第2話 地獄に落ちろクソ野郎。
110番してからはあっという間だった。救急車が来て二人を病院へ運んで行った。僕もそれに乗せてもらった。手術室の前の椅子で待った。その後、僕と凛華姉の両親、それと知らない大人たちがゾロゾロと来たがそれどころじゃなかった。一秒一秒の流れが遅い。顔からいやな汗がしたたり落ちる。
「一人は助けることができました。しかし、残念ながら娘さんは、、、。申し訳ない。」
お医者さんは凛華姉の両親の前で土下座した。深く深く、額を叩きつけて。ゴンっと小さく鈍い音が聞こえた。いや、伝わった。膝伝いで。僕も崩れ落ちていたから。
「うわああああああああ。なんで、なんで。」
泣き崩れる凛華姉の母親、それを支えるおやっさんの眼からも涙がぽたぽたと。必死でこらえても心は泣いているのだ。だから、涙は止まらない。ぽっかりと空いてしまった心からこぼれおちるそれを止めることは出来ない。だというのにさ、
「やったあ。」
「なんとかなった。」
「ふぅ。」
「よかったぁ。」
「あの少女には感謝しないとな。」
「あ##」
なんだコイツ等理解できない。こっちは悲しみにくれているってのにさ。
「なんだね君は。何か言いたいことでもあるのか。」
「馬鹿野郎が!目ん玉腐ってんのか。目の前に家族の死を悲しんでる人がいて。なのにどうしてそんな風に言える。安堵の声はわかるよ。仕方ないさ。だけどさ、『やったあ』?『なんとかなった』?『ふう。』?『あの少女には感謝しないとな。』?ふざけんなよ!!」
僕は今まで優しくあろうとしてきた。その方が凛華姉が喜ぶから、今だってこの人たちを憎むべきじゃないってわかってる。だけど、
「何事もなかったみてえによ。ざっけんな。そもそも、あんたらが子供をしっかり見てればあんなことにはなってねえんだよ。歩道は青信号だったよ。一番悪いのはあんたらだ。僕はあんたらを絶対に許さない。」
コイツはコイツだけは許せない。凛華姉の両親を傷つけた。
「おいおい、落ち着きなさい。」
「うるせえ、感謝じゃなくて謝罪しろ!懺悔しろ!苦しめぇ!!」
「ちっ。」
涙がこぼれないように目を閉じていたから避けられなかった。男の裏拳が直撃。フラフラの足取りで立っていられるわけもなく、
「ガシャン。」
壺を乗せた机の脚元に衝突、そのまま落ちてくる壺は僕にあたり割れる。
「きゃあああ。」
「すぐに手術室の準備をして。」
まだ、言ってやりたいことがまだまだあるのに。
「てめえだけはぜってえ許さねえ。許さねえからな、クソ野郎。」
今言えるのはここまでか。
「ごめんよ、君だけは絶対に助けてみせる。すまない、すまない、本当にすまない。」
お医者さんの声を聴きながら僕の意識は途絶えた。
目が覚めるとベッドの上だった。頭が痛む。それに少し腫れていて、糸もある。何針か縫う重症だったらしい。
「・・・ちっ。」
むしゃくしゃしてベッドのフレームを殴った。少しへこんだ。ナースコールがなって看護師さんが来た。
「日暮さん。って、ええ!?まだ怪我してるんですか。」
視線の先をみると僕の拳からは血が流れていた。
「すぐ手当しますから。染みますけどがまんしてくださいね。」
消毒をして絆創膏を張ってもらった。
「これでよし。目が覚めたら話があると院長先生から言われているのでお連れしてもよろしいでしょうか。」
僕はうなづいた。院長先生_さっきのお医者さんはすぐに来た。そして事情を説明してくれた。
あの子供は俳優の娘で、さっきの大人たちは俳優女優夫婦とスタッフだったらしい。このあたりでロケをしており、子供が目を離したすきに脱走していて今回のようになってしまったらしい。ただ、それだけじゃなくて、
「はっ!?5000万やるから優先しろだって。」
ふざけんなよ。
「本当は二人とも助かるはずだったんだ。双方、少しずつ障害は残るが。だけど、そのことを盗み聞きされてしまって。それで、こんな田舎の病院は運営も厳しい。取り壊すにしても、職員たちの引き取り先を探すのに半年はかかる。金が必要だったんだ。すまない、すまない、すまない。」
僕個人としては今すぐこの人をこの手で殺したい。だけど、凛華姉はきっとこの医者は許す。だから、僕にできるのはせいぜい。
「地獄に落ちろクソ野郎。」
この生い先短い爺さんに罪悪感を植え付けるところまでだろう。
「すまない、すまない、すまない、すまない、すまない、・・・・・・。」
月明りの差し込む病室、ベッドの上から見る医者は、僕の影に隠れているせいか、床にはいつくばっているからか、弱く、小さく見えた。
だが、許そうとは思わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます