第26話 過去の一部

『———怜太、よく聞きなさい。今からお父さんとお母さんで止めに行く。怜太は真希義妹さんが助けに来るまでここでじっとしていなさい』


 俺は……夢を見ているらしい。

 いや……夢というより過去の体験を追憶していると言った方が正しいのかもしれない。


 かつて俺の住んでいた家はまるで竜巻が直撃したかの如く半壊している。

 ぐるっと周りを見渡せば、様々な建物が自分の家と同様に半壊したり完全に倒壊したりしている。

 彼方此方で火の手が上がり、サイレンがけたたましく鳴り響く。

 しかしそんなサイレンの音ですら掻き消せないほどの、たくさんの人の悲鳴や泣き叫ぶ声や名前を呼ぶ声が聞こえた。



 そんな中、俺の目の前に俺が———涙で顔をぐしゃぐしゃにしている幼い頃の俺がいる。



 これこそが過去の体験だと断言できる証拠だった。

 過去の俺は、何かしようとする2人の男女を阻止する様に抱き着いて泣いていた。

 

『いやだよおがあざぁぁぁぁん!!』

『もう……泣かないの、怜太。将来真希を護りたいんでしょう? ならこんなところで泣いてちゃダメよ?』

『でも"ぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 泣き叫ぶ俺と話をしているのは……父さんと母さんらしい。

 らしい、というのは……追憶であるが故に自分が覚えていない所はぼんやりとしていて見えないのだ。

 だから、父さんと母さんと思われる2人の顔が、まるでモザイク処理されているかの様に朧げだった。


『香奈、そろそろ……』 

『分かってる。……怜太、ごめんね。必ず帰ってくるから真希が来るまでここでじっとしていてね』

『まっでぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 泣きながら手を伸ばした俺の静止の声も虚しく。

 2人は一度振り返ったかと思うと……泣き叫ぶ俺に小さく笑い掛け、超人的な速度で目の前から消えた。

 

 


 それが———俺が見た、2人の最後の姿だった。









「———……久し振りだな」


 俺は見慣れた天井を眺めながら零す。

 目だけで部屋を見渡せば……【転移】で家の近くに戻ったはずなのに何故か俺の部屋で、俺はベッドで寝ていた様だった。

 

 ……随分と懐かしい夢を見たな。

 最近は全く見てなかったんだけど……主にゴミクソ予知スキルのせいで。

 うーん……もしや朝日奈と戦ったのが原因なのか?

 

「うーん……」

「何を唸ってる?」

「いや珍しい夢を見た…………何でいるのか聞いてもいい?」


 俺が腕を組んで考えていると……何故か俺のベッドの隣に神埼がいた。

 神埼は悩ましげに唸る俺を見つめ、不思議そうに首を傾げていたのだが、俺の至極当然な問いに無表情を1ミリも変えることなく答えた。


「ん。転移した所、ここ」

「あぁ、それで……とはならんよ? 仮にそうだとしても家帰れよ」

「……か弱い女の子を、1人で真夜中に帰らせる? せんぱい、きちく」

「お、おい人聞き悪いこと言うな! お前がか弱い女の子なら全人類の7割の女子はか弱い通り過ぎて脆弱だろ!?」

「飛躍しすぎ」

「お前みたいなチーターが頭のおかしなことを言ってたから言っただけだが!?」


 S級モンスターを2体も仲間にしている奴がか弱いとかありえないだろ。

 

「と言うか俺は何でベッドにいるんだ?」

「———私が運んだんだ」


 ベッドで寝ていることも然り、ロングコート姿からパジャマに変わっていることも然り、俺の記憶にない状態であることに首を傾げていると……部屋の扉が開いて湿布を手に持った真希ちゃんが現れた。

 ビシッとしたスーツ姿なのを見るに、これから学校に出勤する様だ。


「神埼に怜太がピンチだと伝えられてな。急いで外に出たら、近くの公園で倒れてたお前を見つけたんだ」

「そゆことでしたか……えー、本当にありがとうございます」


 俺は責めるような視線を向けてくる真希ちゃんと、少し誇らしげにドヤる神埼にお礼を言う。

 

「ん、私が知らせたお陰。あのモンスターは、手強かった」

「あ、あぁ……そ、そうだな。は、はははは……」


 言えない。

 別にモンスターに苦戦したんじゃなくて【草薙】副隊長の朝比奈と戦って何とか逃げ帰ってきたなんて……特に真希ちゃんには口が裂けても言えない。

 ましてや敵対の意志があるかの如く振る舞ったなんて。


 冷や汗を拭って必死に取り繕うように笑みを浮かべる俺へ、真希ちゃんが何か思い出した様子で俺の身体を見つめながら尋ねてきた。


「それにしても……お前のその切り傷はどうしたんだ? ロングコートも結構ボロボロだったぞ?」

「え?」

「ん。あのモンスターは斬撃系じゃなかったはず」

「…………」


 俺は2人に言われて恐る恐るパジャマをそっと捲れば……大小様々な切り傷が刻まれていた。

 そして人間、意識すると突然痛覚が『やぁ』と機能を再開するのだが……俺もその例に漏れなかった様で全身がズキズキと痛み始めた。


「スキル———【治癒】」


 俺は自身の身体に手を当て、スキルを発動。

 身体に当てた手が、柔らかな黄緑色に淡く光る。

 淡い光は徐々に俺の全身を覆い、ゆっくりと傷を治していく。


 このスキルの効果は名前の通り———治癒。

 正確には俺自身に備わる修復機能の力を最大限に引き出して修復している。

 そのため一瞬だが物凄く痒くなるのには中々慣れなかった記憶がある。


 怪我ってかさぶたになったら謎に痒いよな。

 ついついかいてしまいそうになる衝動に耐えるのには苦労したなぁ……。

 

 懐かしい過去を思い出しながら少々感傷に浸っていると……俺の現実逃避をいち早く見破った真希ちゃんがジト目を向けてくる。

 

「それで、その傷は?」

「最後にヤケクソになったリッチの風魔法の中を突っ切ったらできた傷」

「本当か?」

「いやそれ以外に俺がこんな傷を受けるわけないやん」

「……本当の本当か?」

「だからそうだって———」



 結局、疑り深い真希ちゃんを納得させるのに10分掛かった。

 その時同時に、この傷を付けてくれたあの女への怒りが増幅したのは言うまでもないだろう。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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