第22話 真夜中の攻防①

「———今、何時?」

「えーっと……午前1時23分だな」

「……眠たい」

「つい一昨日お前が手伝いたいって言ったんだろうが。ほら、やるからにはシャキッとする!」


 時刻は先程言った通り午前1時23分。

 正に真夜中や深夜、闇夜という言葉が当てはまる時間帯だ。

 外は住宅街と言うこともあって街灯の明かり以外は殆ど付いておらず……更に空は曇っているのか星1つ見えない。


「……ん、分かった」

「それでいい。全く……もう16歳なんだからしっかりしてよねっ!」

「……きもい」

「ゴハッ!?」


 そんな深夜に、俺と神埼は、俺達の住む地区から大分離れた第1地区(北海道)の郊外にやって来ていた。

 勿論、予知でとある出来事を見たからである。


 今回起こる出来事は———時空の歪みが現れて直ぐにモンスターが溢れ出してこの郊外に甚大な被害を与える、というモノだ。

 勿論死者は数人どころではなく……住居ももう住めないくらいに壊滅状態になる。

 

「私は、避難誘導?」

「ああ、頼めるか?」 

「ん、任せろ」


 俺とデザインの違う灰色の仮面を被り、全身をファンタジーの盗賊のような黒装束に身を包んだ神埼が、グッ……と親指立てる。


 ……ほんとに大丈夫かコイツ?


 仮面の下でドヤ顔でもしてそうな姿に一抹の不安を感じるが……これでも神埼は優秀なのできっと大丈夫だろう、と割り切ることにした。


 神埼から視線を切った俺は、黒の仮面越しにスキル———【暗視】を発動して月明かりのない闇夜の中を見通す。

 視界が真昼間ほど鮮明……とまではいかないものの、遠くの建物がハッキリと確認出来るくらいには見えるようになった。


 さてさて……予知で見た所は何処だったかな。

 確かこの近くだったはず……。



「———見つけた」



 俺は神埼を置いてアパートの屋上から跳躍。

 ロングコートを靡かせながら落下し……地面に着地すると同時に駆け出す。

 本来なら【飛行】を使いたい所だが、今回は魔力を無駄には出来ないので自らの足を使って向かう。


 やっぱ第1地区は寒いなぁ……。

 もう6月なのにロングコートで丁度いい……何なら寒いって大分終わってるよな。

 まぁそれも全て———SS級時空の歪みから現れた1体のモンスターのせいなんだけど……今はそれどころじゃないか。


 俺は前方に見える時空の歪み……の出来かけを睨む。

 見た目こそ目立たない時空の歪みだが、近付けば近付く程に重くなっていく静寂と圧迫感に思わず顔を歪めた。


 今回の時空の歪みは、暗視で詳しい位置を探さないといけないほど魔力の放出の少ないことが原因で予知のような悲劇が起きた。

 何故魔力の放出が少なかったのか予知の時点では疑問に思っていたが……直に対面して確信した。


「……こいつが魔力が外部に漏れないように吸いやがってんじゃねぇか」


 俺は走る足を止め、時空の歪みが発生した虚空の真下に置いてある透き通った真紅の宝石を拾う。

 真紅の宝石は魔力を吸い取っているだけあって普通の人なら火傷するくらい熱い。

 どうやらこの変な宝石が、時空の歪みで発生した魔力を吸い取って———ん?


 ふと数メートル先の空間に違和感を感じた俺は、スキルを発動。


「スキル———【看破】」

「っ!?!?」


 俺のスキルによって隠密系統の異能が反発し、その効力を消す。

 同時。

 眼の前に突如、漆黒のボロボロな黒装束を身に纏った予知で見たモンスターのボスの右腕———レッサーリッチと時空の歪みを囲む幾何学模様の魔法陣が現れる。


「…………は?」


 ちょっと待て。

 ならこれは一体どういうことなんだ……?


 俺は、俺の手元にある真紅の宝石に思わず視線を落とす。

 宝石は未だ真紅の光を放っており……魔力を吸い取ってもいた。

 

 しかし、今レッサーリッチが張っている魔法陣は、魔法陣自体を隠すだけでなく時空の歪みから発生した魔力を吸い取って何処かに転送している。

 それだけでなく……魔力を吸い取っている魔法陣だけで十分時空の歪みの発生を隠せるだけの性能があるように俺には見える。


 

 つまり———俺の手元にある真紅の宝石は時空の歪みとは何ら関係の無いモノ、ということになるわけだ。



 ……なら誰がこんなモノを?

 吸収している量からして相当高そうだけど……。


 頭に疑問符を浮かべる俺だったが……神埼のモンスターであるクロウの遠吠えによって思考が遮られてしまった。

 しかしクロウの遠吠えはタイミングが良く、俺がハッとして時空の歪みとレッサーリッチに目を向けると———白骨化した人形のモンスターが続々と時空の歪みから出てこようとしていた。


「マズっ!? スキル———【鎮魂歌レクイエム】」


 俺は驚きに瞠目するも即座に冷静さを取り戻す。

 対アンデットスキルである聖なる魔力の乗った音の衝撃波が時空の歪みから出ようとするアンデット達に直撃。


「「「「「———ァァァァァァ……」」」」」


 ジュゥゥゥ……と焼けるような音と共にアンデット達が跡形もなく消滅する。

 予知通り今回のモンスターは一般異能力者の天敵であるアンデットだった。




「まぁ考えるのは後にして———とりあえず全部ぶっ倒しますかね?」




 俺は神埼のお陰で殆ど人が居なくなった真夜中の住宅街で、スキルの効果によって青白く発光する手を前方に翳した。 


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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