はすぐにポケットからそれを取り出した。
「仕事はどう?順調?」
相手は青空だった。
私はいつものようにチャットに返事をして仲良しなやり取りをして過ごしていた。
「青空は?ショーの方はどう?」
「うん。作業時間にかなり時間を取られているよ。頑張っている」
「そう。先輩とは上手くやれてる?」
「もちろん。皆優しいからね」
「そっか。成功すると良いね」
「ケイもね」
「うん。店長とは最近会ってる?」
「まぁ…バイトの時だけね。なんか最近は忙しいみたいで」
「あぁ…水野さん関係?」
「そうそう。
私達が両方バイトに出られない時は水野さんがホールを手伝ってくれているみたいで…」
「そうなんだ…私達…このままフェードアウトするのかも…」
「どうして?」
「だって二人共…本職の方が順調だし…」
「あぁ…そうなるかもね…」
「とにかく…早くどうにかしないと…」
「どうにもならないかもよ…」
「その時はその時で…しっかり身を引こう…」
「それでいいの?」
「仕方ないじゃない…」
私達はそこでチャットを終えると各々の帰路に就いて…
これからのことをしっかりと考えるのであった。
歯車の部品ががいくつか欠けようとしている…
しかしながらそれでも歯車は順調以上に回り続ける。
新たな大きなパーツの存在が大きく影響している。
私達はまだ知らない。
一の心が完全に一人に傾きつつあることを…
今後どうなるか…
まだ私達も知らないのであった。
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