第8話横並びのリスタート
大人の男性と言うのはある程度の年齢の女性からしたら魅力的に映るだろう。
もちろん歳上に興味ないと強がりを言う人も居るかも知れない。
ある程度の男性にとって歳上の女性が魅力的に映るように…。
歳上の異性と言うのは魅力的なのである。
そんな前置きを吹き飛ばすように…本題は始まるのであった。
本日バイトであるケイは少しだけ気まずい空気を察しながら店の裏口のドアを開いた。
「おはようございます…」
少しだけ元気のない挨拶をして店内に入ると店長は換気扇の下でタバコを吸っていた。
「おはよう。もう来ないかと思ったよ」
「ですか…来て迷惑ですか?」
「全然。しっかりと働いてくれるなら…迷惑なんて無いよ」
「良かったです。私達少しだけやりすぎたんで…暴走していました」
「そっか。自ら気付けたのなら良かったよ」
「はい。ご迷惑おかけしました」
「いえいえ。以前と同じ様に頼むね」
「はい。ありがとうございます」
そうしてケイと店長である一は以前の様な関係へと戻っていくのであった。
仕事を終えた僕は一人きりの店内でタバコに火を付けている。
ふぅと煙を吐くと今までのことを振り返っていた。
アルバイトの彼女らに好かれる心当たりは自分にはない。
ただし歳上の異性が魅力的に映ることを僕も知っている。
明確な理由など無く僕を単純に歳上の異性として好いているのだろう。
そんなどうしよもない事を考えながら根本までタバコを吸い続ける。
不意にスマホが鳴って僕はポケットからそれを取り出した。
画面には仁の名前が表記されていた。
「おつかれ。この間はありがとうな」
僕の第一声に仁は少しだけ疲れたような声を出して乾いた笑い声を上げる。
「ははっ。僕はまるで役に立たなかったけどね」
「そんなことは…」
「いやいや。あのバイトの娘は冷静だったよ。僕らの嘘も見破られた」
「そうだね…でも仁や歌穂ちゃんのせいじゃないよ。
嘘を付くにしては僕の準備不足だった」
「もう嘘はやめたほうが良い。しっかりと向き合ってあげな。
かなり一の事を想っているようだった。
正面から向き合ってあげないと可哀想だ」
「だけど…相手は十個も下だぞ?」
「大した問題じゃない。あと十年後のことを想像してみろ。
大した問題じゃないだろ?」
「まぁ…そうかもしれないが…」
「とにかく僕はもう嘘には加担しないよ。彼女らが可哀想だから」
「分かった。今回は申し訳なかった。今度何か埋め合わせをする」
「この間の会計を後で全額奢ってくれただろ?
それでチャラだ」
「そうかもしれないが…何か無いのか?」
「今は無いから貸しってことにしてくれないか?」
「あぁ。分かった。今仕事帰りか?」
「そう。帰り道を歩いているところ」
「僕もこれから帰るところだ。お互い大変だな」
「仕方ないさ。生きていくためだからな」
「そうだな。困ったことがあったらいつでも言ってくれ」
「あぁ。ありがとう。じゃあまた」
そこで僕らは電話を切ると僕も店の裏口から出ていく。
しっかりと施錠をすると僕も帰路に就くのであった。
「ミカと爻が会いたがっているよ。次の店休日に会えない?」
歌穂からのチャットに僕は心を踊らせているのだが…
「用事を済ませてからなら…それでも良い?」
「もちろん。私の家に来ない?
食事を用意して待っているから」
「わかった。何か買って行くから」
「ありがとう。じゃあまた」
そこで連絡を終えると僕は本日も仕事に向かう。
裏口のドアを開いて仕込みの支度に取り掛かった。
一人で黙々と仕込みをすること数時間が経ったころだ。
裏口のドアが開いて…
「おはようございます」
青空が厨房に入ってくるといつも通り挨拶をする。
タバコを咥えながら換気扇の下でぼぉーっとしていた僕に思わず苦笑しているようだった。
「体に悪いですよ」
そんな他愛のない言葉を口にした青空はその足で事務所へと向かう。
僕はタバコの火を消すとそのまま灰皿に捨てる。
開店準備の手伝いをしていると彼女は着替えを済ませて店内へとやってくる。
「次の店休日なんですけど…」
青空の唐突な言葉に僕は頷き笑顔で迎えた。
「分かっている。会えないかって話でしょ?」
「そうです…なんで分かったんですか?」
「まぁ。君達の立場になってみたらね…理解できるよ」
「そうですか…それで…どうでしょう?」
「あぁ。良いよ。夜になるまでで良いのなら」
「夜は予定ありですか?」
「そうだね。この間の女性の家に行ってくる」
「交際するつもりですか?」
「どうだろう。相手にその気があるかは…まだわからないから」
「気がないわけ無いですよ。家に誘ってくるだなんて…」
「まぁ何も無いよ。子供も居ることだし」
「ですか…」
「大丈夫。交際するまでは誰ともそういうことはしないよ」
「それなら安心…です…」
そこで僕らの会話は一度中断される。
開店作業をしっかりと整えると本日も仕事に向かうのであった。
後日。
僕と青空とケイは昼過ぎから街の喫茶店を訪れていた。
他愛のない会話を繰り返しながらお互いの好感度を上げるように過ごしていた。
心地の悪くない時間が過ぎていく。
僕は何を意固地になっていたのだろうか。
十個下の女性だとしても…
彼女らを無下にする理由など無かったのだ。
僕は少しだけ晴れやかな気持ちになるとフラットな気持ちで向き合うことが出来た。
「店長とまた普通に話が出来て…良かったです」
ケイは少しだけ気まずい空気を醸し出しながら…
そんな言葉を口にして笑顔を向けてくる。
「そうだね。僕もまた普通に話せて良かったって思うよ」
「まぁまぁ。これからも色々とあるでしょうけど…仲良くしてください」
「あぁ。僕もそうしたいよ」
そうして時間が流れていくと夕方が訪れてくる。
僕は彼女らと別れると街のデパートへと向かう。
二人の欲しがっている物を想像しながら僕は歌穂の家へと向かうのであった。
「こんばんは。お邪魔します」
歌穂の家に入っていくと彼女らに挨拶をする。
「ミカちゃんが欲しがっていた配信機材なんだけど…
今日は重たいものを持ってこられなかったからマイクで良い?」
「え!私まだ成績を残せていないけど!?」
「今までの分ってことで」
「ありがとう!やったぁ!お母さん!爻!見て!見て!」
「良かったわね」
歌穂はミカの頭を撫でて彼女も年相応な表情を浮かべていた。
僕はそれを目にして素直に嬉しく思う。
「爻くんは何が欲しいかわからなかったんだ。
子供っぽいかもしれないけど…
ゲーム機とソフトを買ってきたよ」
「うそ…!なんで欲しいもの分かったの!?
それに僕もまだ何もしてないよ!?」
「もちろんこの前のお礼も込みだよ。
無理な演技をさせて悪かったね」
「いや…一さんの為だし…僕らのためでもあるから…
でもありがとう!」
爻も嬉しそうに笑うとプレゼントを手にしてリビングへと駆け出した。
「本当に何から何まで…」
「歌穂ちゃんにもプレゼントがあるんだけど…」
「え?嘘でしょ?」
「ホント。これどうぞ」
僕は鞄から鉢植えを取り出すと彼女に手渡した。
「キレイな花ね。でもどうして?」
「母の日にはカーネーションを贈るでしょ?
そんな感じ。
いつもお疲れ様って気持ちを込めて…迷惑だった?」
「いやいや!本当に嬉しいよ!ありがとう!」
それに頷いて答えると僕はリビンへと通される。
そこには豪勢な食事が用意されている。
僕と歌穂は席についてお酒を片手に夕食いただこうとしていた。
ミカと爻はプレゼントの封を開けて未だに嬉しそうにはしゃいでいた。
「本当にありがとうね。じゃあ乾杯」
そうして僕らは夜中になるまで騒がしく幸せな一日を過ごすのであった。
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