第15話 見回り

「———幾ら相手が俺達だからって人使い荒いよなぁ……」

「報酬ある。妥当」

「だけどなぁ……」


 俺、悠真、恋花に神埼の4人は現在、家に帰るのではなく、例の未確認生物を探して見回りをしに街まで来ていた。

 神埼の言う通り、報酬まで出てしまった手前、やらないわけにはいかなかったのだ。


「でもなぁ……探すっつってもどうやって探すんだよ?」

「怜太、未確認生物の好物知ってるか?」

「知ってたらもう未確認でも何でもねぇわ」


 俺は、阿呆なことを抜かす悠真に半目を向けたのち、もう夕方ということもあって人通りの多い辺りを見渡す。


 しかし見渡す限り、人、車、ビル、そしてまた人。

 既に30分以上探しているが、当たり前と言わんばかりに全くその未確認生物は見当たらない。

 こうなったら、俺達のやることは1つ。


「よし、帰ろう」

「そうだな、俺は賛成だよ」

「ちょ、ちょっと待ってっ! まだ30分だよっ!?」


 俺達が家の方向に踵を返した瞬間、恋花が持ち前の馬鹿力で肩を掴む。

 同時に、俺達の肩からミシッと言う鳴ってはいけない音が鳴った。


「待って! タイム! ミシッっていったから! 鳴っちゃいけない音が鳴ったから!」

「恋花、やめて!」

「あっ、ごめんねっ、悠真君」

「俺は!? 待て待て待て待て、俺は!?」


 顔を赤くして悠真の肩だけあっさりと離した恋花に、俺は痛みで顔を顰めながら猛抗議する。

 その間にもミシミシと順調に肩の耐久値が削られていた。


 いやいやいや痛いって! 

 このままだと普通にマジで肩粉砕するって!!

 てか恋花お前悠真に惚れてるからって恥ずかしがって離してんじゃねぇよ!


 そんな焦燥に駆られる俺を見かねたらしい神埼が、恋花の袖を軽く引っ張り、ぼーっとした瞳を俺に向けた。


「ん、恋花先輩。せんぱいの肩、潰れる」

「あ、忘れてた」

「忘れてた!? おまっ、人の肩を潰そうとしていながら忘れてた!? ならこの手は自立式か何かなんか!?」


 俺がやっと開放された肩を擦りながら吠えると……恋花が何故か、本当に何故か疑問符を頭に浮かべて首を傾げた。


「?? 自立式って何なの?」

「ごめん、そんな馬鹿だとは思ってなかった。本当にごめんな?」

「謝られたっ!? しかも何でそんな可哀想なモノを見るような目を向けてくるの!?」


 いや、自立式が分からない17歳はヤバいって。

 生きていけないって。

 自立式分からないとかマジで危機感持った方がいい。


 俺はあまりの驚愕に内心で某ユーチューバーの言葉のマネをしてしまう。

 横では、悠真は勿論、神埼までもが目を見開いて驚いていた。

 そして3人の視線を一身に受けた恋花は……羞恥に顔を手で覆ってしまった。


「う〜〜〜」

「やっぱ恋花はこの時が1番可愛いよな。なぁ、悠真」

「うん、それはマジで分かる。何か庇護欲湧く可愛さよな」

「か、可愛っ……!?」


 ミスった。

 俺が追い打ち掛けてどうするよ。

 

 若干自分の言葉に反省していると、神埼が俺の袖をクイクイ引っ張って何処かを指差した。


「何だよ神埼」

「……ん、あれ」


 そう宣う神埼の指の先を追い———どす黒いスライムみたいなモンスターなのかすら分からない、未確認生物としか言い表せない生き物(?)がいて……思わず真顔になる。


「何かいるな」

「でしょ」

「どうしたの?」


 俺はまだ見つけれていない恋花と悠真にも教える。

 2人とも俺の指の先を追い———同じ様に真顔になった。


「いるな、未確認生物」

「だろ?」

「いるね」

「……取り敢えず追い掛けるか」


 こうして———誰もが予想打にしなかったであろう長時間チェイスが開始した。

 



 


 

 

 

 

 

 

「———捕まえたら、絶対ぶっ殺してやる」

「同意」

「俺も」

「……否定できないかな」


 既に追い掛け始めて2時間。

 もう完全に陽は沈み、街灯と車のライトが道を照らす。

 人混みは相変わらずだが……何処か活気が増していた。


 そんな中、俺達は大変ご機嫌斜めであった。

 あの未確認生物は、勿論未だ掴まっていない。

 というか常に20メートル先におり、完全に俺達は遊ばれていた。


「え、何であんなグニョグニョで動くことさえ奇跡みたいな見た目のくせにクソ速いんだよ。可愛くないメ◯ルスライムか何かかな? それってつまりただの煽り性能高いだけの粗大ゴミじゃんか。死ね」

「お口が悪いよ、怜太君」


 鬱憤を晴らすがごとく口を開いた言葉を恋花に注意される。

 しかし、『悪口はダメだよ』と言わない辺り、少なくとも恋花も俺と同じ様なことを思っているという証左に他ならない。

 

「なぁ、怜太。もう良い加減異能発動させていいよな?」

「……まぁ待てよ。俺もそうしたいのは山々なんだが……まだここには人が大ぜ———」

「———【テイムマスター:召喚サモン・インビジブルモンキー】」

「俺の話を聞いてたのかなオイ!?」

 

 俺は顔色一つ変えず異能を発動させた神埼の肩を揺らすが、神埼は短く言った。



「———倒した」

「良くやった神埼。ナイス判断!」

「手のひら返し早っ」



 神埼にサムズアップする俺を見て悠真が呆れた様に呟くが……何はともあれ、こうしてイライラの積もったゴミ依頼が終わった。















「———……ふむ、やはり失敗作ではこんなモノか。まぁいい。次に活かせば良いのだからな」


 そう、怜太達と未確認生物———失敗作のチェイスの一部始終を見ていたフードを被った男が呟く。

 しかし、そんな男の隣で、同じフードを被った女が面倒臭そうにため息を吐いた。


「はぁ……別にあんな駄作を使わずとも、私達が攻めれば問題ないのでは?」

「……そうだな。あまり遊んでいては、のお怒りを買ってしまいそうだ」


 男は残念そうにしながらも、何かを恐れた様子で頷く。

 そんな2人の視線は———。





 ———怜太と談笑する神埼琴音に向いていた。





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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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