第2話
言っていた通り、なかなかチョコレートは釣れない。
「ナッツをつけたほうがいいかもしれない。ちょっと、これ持ってて。ナッツを捕まえてくるから」
あなたはわたしにプレッツェルを押し付けて、すっくと立ちあがると、駆けだした。
ナッツなんて、その辺をぴょんぴょん飛び跳ねている。だからきっと、すぐに帰ってくるはずだ。
「ああ……ひゃあ!」
背後から、情けない声がした。
振り返って見てみると、ぴょんぴょん跳ねるナッツに振り回されているあなたがいた。わたしは釣り竿の先を見るよりも、あなたの舞を見ていた方が楽しいな、って思ったから、ひたすらココナッツの草原を見ていた。
手元のプレッツェルがすこぅし揺れたことに気づかないまま、ひたすらに、ナッツの動きに合わせて踊る、あなたを見ていた。
「ふう。やっと捕まえられたよ」
あなたはわたしが見ていたことに、気づいているのやら、いないのやら。涼しい顔をして、わたしの隣に戻ってきた。ときどき拳がブル、ブルっと動いている。ゆるく握った拳の中で、たぶん、ナッツが暴れている。
「よし。じゃあ、ナッツをつけるよ。プレッツェル貸して」
「うん」
わたしはあなたに、釣り竿を渡した。こんぺいとうの川から、沈んでいたグミの端が顔を出す。すると――
「あれ、ちょっと食われてる」
「え、ほんとう?」
「うん」
見ると確かに、齧られた跡があった。
「ごめん、気づかなかった」
「いいよいいよ。さ、ナッツをつけて、再チャレンジだ」
あなたは器用にナッツをつけると、ふう、と息を吐いた。踊らされながらなんとか捕まえたナッツを、逃がすことなくグミにつけられたことに安堵しているみたい。
「大きなチョコレートが釣れますように。ていやー」
こんぺいとうが、ゆぅらりと揺れる。今日の川は、穏やかだ。
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