第25話 VS朝比奈麗華

 ———本当に最悪なタイミングだな……チッ。


 俺は此方に剣先を向ける朝比奈の姿に、仮面の奥で顔を顰めて内心舌打ちする。

 朝比奈は切っ先を向けたまま口を開く。

 

「どうするのかしら? 投降する? しない?」

「……遅れてやって来た奴が、よくほざいたもんだな」


 俺は魔力を既に3分の1にまで消費していることを悟られぬ様、仮面越しに笑みを浮かべて煽る。


 精一杯の強がりだ。

 魔力が少ない状態で逃れられる程、朝比奈が簡単な相手ではないことは端から承知している。

 そもそも異能者の第2の命と言っても過言ではない魔力量1つ取っても、万全な俺と朝比奈とですら倍以上の差があるのだから。


 ……これだから天賦の才は恐ろしいんだ。

 俺みたいな凡人は逆立ちしても勝てない。

 ただ……どうやら俺の煽りは天才に少し効いたみたいだ。

 

 朝比奈は、表情こそ変えないものの俺の言葉にピクッと片眉を上げる。


「……アンタが早すぎるのよ。一体どうやって私達より早く気付いたのかしら? 毎回毎回……最速で着いてもアンタに先を越される」

「お前らが無能なだけだろ?」

「……言ってくれるじゃない。でも……アンタが街に与えた被害額、とんでもないことになっているのだけれど?」

「……」


 今度は俺が片眉を上げる番だった。

 確かに、俺が今までやらかしてきた被害額が裕に数百億を越えるのは事実だ。

 だが……。


「それで死人が出ていないだけマシだろう?」

「……そうね。それは素直に認めるわ」

「……!?」


 あっさりと俺の主張を肯定する朝比奈に、俺は仮面の奥で目を見開く。

 まさか肯定される何て思ってなかった俺は、思わず朝比奈の顔を2度見するが……そこには悔しそうに唇を噛む朝比奈の姿があった。

 その表情が、先程の言葉が真実であることを物語っていた。


「確かにアンタがいなかったら死んでいた人間も大勢いる。ええ、認めるわよ。アンタに比べて私達は無能だわ。だけれど……私も隊長もアンタをこの隊に誘ったのに———何故断ったのかしら?」


 朝比奈は心底理解出来ないと言わんばかりに眉間に皺を寄せ、彼女の瞳が俺を射抜く。

 どこまでも正義感に燃える強い瞳だ。


 ……何故断ったのか、ねぇ……。

 まぁ……子供みたいに単純な……でも俺にとっては重要な話だな。





「———俺は、お前ら【草薙】が大嫌いなだけだ」




 

 スキル———【創造】によって創り出した神鉄アダマンタイトの長剣を片手で持ち、切っ先を朝日奈に向ける。

 俺の言葉に朝比奈が目を見開くが……直ぐにスッと目を細めた。



「それは……敵対、ととっても良いのかしら?」


 

 朝比奈も俺と同様に片手で剣先を向けてくる。

 その美しい見た目からは想像できない様な濃密な威圧感を放つ朝比奈に、俺は告げた。




「———勿論だ」




 瞬間———2つの閃光が煌めいた。











「———はッ!!」


 朝比奈が舞うように剣を振るう。

 目にも止まらぬ剣の乱舞。

 刀身が街灯の光を反射して輝く。

 幻想的だが、一撃一撃が鋭く重い。


「くッ……」


 俺はスキル———【身体強化】【思考加速】を発動して必死に食らい付く。

 様々な方向からの縦横無尽な剣の嵐を、いなし、避け、受け止める。

 反撃しようにも、隙が全くない。

 息を吸う暇すら無い。


 これが、日本最強の剣士———朝比奈麗華。


 は、ははっ……この化け物が……。

 俺、剣が1番得意なんだけどな……才能の差か。

 これで異能使ってないとかバグだろ……。


 本物の天才であり、努力家。

 近接戦において、日本に彼女の右に出るものは居ない。


「どうしたのかしら……口数が少ないわよ? もしかして、もう限界なの?」

「……そういう貴様こそ、攻めあぐねているようだが?」

 

 朝比奈が余裕の表情で煽り、俺が仮面の下で嗤いながら煽り返す。

 その間にも絶えず一撃一撃が戦闘不能級の威力を誇る剣撃が降り注いでいた。

 そんな俺達の剣戟の余波は凄まじく……。


「「「「「「ぁぁぁぁぁぁぁ……」」」」」」


 周りに居たアンデッド達が巻き込まれて跡形もなく消滅する。

 どうやら、朝比奈の剣はアンデッドをも倒せる魔導具らしい。

 

「———余所見している暇なんてあるのかしら!?」

「!?」


 俺がアンデッドに意識を割いた一瞬を、朝比奈は見逃さなかった。

 朝比奈の突きが、俺の剣の防御をすり抜ける。

 肩を狙った、俺を確実に追い込む一撃。


 ———スキル【自動回避】。


「なッ———!?」


 剣を手放し、朝比奈の剣を後ろに倒れながら蹴り飛ばす。

 確実に入ると思っていた攻撃を避けられただけでなく、バンザイの状態にさせられた朝比奈が驚愕の表情を浮かべる。

 勿論そんな隙を俺は逃さない。


「驚く暇なんかあるのか?」

「くッ……」


 手元に新たな剣を創造。

 袈裟斬りの予備動作に入る。


 しかし流石近接最強。

 朝比奈が上に向かう力を利用して地を蹴り、宙で一回転。

 俺の袈裟斬りに剣を合わせていなしやがった。

 それだけでなく、拳が眼前に迫る。



 だが———俺の勝ちだ。



 実は先程、俺は1つのスキルを発動していた。




「———【転移】」

「ま、待ちなさ———」

「じゃあな」




 朝比奈の焦った声を遮り、俺は勝利の笑みを浮かべて———その空間から消え去った。


—————————————————————————

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る