かりんとうの橋の上で
湖ノ上茶屋(コノウエサヤ)
第1話
あなたにはじめて会ったのは、かりんとうの橋の上だった。
わたしがこんぺいとうの川を眺めていた時に、あなたはおせんべいをバリボリ齧りながらやってきて、まるで遠い昔から仲のいい人に声かけるように、「よぉ」と穏やかな声を吐いて、ふんわりと微笑んだ。
わたしは、状況を飲み込めずにいた。
するとあなたは、そんな困惑の渦の中にいるわたしの顔が面白かったのやら、笑みの皺を深くした。その口端にはおせんべいのかけらがついていて、わたしはその少し間抜けな笑顔にすくわれて、ようやく身体や心の緊張を解いた。
「川なんか、見てて楽しい? チョコレートが泳いでいるだけじゃんか」
あなたはそう言って、おせんべいの最後のひとかけらを口に放り込む。
「だいたいさ、この世界は変だよ。チョコレートの川をこんぺいとうが泳いでいるならまぁ、分かるんだけどさ。こんぺいとうの川をチョコレートが泳いでいるのは、変だよ」
「そう、かなぁ」
「キミは変だと思わないの? こういうのが当たり前の世界に住んでるの?」
問われてわたしは、あれ? と思った。
ここは、どこだろう。いつからここに、居るんだっけ?
こういうのが当たり前の世界に住んでるの? その問いが示すのは、わたしたちが住んでいる世界が、異なっているという可能性。そんなこと、ある?
どちらかが幽霊で、どちらかに霊感がある、とか?
考え込む。ひとりではない世界で、まるで一人の世界にこもるように、考え込む。
すると突然、あなたはわたしの側から離れ、ひとりとことこと川に近づいていった。両手を川に突っ込んで、こんぺいとうをすくいとると、こぼれないようにゆっくりゆっくり歩いて、わたしの側に戻ってくる。
「ん」
ニッコリ笑って、両手いっぱいのこんぺいとうを、わたしにくれた。
差し出した両手に、こんぺいとうが降り注ぐ。
わたしはそれを受け取ったけれど、口に放り込みはしなかった。両手が塞がっていてつまめなかった、って言うのも、理由のひとつ。だけどわたしはただ、そのきらめきに、見惚れていて、食べられなかったんだ。
「あれ、チョコレート派? マジか。あれ、釣るのけっこう難しいんだよ?」
言いながら、近くに生えていたプレッツェルに力を込めて、折った。その辺を這っていた細長いグミを捕まえて、プレッツェルに結び付ける。あっという間に、釣り竿の完成だ。
「ていやー。……これ、けっこう時間かかるよ」
面倒くさそうに言う。甘ったるい声。あなたの瞳の奥は、べっこう飴みたいに、キラキラと輝いている。
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