#002.致死量の自由 その2

 通路の壁が突如、猫を左右から押しつぶした。


「勝手に勝ち誇って...散々言ってくれたな...獣ごときが」

砂埃が舞う。壁は衝突し合い、粉々に砕けている。画鋲のひしめく地面に紅い川が流れる。

「ごぼ、ごほっ、ハァ、はあ...よくも...このボクをよくもだましてくれたな...なぜこんなところに..しかもこの力は..」

天蓼は再び姿勢を低め、猫を掴み上げる。

「おい...離せ..ッ、汚い手で触るんじゃない...」

「まさか取り逃がした食料が増えて帰ってくるとはな...だけにってか?ケケケっ、最高な日だなァ...」手を口へと運ぶ。

「おいッ!聞いてるのか!離せと..言ったんだ!こんなことをしてッ、ただで済むと思うなよ!すぐに『あるじ』が来てお前なんかぶっ殺すんだからな!」


天蓼の手がぴたりと止まった。

「『主』?それは食べられるものか?」

「はぁ??『主』は食べ物じゃないぞ!猫だ!このボクと同じ!だからボクも食べ物じゃない!!この手を放せぇ!!」

「猫...そうか...おい、お前を助けに来るのか?」

「そうだ!お前なんか一瞬でぶちのめされるんだぞ!」

「その『主』はいつここに来る?お前が生きてた方がいいのか?」


(ううぅ...『主』ィ...言ってみたはいいけどこんな使いっ走りパシリなんかのこと助けに来ないよね...きっとそうだ!はぁ...ボクまだ『場所』も知らないし...そもそも好きなコだっていない...こんなことならもっといろんな人に撫でてもらえばよかったなァ...)


「おい!生きているのなら質問に答えろッ!どうなんだ!来るのか?来ないのか?曖昧は食べる!さあ答えろッ!」

「くっ、来るよ!!すぐに来る!絶対に!僕の生命のエネルギーを感じ取って来るんだ!だから生きてないとダメ!!」頼む、と言わんばかりに猫は前足を合わせた。

「...そうか、ならまだ食わない。あの陽が沈み切るまでにその『主』とやらが来なければお前を食う。いいな」空を指差し、天蓼が猫を地面に置く。

「それと「馬鹿め!スピードならボクの方が上ッ!」猫が着地とともに走り出す。


(ははははッ!!!やっぱり馬鹿だ!鳥はくれてやる!こんな場所すぐぅ!?)猫は顔を地面にこすりつけた。


「それと...お前が逃げても食う」天蓼は静かに転んだ猫を見下ろしている。


(なッ、なんだ??足が、足が体からッ!まるで縄で縛られてるみたいに...足が離れない...)

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