第3話
ピンクの粒が流れてきた。それの行方を、見えなくなるまで、わたしは見ていた。
次に気になったのは、紫の粒。その次は黄色、その次は黄緑。
いくつものこんぺいとうの旅を見守った。その途中、いくつものチョコレートの姿を見た。けれど、あなたの竿にはかからない。
「うーん」
あなたの眉間に、ほんのりと皺。唇がだんだんと尖っていく。
「はぁ」
小さなため息が、近くのこんぺいとうを、ふるふると震わせた。
ふるふる、ぷるぷる――。
ため息でこんぺいとうが揺れたから、この揺れもまた、息のせいだと思った。けれど、普通に息を吸って吐くくらいでは、こんぺいとうは震えない。今は、二人して、ただ呼吸をしているだけ。じゃあ、この不自然なグミの動きは? チョコレートか何かがかかったに違いない!
「ねぇ、引いてない?」
「え? ああ、本当だ! よーしっ」
あなたは舌先をすこぅし出して、こんぺいとうに沈んでいるグミの先を、〝絶対に釣り上げてやる!〟っていう気合たっぷりのまなざしで、射るように見た。
ぐぃ、と引く。と、ぐぃ、と引かれた。
プレッツェルが、ミシミシと鳴る。
グミがびよーん、と伸びて、今にもちぎれそうになる。
「あれ、大物なのかな。めちゃくちゃ重い」
釣り竿が壊れそうになるだけじゃない。あなたはグミの先の何かに引かれて、こんぺいとうの川に落ちそうになる。だから、わたしは、あなたの身体を掴んだ。
「わたしも手伝う」
「ありがとう」
まるで、おおきなかぶを引き抜こうとしているみたい。
わたしは、おおきなかぶを引き抜こうとした経験なんてない。絵本で読んで、そういうお話があるって知ってるってだけ。
だから身体が覚えているわけではないけど、これを何かに例えるなら、おおきなかぶとしか言いようがないんだ。重い。いつから? 引いてるって気づいた時には、引き摺り込まれそうになるほどに、重たくなんかなかったのに。
「力をあわせよう。二人でならきっと釣りあげられるよ」
「そうだね」
「じゃあ、いっせーの! って言うから」
「うん」
「いくよ! いっせーのっ!」
あなたの声に合わせて、体重を後ろにかけた。盛大な尻もち。ココナッツが舞う。ぼよん、と身体が揺れた。
「わー! 釣れた、釣れた!」
あなたの腕の中で、大きなチョコレートが跳ねている。側には折れたプレッツェル。ちぎれなかったものの、いくつもの裂け目が入ったグミ。
マシュマロの岩に身体を預けたままわたしは、あなたの無邪気な笑顔を見ていた。
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