第17話 交戦①(途中から神埼琴音視点)

 ———後3分か……。


 俺は神埼との何気ない雑談の間に、チラッとスマホの時計を眺める。

 それと同時進行でスキル———【空間把握】で半径50メートルの情報を常に取り込んでいるが……まだ特に強大な魔力の気配はない。

 

 ……チッ、何処にいんだよ。

 一応予知で見た場所に向かってはいるけど……本当に当たるんだろうな?


 俺は、今更ながらに予知を疑ってしまう。

 勿論近くの人が関わる予知なんて殆ど見ないのもあるが……1番は、当日の予知を見るなんて事自体初めてのことだからだ。


「……せんぱい? 話、聞いてた?」

「ん? あぁ……すまん、全く聞いてなかったわ」


 いけない、少々予知に思考が奪われすぎていた様だ。

 あんま普段と違う様子を見せないようにしないと……。


「…………」

「……悪かったからそのジト目を納めてくれませんか、神埼さん」

 

 俺は無言でジト目を向けてくる神埼にぺこぺこ頭を下げる。

 それでも少しの間ジト目だったが……気が済んだのか、ふっと一瞬視線を外したと思ったらいつものぼーっとした瞳に戻っていた。

 

「ん、次無視したら蹴る」

「はいはい分かっ———蹴る!? うっかりスルーしそうになったけどいきなり暴力とは少し物騒すぎやしませんか!?」

「別にせんぱいなら、私のよわよわキックなんて効かない」

「もしかしてこの前身体能力雑魚って言ったの根に持ってる?」

「……持ってない」


 持ってんじゃねぇか。

 

 そう、俺はスッと目を逸らした神埼に言おうとして———止めた。

 いや、止めざるを得なかった。


 俺の【空間把握】に強大な魔力が2つ出現したのだ。

 どちらも人間、推定魔力量は2つとも【S】。

 

 俺は、突然気配を変えたことに驚いた様子の神埼を護るように立ち、スマホの時計を確認する。

 時刻は———4時32分、予知とピッタリだ。

 場所も予知と同じ、木が鬱蒼と茂る手入れの大してされていない公園の前。


「せ、せんぱい、何が———」

「———神埼、1つ約束して欲しい」


 俺は神埼の言葉を遮って口を開き、背中越しに話に付いて行けずオロオロしている彼女に一瞬視線を向けた後、更に続けた。



「———どうか今から起こることは、他言無用で頼む」



 その言葉と同時。

 俺達を2つの影が覆い、真上から湾曲した剣を両手に持つ黒装束姿の女と、片腕が膨張して変色した同じ黒装束姿の男が降ってくる。

 2人は俺ではなく———神埼目掛けて、剣を、剛腕を振り下ろす。

 神埼は突然の襲撃に呆気に取られて呆然と上を向いていた。


 一見完全に嵌められた構図。

 しかし———全て、予知通り。



「スキル———【物理結界】」



 俺は神埼と襲撃者達との間に半透明の結界を張る。


 ———ギャリィィィィィィ!!


 結界に、シミターと呼ばれる湾曲剣と男の剛腕がぶつかり、金属が削られる様な音を上げて火花を散らす。


「「「!?」」」


 襲撃者達がフードの下で驚愕の表情を浮かべる。

 しかし直ぐに表情を戻して飛び退き、俺を睨んできた。


「……貴様、何者だ……? 我らの襲撃にいつ気が付いた……?」

「さぁな。てか誰が教えるかっての。頭大丈夫?」

「せん、ぱい……?」


 襲撃者の男が瞳に警戒の色を宿し、神埼が俺を呼ぶ。

 そんな彼女は、襲撃者同様、驚愕に目を見開いている。

 俺はそんな神埼に、いつも通り、へらっと笑ってみせた。

 



「心配すんな。こんな奴ら———この怜太様がボッコボコにしてやっから」






 






 ———……私は、夢でも見ているのだろうか。


「———【風切】ッッ!!」


 フードを被った女が両手のシミターを振るって異能を発動させる。

 風の斬撃だ。

 それも数も裕に10は超えていて、速い。


 しかし———。


 

「スキル———【風刃】」



 せんぱいはその場から一歩も動かず同じ様な風の斬撃を同じ数だけ飛ばした。

 2つの風の斬撃がぶつかり、相殺。

 

「なっ———」

「退け、俺がやる」


 驚愕する女と入れ替わる様に男が現れ、気付けばせんぱいの眼前にいた。

 私では目で追えぬ圧倒的速度。

 その速度に乗ったまま、膨張した腕を振るう。

 私は思わず声を上げた。


「せんぱい———ッ!!」

「まぁ焦んなって。スキル———【物理結界】」


 ———ガァァァァンッ!!

 

 再び半透明の結界が剛腕を受け止め、辺りに衝撃音が響き渡る。

 男は再び防がれたことに忌々しげに舌打ちした。

 

「チッ……何なんだコイツは……ッ!!」

「ただの新米護衛です。スキル———【水牢】」

「ガボッ!?」


 せんぱいが、飛び退く男目掛けて手を翳した。

 その瞬間———男の全身を球体の水が包み込む。

 しかし、せんぱいは追撃をやめない。


「いいもんやるよ。スキル———【雷轟】」


 ———ズドオオオオオオンッッ!!


「ぐあああああ———ッッ!?!?」


 天より出し一条の極雷が、水を呑み込む。

 私の相棒———クロウより強力な雷が炸裂する。

 辺りが雷光と雷鳴に包み込まれた。


 私は咄嗟に目を瞑りながら、思考を動かす。


 ……おかしい……。

 せんぱいはF級異能で銃以外の攻撃手段は無いはず。

 そもそも異能は基本一属性のはず……!


 それにこの威力———国家能力隊を遥かに凌駕している。


「マッド!? このッ———【風切:竜巻】!!」


 女が黒焦げになった男を驚愕の瞳で見つめたのち、異能を発動。


 足元に風が吹く。

 小さな小さな風。

 しかしその風は一気に私達を引き裂く無数の風の斬撃を伴う巨大な竜巻になり———天に立ち昇る。


 ———ギャリィィィィィィィ!!


 私達を護る結界に風が触れ、削る音が鳴り響く。


「これでどうです!? この竜巻は決して貴方達を逃さない!! そして風に触れた瞬間鉄も容易に斬れる!! ここが貴方達の墓場ですッッ!!」

「…………」


 女の勝ちを確信したかのような高笑いが響き渡り、その間も、風が絶えず結界を攻撃している。

 そして結界に亀裂が入ったその時———。



「———ハッ、墓場にしては随分とヌルいな」



 せんぱいは———女の言葉を鼻で笑い飛ばした。

 女の高笑いが止まる。


「……今、何と?」

「ヌルいっつったんだよ。この程度が墓場? 墓場ってのはな———」


 せんぱいが、ボソッと呟いた。

 私にギリギリ聞こえるほどの声量で……。



 スキル———【煉獄】、と。





「———こういうのを言うんだよ」






 その瞬間———竜巻が爆ぜ、辺りが真紅の炎に包まれた。

 

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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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