第16話 新たな予知

「…………何なんだ、この予知は……」


 未確認生物の依頼を終えてから1週間。

 俺は、予知を見て飛び起きた。

 全身にかいた汗でTシャツが張り付く不快感など忘れてしまう程に早く刻む心臓を押さえて呟く。

 ふと時計に目を向ければ、まだ朝の3時。

 外もまだまだ暗く、明かりの付いている家も少ない。

 

「くそ……やっぱり予知なんか大嫌いだ……」


 ベッドから降り、顔を顰めながら汗でベトベトになったシャツを脱ぎ捨てる。

 相変わらず予知の後は寝不足で頭痛が酷く、視界がぼやける。

 俺はクローゼットに手を付き、もう片方の手で頭を押さえた。


 クソッ……本当に最悪な気分だ。

 しかも今回の予知は……チッ、頭痛ぇしもう寝れそうにねぇな。


 俺は一先ず汗を流すべく風呂に向かおうとして……部屋の扉が開いた。

 

「……どうした怜太?」

「…………姉さん」


 真希ちゃんだ。

 真希ちゃんが白のネグリジェ姿で、此方を心配そうに見つめながら立っていた。

 俺は未だ歪む視界の中で真希ちゃんに視線を向ける。

 

「おい、本当に大丈夫か……!?」

「へ、へへっ……少し目眩が……でも大丈夫……」

「嘘つけ、ひどい顔だぞ。……また予知か? いや……厳密には予知の内容だな?」


 敏いというか……本当に俺を良く分かってる。

 昨日、強制的に依頼を受けさせた横暴教師とは思えない。


 真希ちゃんは俺に近付き、支えるように身を寄せる。

 そして俺に囁くように訊いてきた。



「怜太、教えてくれ。———一体何を見たんだ?」



 真希ちゃんは真剣な表情だった。

 そして、誤魔化しは許さない、と言わんばかりの表情だった。


 ……ほんと、真希ちゃん———いや、姉さんには敵わないな……。


 俺はふっと小さく笑みを零した後、真希ちゃんの目を見つめ、口を開いた。




「———今日、放課後に神埼が誘拐される。そして……その日の内に異能を奪われ、殺される」




 そして———阻止するには、スキルを使わざるを得ない。

 

 


 


 

 

 

「———一緒に帰るぞ、2人で」

「……何で?」 


 放課後。

 俺は神埼に1人で会いに、1年3組に来ていた。

 しかしいきなり一緒に帰る……それも2人で、と言い出すものだから神埼も訝しげに此方を見る。

 

「……広瀬先輩と恋花先輩は?」

「あ、あいつらは……あぁ、あいつらなー……」


 神埼のぼーっとした瞳が俺を射抜き、少したじろぐ。


 えっと……何て答えよう。

 スキルを使うからあいつらには見られたくなくて帰らせた、何て言えないしな。

 てか、あいつらを帰らせた時も……。



『おい、恋花』

『どうしたの?』

『今日、俺の考えたデートコースで悠真とデートしろ。悠真が拒否したら骨の一本くらいへし折っても構わん』

『ええっ!? そんなことしないよっ!? というか何でデート!?』

『ほぉ〜〜お前は悠真が取られても良いんだな。アイツ、めちゃくちゃモテるんだけどなぁ〜? あ、そう言えば昨日も美少女に告は———』

『行くっ! 絶対行くっ!!』



 ……と、恋花を脅———提案して先に帰らせたんだよな。

 ……ほんと、何て言おう。


 そう悩んだ結果、俺の捻り出した答えは———。



「……で、デートに行った」

「デート?」


 

 何の捻りもない、ただの報告だった。

 しかしもう言ってしまった手前、引き返せない。

 俺はそのままゴリ押すことにした。


「そ、そう! 恋花に昨日悠真が美少女に告白されてたぞーって伝えたらデートに行くって悠真連れて帰ったんだよな! だ、だから、俺達2人で帰ろうぜーってこと! は、はは……」


 俺は未だに向けられる疑いの目からそっと目を逸らし、誤魔化すように乾いた笑みを浮かべる。

 そんな俺をじーっと見ていた神埼だったが……小さくため息を吐いた。


「そんなに緊張しなくても、そもそも断らない。私達はべすとふれんど」

「べ、別に緊張なんかしてないが!? おい、勘違いすんなよ。緊張なんて1ミリもしてないからな!?」

「……ふっ、そういうことにしとく」


 ヤレヤレと仕方無さそうに頭を横に振る神埼は、手早く鞄に荷物を納め始める。

 俺はその様子を眺めながら、若干の遺憾はあるものの……取り敢えず断られなくて、ホッと安堵に胸を撫で下ろす。


 いやぁ……ヒヤヒヤしたぜ。

 一瞬断られるかと思ったわ。


 俺がそんなことを思っていると……帰りの支度が終わったらしい神埼が鞄を持って俺に話し掛けてきた。

 

「ん、行こ」

「そうだな」

「??」

「? どうした?」


 神埼から行こうと言ったのに、何故か立ち止まっては、俺を見つめるぼーっとした瞳が少し見開かれる。

 俺はその行動の意味が分からず尋ねてみるが……神埼は少し何かを考える素振りをみせたあと『なんでもない』と言って俺を追い抜かし、前を歩く。


 ……何だったんだ?

 

 俺は前を歩く神埼を眺め……今はそんなことを気にしている場合じゃないな、と頭を振って神埼を追い掛けた。



 ———神埼……お前は必ず俺が護ってやるからな。



 そう、強く誓いながら。


 

 

 

 

 

 

 


 

 ……せんぱいは、気付いていたんだろうか。


 私は隣を歩く、護衛兼べすとふれんどのせんぱいに目を向ける。

 今でこそ普段と変わらぬへらへらした表情を浮かべているが———。




 ———あの一瞬、何か思い詰めた様な表情をしていたことを。




—————————————————————————

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る