第18話 交戦②
スキル———【煉獄】。
自身を中心とした半径50メートルを業火に包み込むスキル。
業火は風を燃やし、水を燃やし、魔力さえも燃やすが……別のスキルの効果で俺が指定した相手は業火の効果を受けない。
その強さゆえ、俺の持っているスキルの中でも比較的上位に位置するスキルだ。
「ば、馬鹿な……有り得ない……貴様は一体何者なんだ……!!」
「だからただの新米護衛って言ってんじゃん」
燃え盛る業火が公園の全てを燃やす中、愕然と言葉を紡ぐ男にそう返しながらも、俺も内心驚愕していた。
今話している男は、間違いなく俺が瀕死に追い込んだはずだ。
それなのに、いつの間にか再生していたのだから。
「……再生に付随する異能か……」
チッ……これは面倒な相手に当たったな。
俺がスキル———【炎操作】で【煉獄】の業火を操って神埼を保護しながら内心舌打ちしていると……男が口を開く。
「ふぅ……少し取り乱した。我らしくない」
「いや、俺はお前を知らんから分からんけど……」
「だが———貴様の弱点は見切った」
……へぇ……面白い。
「……っ、な、何だ、その顔は……!!」
男が怒りを瞳に宿して怒鳴ったことで、俺は初めて気付く。
随分と自信ありげに言い放った男の言葉に———俺が無意識の内に笑みを浮かべていたことに。
俺は直ぐに表情を取り繕い、肩を竦める。
「いや……本当に弱点を見つけたのかな、と思ってな」
「くッ……まぁいい。そう余裕でいられるのも今の内だ」
男は忌々しげに吐き捨て、再び右腕を膨張させる。
それと同時。
男の身体がブレた。
「っ!?」
「ハァッッ!!」
俺が知覚した時、男は既に俺の眼前にいた。
俺は反射的にスキル———【物理結界】を張ろうとして……止める。
もう展開が間に合わないからだ。
だから———俺は、敢えて生身で受けた。
———ドゴォオオオンッッ!!
俺の腕に触れた瞬間。
大型トラックに衝突したかのような衝撃波が俺を襲う。
視界がブレ、身体が宙に舞う。
剛腕を受け止めた両腕が折れ、激痛が走った。
「ぐッ……」
「かぁぁあああああッッ!!」
男は吹き飛ぶ俺に追い付くと、裂帛の叫びを上げて腕を振り下ろした。
今度は俺の鳩尾にクリーンヒット。
「カハッ……!?」
俺はスーパーボールのように弾かれ地面に叩き付けられる。
肺の空気が吐き出され、視界がチカチカ点滅する。
おぉぉ……くっそ痛ぇ……。
「せんぱい……!」
「かはっ……ゴホッゴホッ!!」
「ふん……他愛無い。やはり貴様の弱点は近接戦だったか」
男が地面で動けないでいる俺を見下ろし、吐き捨てた。
俺はそんな男に、問い掛ける。
「……貴様らは、何者だ……? 何故……か、神埼を攫おうとする……!?」
「……冥土の土産に教えてやろう。あの女は、我らが主———ゴッド様が欲しているからだ。理由は知らんがな」
なるほど……つまり、これは何か大きな組織が関わっているのか。
理由を知らないとなると……この強さで下っ端ってことになる。
はっ……随分と巨大な組織に狙われてんのな、神埼。
炎の中で此方を涙を流しながら心配そうに眺めている神埼に、俺は視線を移す。
俺のせいとは言え、酷い顔をしている。
———ここが潮時か。
「スキル———【復元】。10分前の状態に」
俺の身体が光に包まれる。
全身の傷が、最初から存在していなかったかの如く消失。
俺は、何事もなかったかの様に立ち上がった。
「…………!?!?」
目の前では、男が驚愕に目を見開いて言葉を失っている様子だった。
俺は、そんな男ににこやかな笑みを浮かべる。
「いやぁ……良い情報ありがとな。俺、尋問苦手だから手間が省けて良かったよ」
「馬鹿な……」
「あ、そう言えば、俺の弱点……だったっけ? お前確か『貴様の弱点は近接戦』とか自慢気に言ってたよな?」
俺はスキル———【身体強化】【加速】を発動させ……一歩踏み出す。
男は今この瞬間、そう知覚したはずだ。
しかし———それは既に過去の姿。
現在の俺は、既に男の鳩尾に拳を撃ち込んでいた。
俺は男が吹き飛ぶ刹那の間に、そっと耳元で囁く。
「———俺、近接戦の方が得意なんだよ」
「———ッッ!?!?」
男は怒りや憎悪、痛みや恐怖からなる声にならない叫びを上げ、俺が1番最初に張っていたスキル———【亜空間結界】に叩き付けられた。
———ドゴオオオオオオオオオンッッ!!
【亜空間結界】は結界内を亜空間として現実世界と切り離すスキルだ。
今頃外では、俺達どころか炎すら姿も形もないだろう。
勿論原理は知らんが……相当等級の高い空間作用系の異能でなければ絶対に外に出られない、俺のスキルの中でも最硬度を誇る結界である。
欠点は———10分間俺でも解除できないことと、こじ開けると外に影響が出ること。
流石はスキルクオリティー。
「おっと、アイツは拘束しとかねぇとな。スキル———【無効結界】」
俺は落下する男に手を翳し呟く。
途端、男を半透明の結界が包む。
また、男の膨張した腕が元の大きさに戻る。
これでよし。
あとは適当に放置して国家能力隊に任せよっと。
「さて———次はアンタだ、お姉さん」
「!?」
俺はスキル———【転移】を発動。
パッと光が俺を包み、風で身を守りながら神埼の真後ろに潜んでいた女の眼前に転移した。
女はバッと俺を見上げ、恐怖に顔を染めた。
「き、貴様は何も———……え……?」
「お前は話さなくて良いぞ。どうせ大した情報なんか持ってないんだろうし」
何か言おうとした女。
しかしその言葉が最後まで紡がれることはなかった。
———ブシャアアアアアッッ!!
ボトッ……っと肘から下が地面に落ちる。
血が噴き出し、地面を真っ赤に染めた。
切り落としたのだ。
俺が女の腕を、手刀で。
「ァァァァァアあアアあああ腕がアアアアアアアア!?!?」
女は絶叫する。
涙と鼻水を流し、涎が口から垂れる。
俺はそんな彼女を———冷めた目で見つめていた。
……はっ、随分と痛みに耐性がないじゃねぇか。
そんな体たらくで———神埼をあんな目に合わせたのか??
今も予知で見た光景が、鮮明に脳裏に浮かぶ。
感情をあまり表に出さない神埼が、女の異能で四肢を引き裂かれて泣き叫ぶ姿が。
男の異能で四肢を再生され、自我が崩壊するまで四肢を切り裂かれ続ける姿が。
魔力が空っぽになるまで引き抜かれ、異能を奪われた挙げ句、そのまま放置されて失血多量で死ぬ光景が。
「……チッ、クソッタレが……」
俺はそう吐き捨てた後……女を蹴り飛ばす。
女は簡単に吹き飛び、結界に拘束された男の隣で止まった。
「お前らは一生監獄で暮らせ。スキル———【
消去するのは、過去30分の記憶。
俺との戦いの記憶。
このスキルの欠点は———5割の確率で全記憶が無くなること。
まぁこいつらならいいだろ。
それに……まだ国家能力隊にバレるわけにはいかないんでな。
俺はスキルが作用したのを確認した後、ぼーっと俺を眺める神埼に視線を移してそっと手を差し伸べた。
「聞きたいことが沢山あるだろうけど……取り敢えず、帰ろうか」
「……ん」
「スキル———【転移】」
神埼は一瞬ジッと俺の手を見つめるも……そっと手を握る。
そして一瞬の光に包まれ———跡形もなく消えた。
———崩れゆく結界から差し込む茜色の夕陽が、何事もなかったかの様に存在する公園を照らすのだった。
—————————————————————————
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます