思春期性ドラスティック症候群
久繰 廻
第1話 ぶちまけるならコンポタがよかった
僕_
幼馴染の
その日は雪も降っていて手がかじかんだ。ささっと解答欄を埋め終わり僕は暇を持て余す。流石に三か月の間1日に6時間も勉強していたら公立の高校の問題なんてこんなもんだろう。
鐘が鳴って試験終了。特に何事もなく校門を出る。
「れーいり。」
ボフッと音とともに背後から抱き着かれる。それとちょっといい匂いする。
「なんだよ、 凛華姉。今日は休みだったろ。」
「 凛華って呼んでって言ってるじゃない。私たち許嫁でしょ。もう。」
プンプンって、寒さで赤くなった頬をさらに赤くする凛華姉。まったく寒いなら無理しなければいいのにさ。
「早く帰ろ。」
手をつないで強引に駅の方まで連れていく。
「もう、周りに同級生とかいたらどうするのよ。」
「さっき、僕に抱き着いてきた人のセリフとは思えないな。」
「もう、意地悪。」
駅に着いたものの電車が遅延しているようで
「れーりー、寒いー。」
体を動かせないまま待たされて寒さも我慢の限界なんだろう。だからって人で暖をとろうとするなよな。
「ちょっと待ってて。」
確か、駅の入り口の方に自販機があったはずだから、と向かう。
あったあった。お汁粉とコンポタどっちが好きかな?ええーい、めんどくさい。両方勝って選ばせよう。2つポチポチ、ガコンガコン。
「あっつ。」
冷え切った手に自販機の飲み物は熱すぎた。
缶の上の方をつまんで 凛華のもとへ戻る。
「これやるよ。」
頬っぺたにピタ。
「あっつーい。」
やべっ!!やり過ぎた!?凛華の前にしゃがみ込み
「ごめん、大丈夫?」
そう凛華の顔を覗き込むと
「そんな悪い子にはこうだー。」
頬っぺたをキンキンに冷えてやがる両手で包まれて
「冷てえー。」
「夫は妻に勝てないものなのさ。」
「まだ、結婚してないだろうが。」
ったくこいつは。
「私はお汁粉の気分ね。」
そう言って僕の手から缶の片方を取る。
「って言っても、まだ熱いからもう少し冷まさなきゃな。」
結局、冷めるよりも先に電車が来てしまい、僕らはポケットに入れて電車に乗った。肉盾として凛華姉と他の乗客との間に立った。
おしくらまんじゅうすること20分。最寄り駅に着き、重圧から解放される。
「ふあー、しんどかった。」
「ご苦労さん。そういえば、せっかく怜悧に買ってもらったのに飲んでなかったわ。」
駅を出てプルタブを開ける凛華姉。飲む姿は腰に手をあて、今からグビビって一気飲みしますよって感じだった。うん、うちの親父の風呂上りを見てるみたいでまったくときめかない。
ってそんなのんきなことを考えていたその時、
「キキ―!!」
耳をつんざく金属音、目の前には横断歩道反対側から飛び出す子供、左側にはトラックが、最悪だ。
「あああああ。」
駆けだす凛華姉。何やってんだよ。視界はスローモーション。今はまだそんなに距離があいていない、急いで凛華姉を止める。あの子供はもうダメだ。
「あああ。」
僕は今までにないぐらいに早く走った、、、つもりだった。僕と凛華姉の縮まらない距離、どんどんと迫る横断歩道。助けられないかもしれない。怖かった。たったそれだけでさっきまでの勢いが嘘のように体から抜けていく。
「ドン。」
凛華姉が子供を抱え、トラックにひかれた後になってきこえた鈍い音。くぐもっていて、僕の心臓の音よりも小さく聞こえるのに、存在感がはっきりとしていて、その生々しさが、これが現実だと突き付けてくる。この二人と紫の缶が、赤色に照らされ宙を舞っている光景は確かなものだと。
二人、いや最悪、子供はどうだっていい。凛華姉は空中で横に半回転、電柱にぶつかって、そして落ちた。
「凛華姉!!」
スローモーションは終わり、僕はすぐに凛華姉のもとへ駆け寄る。
「れーり?」
「そうだよ、あんたの許嫁の怜悧だよ。」
僕は手を握る。冷たかった。
「ほら、これであったまれよ。っな。」
落ちていた中身のない缶を握らせる。だけど、冷たいままだった。それどころか現在進行形で冷たくなっていく。
「嫌だ嫌だ嫌だ。」
認めたくない。
「そうだ、救急車呼ばなきゃ。110じゃなかった、119。いや事故だから110であってる。すみません、事故です。・・・・・はい、二人、トラックに轢かれて、とにかく救急車を!早く!!」
なんで僕じゃなくて凛華姉なんだ。凛華姉が傷つかなきゃいけないんだ。
ああ、ぶちまけるならコンポタがよかった。鉄と小豆の匂いのする道路の真ん中で、僕は心の底からそう思った。
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