第4話 ヒロインはそう簡単に退場しないもの

院長に盗聴器の設置を命じた。脅せばすぐだった。


まぁ罪悪感を煽っただけだが、あの手のヤツは悪人じゃない。だから、罪悪感から解放された一心で僕のいう事をきいた。


僕は一人病室のベッドで考え事をする。


「っつ、怪我したのが頭じゃなければな。」


痛みからろくに考え事ができない。ホント嫌になる。っていうかこれ、本当にヤバいやつだ。


「ははは、幻覚まで見えるなんてな。」


そう、僕の目の前には死に装束の凛華姉がいた。


「幻覚じゃないよ。化けて出てきちゃいましたー。」


不謹慎が過ぎる。いくら精神的に参っているからって僕はここまで罰当たりなことは言えない。


「ってことは、凛華姉?」


「正解。いやぁ、怜悧は霊能力者として第二の人生を歩むのかぁ。楽しみだなあ。」


ちょっと待て、これは現実か?夢なんじゃないのか。でも、それなら死に装束は着せない。


「なんでいるんだ。」


「なんでって死んですぐにあの世に行くわけないじゃない。あの世があればの話だけど。それより、これから何するつもり。」


きっとバレてる。嘘をついても逆効果だろう。


「復讐しに行く。」


はー、やれやれとでも言いたげに、身振り手振りがうるさい。死んでも変わらないな。


「誰が復讐をお願いしたのよ。」


「とりあえずこれ読め。」


父さんから貰った新聞を手渡す。あっ、実体がないから読めない、、、


「ふむふむ。」


わけではなかった。ポルターガイストってやつか?起用に新聞を浮かせ読んでいる。


「おい、凛華姉?」


だんだんと周囲のものまで浮かび上がろうとして来ていて


「ムキ―。コイツ死刑。コイツ死刑。」


飛んだ。足は痛むが何とか立ち上がって落下物をキャッチする。


「なーにが、『少女の献身、有名俳優夫妻の一人娘を救った少女に追悼を』よ。それにコメント!『トラック運転手にはしっかり罪と向き合って欲しい』?『少年に胸倉をつかまれたが、その気持ちは痛いほどわかる。だから、そっとしといてやってくれ。』?舌の根も乾かぬうちに、ムキ―(# ゚Д゚)。」


今にも呪い殺さんばかりのオーラを漂わせている凛華姉。どうやら、病院での一件も全部見ていたようだ。だけど、待って欲しい。


「凛華姉、聞いてくれ。僕はコイツを社会的に殺す。それに凛華姉がいつ消えるかもわからない。だから、この復讐は僕一人でやる。いいね。」


「むー、方法は?」


あれ?知らないのか?まぁそれもそうか。ずっと僕一人の傍にいるわけないか。両親が恋しいんだろう。


「コレを使う。」


黒い巾着を手渡す。


「なるほど、わかった。なら、なおさら私が手伝ってあげる。


弱みを握るのに幽霊以上の適材はいないでしょ。」


「はぁ、凛華姉に勝てる気がしないや。」


流石凛華姉、あまり知的な感じはしないけど頭の回転は速かったんだよな。


「それで具体的にはどうするの?」


「院長脅して、盗聴器を仕掛けさせてもらえることになった。あの少女も入院中。だったら、あの野郎と院長先生が話す機会もあるだろ?一つ頼んでたことがあるんだよ。」


「『本当にあのお金のことは黙っていてくれるんですよね?』とか?」


一言一句ドンピシャとは、


「怖いって、なんでわかるんだよ。」


「妻ですから。」


「まだ、妻じゃないだろ。」


「違うよ、そこはもう妻になれないだろ、でしょ。」


「・・・、笑えないって。」


「ごめんごめん、幽霊ジョーク。」


「「・・・」」


沈黙。聞こえるはずはないけど、点滴の音が聞こえそうなほどに。病室は静まり返った。


「仕切り直して、暴露するタイミングはいつにするの?やっぱり三月の下旬とか?」


「新生活の準備やらで情報が飛び交いやすいからな、それを予定してる。」


「ドラマも4月からで撮影はきっともう終わってるでしょうからね。違約金とかすごいことになりそうね。」


「それまで留まれそうなのか?」


「もちろん、ヒロインはそう簡単に退場しないものよ。これが終わるまでは絶対に一緒にいてあげる。」


僕は抱き着く。すり抜けちゃうけど、それでも。


「もー、生前はそんなに甘えてくれなかったのに。あ~、惜しいことしたなぁ。」


きっと、月明りのせいだ。凛華姉の輪郭は白くぼやけた。

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思春期性ドラスティック症候群 久繰 廻 @kulurukuru

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