第12話 ボスモンスター①

 ———どうやら神埼は、上手く俺の撒いた餌に食いついてくれたみたいだな。


 気取られる様に最新の注意を払って俺のことを訝しげに見つめる神埼の様子を、【空間把握】で監視しながら、内心ほくそ笑む。


 そう、全て———俺の思惑通りだ。

 先程の雷の攻撃然り、時空の歪みを予め知っている風に言葉を濁したことも然り……その全てが、神埼の興味を俺に向けるための行為だった。


 まず時空の歪みの場所と崩壊する時間を彼女に伝え、心の中に疑惑の感情を生み出す。

 そして先程の雷の攻撃の際、俺は敢えてスキル———【多重結界】を使うことで、更にその疑惑を増大させる。

 そうすれば、好奇心旺盛な彼女は、俺の正体を突き止めるために嫌でも護衛の件を承諾してくれるはすだ。


 まぁあくまで保険、と言うだけだ。

 それにしては随分と賭けに出たと言えなくもないが……それには目を瞑ろう。


 因みに【多重結界】は、物理攻撃、魔力攻撃共に防いでくれる、スキルにしては便利な能力だ。

 勿論スキルなので、1度防ぐと絶対に壊れると言うデメリットもあるが。


 何て俺が考えていると……他とは一線を画す絶大な魔力を内包した生物を感知。


「ガルッ」

「お、クロウも察知したか」

「ん。私も気付いた」


 クロウは前方に向けて威嚇し、神埼の顔は真剣味を帯びている。

 そして俺も———少し気を引き締めた。


 ……ちょっと予想以上に強いな。

 

 だが、俺達なら倒せない相手じゃない。


 俺達は警戒度を引き上げて、木々によって光が遮られ、薄暗くなった道無き道を慎重に進むのだった。










「———ストップ」

 

 歩き始めて数分。

 遂に絶大な魔力の持ち主を視界に収めた俺は、神埼に(クロウは何故か神埼が召喚をやめた)停止の合図を送り、前方を鋭く睨む。

 そんな俺の視線の先には———。




 頭と前足が鷲、胴体と後ろ足がライオンという、架空上の生物———グリフィンが、巨大な岩に寝そべって目を閉じていた。




 ……ふ、不意打ちで倒してぇ……。


 俺の心はそう叫んでいるが———。


「……っ、ほ、欲しい……!」


 俺の視線を辿ったらしい神埼がグリフィンの姿を捉え———瞳を輝かせる。

 そしておねだりする子供の様に俺の服を引っ張ってきた。


「先輩。あの子、欲しい……!」

「……使役の条件は?」

「私の魔力が、一瞬でも使役対象を上回ること」


 ふむふむ……つまり、神埼はこう言いたいわけだ。

 グリフィンの魔力量が自分の魔力量より少なくなるまで時間稼ぎ宜しく、と。


 …………ぶっ殺してやろうかこの野郎。

 

 グリフィンと言えば、A級最上位のモンスターじゃねぇか。

 国家能力隊数人でも手こずる相手だぞ?

 そんな化け物を俺1人で、尚且つスキルもナシで時間稼ぎしろと言うのかこの馬鹿娘は。


「……因みに拒否権は……」

「ない。そういう約束」

「…………」


 ですよねー。

 仕方ない……死ぬ気で頑張りますか。


 俺は愛銃『黒天使』の銃口をグリフィンに向ける。

 そして———。



「———《速度最大。弾丸を【属性:毒】に変更。状態モード:散弾》———【発射】」



 ゆっくり引き金を引いた。

 銃口より射出された弾丸は、森の中を駆けてグリフィンに迫る。


 しかし相手も強力なモンスター。

 瞬時に弾丸に気付いたグリフィンは、触れてはいけないと勘付いたのか、避けようとその巨体からは考えられない速度で横に飛ぶ。

 そんなグリフィンを見て———俺は嗤う。



「———【散れ】」



 俺が唱えた瞬間。

 何にも触れていないはずの弾丸が突然無数に散らばり、グリフィンにも幾つかの破片が着弾。

 同時に、グリフィンが突然悲痛の叫びを上げる。


「キュルァァァァァァァァ———ッッ!?」

「な、何が起こってる?」

「何って……ただの神経毒だぞ? 身体への影響は若干感覚が麻痺するだけだけど……何故か物凄い激痛が走る。使ったのは初めて」


 俺の説明を聞いた神埼は、唖然とした表情で俺とグリフィンに視線を行き来させた。

 

 おーおー良い顔ですな。

 さてさて……これで、スキル無しでも時間稼ぎ出来るな。


「おい、中途半端野郎! この俺と楽しい舞踏会に洒落込もうじゃねぇか!」

「キャルアアアアア———ッッ!!」


 草むらから飛び出し大声を上げる俺を、グリフィンが怒りに染まった瞳で睨んでくる。

 同時に、毒を喰らっていると思わせない程に機敏な動きで、鋭い爪のある前足で俺を引き裂かんと襲い掛かる。


「はっ、見え見えな攻撃だな!」


 挑発を交えながら横に跳躍。

 更に、跳躍で浮遊した身体をグリフィンに向け、驚愕によって出来た隙を狙い、『白悪魔』の引き金を引く。


 ———ブシャァ!!


「キュァァァアアアアアア!?!?」


 銃口より吐き出された弾丸は、鷲の前足を貫通。

 グリフィンの悲鳴が辺りにこだまする。


 ……何か胸が痛むな。

 まるで俺が弄んでるみたいじゃん。


 俺は心の中で謝罪しながら距離を取り、呼吸を整える。


 今の所は俺の方が優勢だが———本番は此処からだ。


 俺は改めて気を引き締め、使用禁止時間クールタイムの終わった『黒天使』も構えた。


—————————————————————————

 長くなりそうだったので、2話に分けました。


 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

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