第6話押しては引け…!引いては押せ…!
歌穂とミカと爻が僕を助けてくれてマンションの中へと案内した日のことだった。
時刻は深夜二時になると言うのに姉弟は眠りにつこうとしない。
「ミカちゃん。爻くん。眠くないの?」
僕の問に姉弟は首を左右に振って応えた。
「それよりも…さっきのはお店のバイトの子?」
歌穂は答えを言い当てると僕はそれに静かに頷いて応える。
「バイトはあと何人居るの?」
ミカは子どもとは思えない顔つきで僕に問いかけるので少し苦笑して指を一本立てた。
「女性?」
爻も気掛かりな様で続けて質問をしてくる。
それに同意するように頷くと彼ら彼女らは困ったような表情を浮かべている。
「どっちにも狙われているでしょ?」
歌穂からの唐突な言葉に僕は苦笑交じりな表情で首を傾げた。
「わからない。自分に好意を向けてくる相手のことが一番わからないから…」
「そうなんだ…確かにそうかもね。昔からそうだったし…」
「え?そうだった?」
「そうだよ…」
そこで僕らは少しだけ気まずいような雰囲気に包まれてしまうのだが…
その均衡を破ったのは姉弟二人だった。
「狙われているなら対策を考えないと」
ミカの言葉を受けて爻は思考を回しアイディアを捻り出しているようだった。
「明日お店に行くときに…仁くんを旦那の代わりに使うのはどう?」
歌穂からの提案に僕は少しだけ頭を悩ませていたが…
「とりあえず…聞いてみようと思うよ」
「仁くんとはまだ付き合いあるでしょ?」
「あるよ。僕と歌穂ちゃんのお願いなら快く承諾してくれると思うよ」
笑顔でそんな言葉を口にしてスマホを取り出していた。
友人である仁にことのあらましを端的にチャットで送ると…
「おつかれ。さっき残業終わったところ。
明日は休みだから予定も丁度空いているよ。
俺で良かったら手伝う」
「すまないけど…上手に事を運びたいから…今から来れる?」
「何処に向かえば良い?」
そうして僕は仁に自宅の住所を送るのであった。
その日に僕らは計画を練って…
再び夜が訪れた店内で計画を実行をしていた。
アルバイトの青空は案の定引っかかってくれたようで…
僕らの関係を深堀りするのをやめたようだった。
仁の存在のお陰で彼女はもう何も悩まないで済んだらしい。
開店作業中にいくつか危ういと思った場面はあったのだが…
どうやら僕らはどうにか切り抜けたのだ。
そう確信していた…
だが…
僕らに安堵する時間が与えられたのはほんの一瞬。
束の間のことだった。
バイトを終えた青空に僕は衝撃的な事実を口にされる。
僕らが本日していたことが全てバレていたということだ。
これで僕は嘘を塗り固めた事がバレてしまい。
これからは嘘ではない事実を語らなければならない状況が出来上がっている。
しかしながらこれはもう僕の問題なので他の人達を巻き込めない。
散々巻き込んでおきながらどの口が言うか…
自分でもそう思う。
しかしながらここからは僕だけの問題というように彼女ら親子や友人である仁には感謝の言葉だけを告げる。
そして店休日である平日がやってきて…
僕は現在自宅で彼女らのことを待っていた。
自宅の住所を送り部屋番号を伝えた。
しばらくするとチャイムが鳴り響き…
僕はケイと青空を家に迎えるのであった。
「どうしてあんな嘘を?」
ケイの直球に僕はどう答えるべきか考えていた。
キッチンでコーヒーを淹れていると彼女らはリビングのソファに腰掛けていた。
「どうして…そうだな。
バイトの君達に期待を持たせるようなことはしたくないんだよ。
それに僕のプライベートの話だからね。
二人には関わってほしくないと言うか…
僕らはあくまで店主と店員の関係でしょ?
それ以上になることは無いと思うんだ。
だから期待して欲しくない。
そんなわけで無為に傷つける必要もないから…嘘をついた。
それは本当に申し訳ない。
逆に傷つけたのであれば本気で謝罪する。
ごめんなさい」
長くなったがしっかりと謝罪の言葉を口にして彼女らの席の前にコーヒーを差し出した。
「じゃああの女性とは何も無いんですね?」
青空からの質問に僕は苦笑の表情で何度と無く頷く。
「今のところは何も無いよ。でも過去に好きだった人っていうのは本当だよ」
「でも相手は既婚者では?」
「いいや。この間、別れたばかりだよ」
「別れたばかりの相手の弱みにつけ込んでいるんですか?」
「そういうわけじゃないけど」
「でも結果的にそう見えますよ?」
「そうだね。でも今でも恋心があるんだ。忘れられない」
「そんな…絶対に十代の私達のほうが良いじゃないですか」
「どうして?僕は君達に恋愛感情を抱かないと思うよ。
価値観がまるで違うから…」
「そんなことは…」
青空と僕が二人で会話をしているとケイが途中で話に割って入った。
「それは嘘。この間キスした時…確実に狼狽していた」
「それは…いきなりあんなことされたら…誰でもそうなるでしょ?」
「いきなりじゃなかったら?」
「どういうこと?」
「今…したいって言ったら冷静に対処できるんですよね?」
「いやいや。待ってよ。そういうことじゃない。僕にその気は無いって」
「でも…迫ったら…」
「それって強◯じゃない?」
「………」
僕とケイの話は平行線で進んでいた。
青空は話を聞いてウンウンと頷いている。
僕らは話の落とし所がわからずに困っていることだろう。
「じゃあ別に私達と同棲しても何も起きないんですよね?」
「ん?しないけどね。起きないよ」
「なんでしてくれないんですか?」
「なんでしないといけないの?僕だって自由で一人の時間が必要だから」
「そんなこと言っていると…本当に結婚できないですよ?」
「まぁ。興味ないからね」
「だから…言霊ってありますよ。嘘でも興味あるって言わないと…」
「いやいや。そんな事を言って…君達に期待をもたせたくないから…」
「そんなに私達って迷惑ですか?」
「まぁ…こんなことされると迷惑だね」
「ですか…じゃあもう少し攻め方変えますね。
私達が大人になれば良いんですよね?」
「良いっていうか…良くわからないけど…」
「とにかく…
今回の嘘の償いはここに無理に訪問したってことでチャラにします」
青空はそんな言葉を口にするとケイの腕を引っ張って玄関へと向かった。
「じゃあ店長。またお店で。次会った時は普通のバイトと店長でありましょう」
僕はそれに頷くと彼女らを見送ったのであった。
そして一人になった自宅で…
僕は深く嘆息している。
どうして僕のような一人が好きな人物に彼女らは惹かれているのか。
理由がまるで見当たらない。
何故一人にしてくれないのか…
わからないが僕はため息を吐くとマグカップなどの洗い物をシンクに持っていくのであった。
店長の家から帰る道中で青空はケイに告げる。
「もう少しの辛抱だよ。
あれだけ他人行儀だった店長が今ではズケズケ物を言う。
きっと心を開いているんだよ。
引いてからまた一気に攻めよう。
きっと大丈夫。
ちゃんと落とせるよ。
私達で店長を独占しよう」
青空の言葉にケイは静かに頷いて応える。
二人が一を好きな理由は…
いずれ何処かで…
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