第11話 時空の歪み攻略②

 ———時空の歪み。

 それは地球と異界とを繋ぐ次元の裂け目であり、基本的に異界側から発生する膨大な魔力が時空に穴を開けたために発生する。

 謂わば、地球は偶々時空が開いた時に固定された座標だったと言うだけだった。

 

「さてと、今回のステージは……森林か」


 これも予知通りだな。

 予知に出て来たモンスターも猿系とか狼系が多かったからな。


 俺は鬱蒼と生い茂る全体的に巨大な森を見渡して、今回の予知にも間違いはないと判断する。

 同時に、隣で体長5メートルは裕に超える銀色の体毛に覆われた白狼と、その白狼の背に乗った神埼の姿に呆気に取られた。


「……この子、神埼が使役してんの?」

「クロウは特別。この子は私が死なない限り死なない契約を結んだ」

「何だよそれ? お前の異能にそんな能力まであったのかよ」


 初耳な情報に少なからず驚く。

 朝日奈から聞いた情報にはモンスターを使役するとしか聞かされてなかったからだ。

 

 俺が目の前の光景に呆気に取られてぼーっとしていると、神埼が気だるげな瞳を此方に向けてきた。


「何してる? 早く乗って」

「え?」

「先輩、気配の察知が出来る。クロウと協力してボスモンスターを探して」

「何で俺が気配の察知が出来るって……」

「時空の歪みを私とクロウより先に察知した」


 あ、確かに。

 まぁ厳密には予知なんだが……勘違いしてくれていた方が都合いいか。


 俺はそう判断を下し、クロウと呼ばれた白狼の背に恐る恐る乗った。

 クロウは俺が乗ったのを確認すると……障害物の多い森林の中だと言うのに、新幹線よりも速く駆ける。

 しかし、速さとは反比例に揺れは全くと言っていいほど感じなかった。


「す、すげぇ……」

「ふふん。これが、クロウ。強さも、先輩が相手したモンスターより強い」

「……マジ?」

「ん、圧倒的」

 

 どうやら神埼は、俺と戦った時は本気じゃ無かったらしい。

 こちとら死ぬほど大変だったってのに。

 

 俺は、クロウを褒められて自分のことのように喜ぶ神埼を見ながら内心戦慄する。

 同時に、十傑と呼ばれる者達が如何に異次元なのかも理解した。


「先輩、ボスモンスター」

「ん? あ、ああ……ちょっと待ってな」


 神埼の指示に、俺は素早くスキル———【気配感知】と【魔力感知】を発動させる。


 えーっと………………。


 俺は、そっとスキルを解除する。

 

「…………」

「?? どうした、先輩? ……クロウ、何で止まる?」


 突然真顔で無言を貫く俺に、神埼が訝しげな視線を向けて尋ねてきたが……直ぐに歩みを止めて辺りを警戒し始めたクロウへと注目が移る。


「ガルルルルルルル……」

「せ、先輩、何が起きてる?」


 不安げに瞳を揺らして俺とクロウに交互に視線を移す神埼。

 そんな彼女の疑問への答え合わせとばかりに、俺は『黒天使』と『白悪魔』を森林の中に撃つ。

 発砲音ののち、風切り音と共に2つの弾丸が森林の中を駆け———。



「———ギャガ!?」

「グギャッ!?」



 何もないと思われた所から断末魔が響く。

 神埼が驚愕に目を見開いて音のした方に顔を向ければ……スーッと徐々に何もなかった所から体長2メートル程の猿型モンスターが額と心臓に風穴を開けた姿で現れた。

 神埼は信じられないと言った面持ちでそのモンスターの下に歩いて行くと、神妙な顔で呟いた。


「……インビジブルモンキー」

「何そのクソダサネーミング。普通にこの猿に同情しちゃうんだけど」

「五月蝿い」

「……うっす」

 

 一瞬で黙らされる俺、ダサ過ぎない?

 しかも後輩。


 心の中で涙しながらも、俺はスキル———【空間把握】で自身を中心とした半径50メートル以内の石ころ1つに至るまで情報を把握し、目に見えないインビジブルモンキー目掛けて連続で引き金を引く。

 しかし、倒すよりも応援の量が多く、俺達は見えないながら全方位囲まれていた。


「マズい、完全に囲まれた! 神埼は倒せねぇのか!?」

「……っ、うるさいっ」

「お前場所が分かってねぇの!? 気配の感知くらい出来るようにしとけよ!?」


 まぁかくいう俺も、スキルに頼っているだけで全然人のこと言えないんだけど。

 てか誰だよ、攻略は簡単とか言った奴!?

 俺だよな、勿論知ってましたよ!


 過去の自分をぶん殴ってやりたい、と内心毒づきながら、インビジブルモンキーに噛み付いて対抗しているクロウに吠える。


「クロウ、お前は気配で何となく見えてるよな!?」

「ガルッ!」

「よーし良い子だ! それなら神埼を護ってくれ! この量は普通に俺1人じゃ抑えきれん!」


 勿論1人なら適当なスキルブッパで簡単に全滅させれるけれども!

 スキルはコイツの前では使えないんだよな……ちくしょう。


 俺は、既に半径50メートル以内に100以上存在しているインビジブルモンキーへ爆破弾に変更して発砲しながらクロウに指示を出す。

 クロウは俺の指示に従い、神埼を自らの背に乗せ———突然天に吠えた。



「———アォォォォォォォォォォン!!」



 ———ズドオオオオオオオン!!


 クロウの声に呼応する様に、天より一条の雷が雷鳴を纏って飛来。 

 雷光が視界を奪い、地面へと衝突した揺れと轟音が辺りを支配する。


「……こんな強いなんて聞いてないぞ、俺は!」


 俺は耳を手で塞いで鼓膜を護り、目を瞑りながら絶叫を上げる。

 それから数秒間はジッと動きを止めたのち、ゆっくりと目を開いて———。


「う、嘘だろ……」


 目の前の惨劇を目にしてポツリと呟く。


 木々やモンスターは灰燼と化し消失。

 雷の直撃した地面には直径50メートル前後のクレーターが広がり、置き土産とばかりに青白いスパークが奔る。

 先程100頭以上いたモンスターも、雷の餌食にならなかった奴らは蜘蛛の子を散らすように逃げ出したらしく、周りには俺達以外の反応が無かった。


 ……何でもっと早く使わなかったんだ?

 これ使えばあんなに俺が必死にならなくて済んだのに……。


 そんな疑問を抱く俺だったが……何故かホクホク顔の神埼を視界に捉える。

 俺は疑問符を頭に浮かべ、神埼に尋ねた。

 

「……何でそんなに満足げなんだ?」

「ん。インビジブルモンキー5体、ゲット」

 

 そうクロウの背から降りた神埼が言うと同時に、目の前に確かに5体のモンスターの気配が現れる。

 どうやら彼らは、神埼のお眼鏡に叶い、命を散らさずに済んだらしい。


「……はぁ、もう早く先進もうぜ……」


 俺は大きくため息を吐きながら、再び歩き始めた。











「……どうして、先輩は無傷……?」


 クロウの力は私以外には効果を発揮するはずなのに……。


 私は、疲労を微塵も隠そうとしない先輩を眺める。


「……本当に、何者?」


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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