第24話 乱入
「———【滅びよ】」
「おい、即死攻撃ばっか卑怯だろ! もっと配慮しろよ! できれば1分に1度でオネシャス!」
「ん、私からも頼む」
「———【滅びよ】」
「言った側から撃つなよクソ野郎!!」
俺は再び杖から怪しい光を放つ後方腕組みローブ野郎に激昂する。
後方腕組みローブ野郎との交戦から30秒。
俺達は先程から、一向に【無効化結界】から出るどころかまともな反撃すら出来ないでいた。
理由は至って単純。
あの光に当たれば、神埼は勿論、大抵……寧ろ瀕死ですらほぼかすり傷みたいな自分でも頭おかしいくらい反則な俺でも死ぬ。
因みにこの【無効化結界】以外で光の即死技を対処出来るスキルは無い。
そして一見有能そうな【無効化結界】は、外からの全ての攻撃を文字通り無効化してくれるが……俺も他の全てのスキルが使えないというゴミ仕よ———王道スキルクオリティーなのだ。
あんな照らされただけで死ぬとか反則だろ。
どうやってコイツ倒せば良いねん。
ただ、そんな反則技にも弱点はあるはずだ。
この世に弱点のないモノは存在しない。
寧ろそんな代物があるならこの世界のものじゃない。
「……光、邪魔」
「マジそれな。アレに当たらずに近付くなんて不可の…………ん?」
……待てよ。
———あ、行けるかも。
俺はとある妙案を思い付く。
我ながら結構ゴリ押し戦法だが……多分コレが1番簡単で確実な気がする。
しかしそれには……少し口が悪いが、神埼が邪魔。
「……」
チラッと神埼に視線を向ける。
神埼は自分の異能が発動しないことに首を傾げ……銃に持ち替えて引き金を引くも撃てない銃を見て、再度首を傾げていた。
……ごめんな、神埼。
魔力を使う銃もこの結界の中だと使えないの。
無能スキルでほんとごめんね。
「神埼、訊いてくれ」
「?」
俺は逸る気持ちを押さえ、疑問の光を宿した神埼の瞳を見つめる。
今この瞬間にも街にアンデッドが溢れ出しており……家や街灯を次々に破壊していた。
「……今から俺はスキルを解く」
「ん。その間に銃?」
「違う。その隙に———お前を【転移】で逃がす」
「!?」
神埼が驚きに目を見開き、直ぐに意味を理解して目を伏せる。
その姿に良心が痛むものの……背に腹は代えられない。
「神埼、別に落ち込むなって。今回は相手が悪かった。即死攻撃ならお前の異能じゃ太刀打ち出来ない。これが純粋に強い奴なら大活躍だったろうけどな」
「……分かった。せんぱいの足手まといにはなりたくない」
神埼が普段通りの表情で頷く。
その無表情に見える顔からは、強い悔しさと情けなさが宿っていた。
しっかり俺の意図を理解しているようで心が余計痛むよ。
ただ、いつもの様に一々反応している暇はない。
「ん、死なないで」
「ばーか、死なねぇよ。彼女なし
その瞬間。
俺達を覆う半透明の結界が消失。
気付いた後方腕組みローブ野郎が口を開く。
「———【滅———」
奴が全て言い終わるまで1秒未満。
思考が駆け巡りる。
一気に減速した世界で、俺は4つのスキルを発動した。
———スキル【思考加速】。
———スキル【転移】。
———スキル【闇纏】。
———スキル【空間把握】。
俺の思考が、処理速度が一気に加速。
殆どタイムラグなしに神埼の身体が光に包まれ、その姿が消失する。
……無事行ったか。
身体が夜より暗い漆黒に覆われる中、一瞬安堵し……直ぐに意識を切り替えた。
全身が闇に包まれ、全ての感覚が闇に遮断された。
引き換えに、辺りの情報が全て流れてくる。
「———びよ】」
後方腕組みローブ野郎———リッチの魔法が発動。
絶えずインプットされる情報に、異質な情報が出現。
即座にその異質な情報が即死攻撃と判明し……俺は嗤う。
「———お前の弱点、みっけ」
さぁ、反撃といこうか。
———即死攻撃の対処法と問われれば、皆はどうするだろうか。
即死攻撃。
字面は結構えげつないが……対処法はそのイカつさに反してそこそこ存在する。
まず、即死攻撃自体の無効化。
即死攻撃には必ず条件があり、無効化とはその条件を満たさないこと。
もしくは俺のスキルみたいに効果が発動しても無効化するのもある。
次に、実体のあるものに限るが……回避。
今回の様な全範囲に効果を発揮する即死攻撃は少ないので、1番これが現実的だ。
そして、即死攻撃返し。
当たり前だが即死攻撃は術者が死ねば消える。
だから即死攻撃を此方が先に食らわせるという脳筋気味な戦法。
また、反射系の異能がアレばそれで即死攻撃を反射するのもあり。
だが、今回俺が取る行動は———そのどれにも当てはまらない。
俺が取った行動は———。
「———おらぁぁぁぁぁッッ!!」
自分を実体を持った闇で物理的に覆い、消滅した瞬間から新たな闇を創り出すという———超絶頭空っぽ脳筋ゴリ押し戦法である。
俺は【空間把握】で五感の消失を補い、リッチへと駆ける。
その間も絶えず闇が消滅、再生を繰り返す。
インプットされる情報からリッチの焦りを感じ……俺はくぐもった声を上げた。
「あれれー? 後方腕組み卑怯野郎にして不死身のくせして焦ってのぉ? なっさけなぁい! プークスクス!」
焦るなら、リッチにも感情が存在することになる。
こういった場合の煽りは物凄い効力を発揮し……時に自らを死に追いやる。
「———【割れよ】【燃えよ】」
———ガガガガガガガッ、ゴォォオオオオオオオ!!
俺の足下が地割れを引き起こす。
割れた地面より豪炎が噴き出す。
俺は、【闇纏】を解除して———一息の下、リッチの懐に潜り込む。
聖霊剣を創造し、そして嗤った。
「———ミスったな、お前」
「っ!?!?」
リッチが慌てて口を開くが———もう遅い。
手元の聖霊剣が煌めく。
眩い聖光を放ち、剣が巨大化。
俺は、3メートルを越える大剣を薙いだ。
———ヒュッッッーーー。
剣閃の残像がリッチの身体を駆ける。
リッチの上半身と下半身を剣閃が断ち切る。
俺は振り切った状態のまま、小さく呟いた。
「———あばよ」
「ォォォォォォォォ…………!!」
リッチの身体の内側から閃光が溢れ出し、その身を悉く滅ぼす。
後には何も残らなかった。
「「「「「……」」」」」
主を失ったアンデッド達の動きが停止する。
ただひたすらに主の居た場所を眺めながら。
「ふぅ……あとは能力隊に———」
俺が硬直したアンデッド達から視線を外し、踵を返してその場を後にしようとしたその時だった。
「———民間人を救ってくれたことは感謝するわ。だから提案なのだけれど……」
後方から声が聞こえた。
とても聞き覚えのある声だ。
……タイミング悪ぅ……。
俺は仮面越しにソイツへと視線を移す。
「———SS級指名手配犯【千差万別の仮面王】。今直ぐ投降しなさい。今ここで投降すれば……罪が少しは軽くなるわよ?」
白銀に輝く剣を向けた、国家精鋭部隊【草薙】副隊長———朝比奈麗華に。
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