第19話 

「———本当に、ありがとう」


 襲撃者達を撃退してから30分が経ち、外も暗くなって来た頃。

 転移した先———俺の家で、終始無言でホットココアをちびちびと飲んでいた神埼が、突然口を開いたかと思えば……俺を見つめ、頭を下げて言ってきた。

 俺は、予想以上に真剣な瞳を向けてくる神埼を少し驚いた瞳で見つめ返す。


「お前……ちゃんとお礼言えるのな」

「……せんぱいの中で、私は暴君?」

「いや違う。暴君は他にいるから」

「怜太、それは誰のことだ?」

「勿論真希ちゃ———何でいるのぉぉぉぉおおおおおおお頭がぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」


 まだ居るはずのない真希ちゃんにアイアンクローを御見舞され、俺は情けなく悲鳴を上げる。

 痛みの中、真希ちゃんの表情を見ると……露骨に安堵した様子だった。

 その表情が起因しているのか、今回は直ぐに頭から手を離してくれた。

 俺は未だ痛みの残る頭を押さえ、元凶へと涙目を向ける。


「いてて……本当に何でいるんだよ。姉さんは仕事あるだろ……」

「心配して仕事放って帰ってきたに決まってるだろ。お前は何で素直に褒めさせてくれないんだ?」

「……我慢すれば良いじゃん」

「我慢したら調子に乗るだろう?」


 良く俺を分かっているじゃないか。

 流石真希ちゃん……伊達に何年も一緒に住んでいるわけではないな。


「……過保護め……」

「もう1度頭を潰され———」

「でも———」


 俺はガシガシと頭をかき、恥ずかしさから目を逸らしながら言った。



「あ、ありがとな……心配してくれて」



 再び俺の頭を掴もうとしていた……いや危なっ!?

 もう1度やられたらトマトみたいに真っ赤な何かを飛ばして潰れちゃうよ!?


「…………」

「あ、照れてる」

「……五月蝿い。少し黙ってろ」


 真希ちゃんが俺の頭を優しく撫でながら、若干頬を赤くしてそっぽを向く。

 相変わらず褒められるのにめっぽう弱いな……と俺が照れている真希ちゃんを眺めてニヤニヤしていた時———。



「……ん、何を見せられてる?」



 完全に蚊帳の外と化していた神埼が、俺達2人に呆れた様な視線を向けながらポツリと呟いた。










「———ん、驚愕。せんぱい、真希先生と一緒に住んでる」

「まぁ姉さんは俺の従姉で保護者みたいなもんだから」

「そういうことだ。神埼も驚かせて悪かったな」

 

 リビングのテーブルに座った俺達は、神埼に一先ず俺と真希ちゃんの関係を話す。

 神埼は、俺と真希ちゃんの関係性を説明されて少々驚いている様子だった。


 この話、2年の間では結構有名なんだけど……1年では違うんか?

 真希ちゃん黙ってたら超絶美人だし、1年でも人気あるって聞いたことあるけど。


 意外だな……何て思っていると、俺達の対面に座る神埼がホットココアが入ったコップを置いて、何故か首を傾げる。


「なら、広瀬先輩も兄弟?」

「何でそうなった? アイツとはめちゃくちゃ赤の他人だが?」

「ん、仲いい」

「それだけ??」


 それだったら多分超絶陽キャは家族数百人いるぞマジで。

 悠真だって数十人くらいになるんじゃね?

 ……地獄やん。


 中々にカオスな光景を思い浮かべて顔を顰める俺に、神埼が口を開く。


「ん、せんぱいの異能って?」

「いきなりそこ行く!? さっきまでの話はマジで何だったの!?」

「??」

「覚えていらっしゃらない!? 不思議ちゃんだなお前マジで!?」


 さっぱり意味が分からないと言わんばかりにキョトンとする神埼に、俺はさっきとは別の意味で頭が痛くなって思わず頭を抱えてしまう。

 また、俺の横にいる真希ちゃんも神埼を見て少し瞠目していた。


「よく話が噛み合わないと生徒に聞いていたが……相当だな」

「?? どういうこと?」

「この話やめよ? この話は多分きっと永遠に続いてこっちのイライラが募るだけな気がする」


 俺は、今までの話の流れをばっさり切るように大きな咳払いをする。

 咳払いが合図となり、神埼の表情も真剣な面持ちに変わった。

 そんな神埼の様子を確認した後、最後に真希ちゃんに目線を向けた。

 真希ちゃんも俺に目を向け———お互いの視線がぶつかる。


 ———本当に言うけど良いよな?


 ———好きにしろ。お前が話すと決めたなら、私は口出しするつもりはない。

 

 一瞬の間にそんなやり取りをしたのち、俺は口を開く。


「あー……結論から言えば、俺の力———スキルは異能とは少し違う。異能は先天性のモノだし、1つの異能で様々な使い方が出来る。それに進化だってするのに代償なんかもない。正にチート能力だ」


 そう、俺にとって異能はどんな能力であれチートに見える。

 どれだけ雑魚っぽい能力であっても必ず何かしら使い道があるし、俺みたいに代償を気にして使う必要もない。、

 雑魚能力だと思っても、いざ進化したら超絶強くなることだってある。


「けど、俺のスキルは違う。真反対と言ってもいい。後天性だし、単体だとマジで使えないモノもある。1つのスキルで1つの使い方しか出来ない。それに進化なんかしないし———何より全てのスキルに多かれ少なかれ代償がある」

「……っ、代償って?」

「スキルによって違うな。そうだな……例えば、俺が男にボコボコにされた後に傷を治した【復元】ってスキルあるだろ?」

 

 このスキルは神埼も目の前で見ているので知っているはずだ。

 神埼も覚えていたのか、分かる、と返事するように頷いた。


「ん、一瞬で傷が治った」

「そうそれ。あれな、正確には治してるんじゃなくて復元してるんだよ。俺の現在の身体情報を消して、消えた所に過去の身体情報を補って身体の事象を書き換えてるから……使用中は全感覚が消えるし、終わっても吐き気が止まらん」

「……」

「当然そうポンポン短時間に使えない。まぁクールタイム24時間ってところかな。仮に短時間で複数回使ったら……多分死ぬ。あと使用中に邪魔されても死ぬ」

「!?」


 神埼が驚愕に目を見開いた。

 ガタッと椅子から立ち上がり、見開かれた瞳が俺を射抜く。


「……なら、時間開けて使えばいい」

「ところがどっこい。復元は最長1時間前しか復元できない。つまり……1度使った後に腕が吹き飛んだりしたら、今後2度とその腕は復元できない。1時間前の自分に腕がなかったら過去の情報を補った所で腕はないだろ? あと他には……あ、今日何で俺が襲撃に対処できたか気になってるだろ?」

「……ん」


 寧ろ神埼にとってはそれが1番気になってるかもしれないな。


 俺は自分の眼を指差し、言った。


 

「俺———あの状況とその先をこの眼で1度見てんだよ」

「……??」



 神埼は俺の言っている意味が分からないと眉をひそめる。

 そんな神埼に真希ちゃんが代わりに言った。



「簡単に言えば、怜太は未来を見たんだ。———【予知】というスキルでな」

「!?!?」



 その言葉を聞いた瞬間———神埼は過去一の驚愕を顕にし、露骨に狼狽える。

 それもそうだろう。

 だって未来視系の異能は———。





 ———国家で厳重に管理され、死ぬまで、それか自我が崩壊するまで、自分の意志関係なく働かされるのだから。

 

 

 

 

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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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