第10話 時空の歪み攻略①

「———じゃあ、行ってくる」

「ああ、気を付けるんだぞ。何かあったら私がぶっ殺してやるからな」

「は、ははっ……何もないように気を付けるよ……」


 発破をかけているのか脅しているのか分からないことを宣う真希ちゃんに、俺は顔を引き攣らせながら頷く。

 

 時刻は朝の5時30分。

 まだ5月と言うこともあって外は暗い。

 普段ならば夢の中で美少女達とハーレムイチャイチャしているか、最悪な予知を見ている所だが……今日は珍しく朝早くに起きて準備も終えていた。

 これを毎日繰り返している真希ちゃんや他の教師には頭が上がらない。


「何でこんなにオシャレをしているのかは聞かないでおこう」

「うん、聞かないでくれると助かる」


 流石に女子と時空の歪みに行くから少しでも見栄を張りたいたなんて恥ずいことは言えない。 

 気遣いの出来る従姉がいてくれて俺は嬉しいよ。


 俺はもう一度『じゃあ行ってくる』と告げて玄関の扉を開ける。

 外は5月と言うこともあって梅雨特有の陰湿な空気が立ち込めていた。


 はぁ……あの時は手伝いいてラッキーとか思ってたけど、いざってなると緊張するな。


 しかも、相手は学校でも有名な美少女。

 その人気は凄まじく、既に何十人もの男子が告白して玉砕しているとの噂だ。

 

「……まぁ時空の歪みを攻略するだけだし大丈夫だろ」


 俺はそう自分に言い聞かせて心の平穏を保ちながら———【転移】を発動した。









 ———転移した先は、隣の地区であり、日本で最も栄えている第15地区(東京)。

 しかし俺の転移した先は、その地区の中でも田舎の部類に入る八王子だ。


「さて……近くに神埼がいるはず……」


 俺はスキル———【魔力感知】と【気配感知】を駆使して神埼を探す。

 ここで、普通にその2つじゃなくて【空間把握】を使えば良いと思うかもしれない。

 しかし、使わない理由もあるのだ。


 【空間把握】は精度こそピカイチだが、こういった広い場所から探すとなると如何せん情報量が多過ぎる。

 あまり多いと、頭の血管が切れて大変なことになってしまうのだ。


 血管切れたらガチで走馬灯見るんだよな。

 流石にもう2度とあんな目には絶対会いたくないもんだ。


 過去の出来事を思い出して顔を歪めていると……【魔力感知】と【気配感知】に神埼の反応を捉える。

 どうやらちゃんと待ち合わせの場所に来てくれている様だ。


 俺は、少し足早に待ち合わせ場所へと歩みを進めた。









「———何でこんな所に?」


 合流した学生服姿の神埼が、辺りに視線を巡らせたのち、懐疑的な視線を俺を向ける。

 ただ神埼がそう言うのもそのはず。


 実際、目の前には普通の住宅や畑が広がっているだけなのだから。


「……手伝うのは嘘?」

「いや待て待て! 早まんなって! あと数分だから!」


 俺は神埼を宥め、スマホの時刻を確認。

 現在時刻は5時47分。

 あと本当に数分の辛抱なのだ。


「てか、神埼は何で学生服なんだ?」

「……持ってる服で1番安全。佐々木先輩こそ何で私服?」


 黒のスキニーパンツに白Tシャツの上に黒のカーディガンを羽織り、ネックレスとピアスを付けた俺を、神埼が半目で見つめる。

 恐らく、場違いではないのか、と言いたいのだろう雰囲気がありありと浮かんでいた。

 

「……もしかしてデートだって浮かれた?」

「は? んなわけないだろ」


 嘘です。

 時空の歪み攻略とは言え『これってデートに入るんじゃね?』と妄想してしまった悲しいDTです。

 

 ただ、勿論そんなダサいことは言えないので……素知らぬフリをしておく。

 そんな俺を、神埼は更に追求しようと口を開きかけたその時———。



「———来た」

「っ!?」



 突然、膨大な魔力が放出。

 同時に目の前の畑の5メートル上辺りの景色が歪み……直径1、2メートル程の漆黒の穴が開く。


「これ、は……」

「そう、時空の歪みだ。さぁ神埼、異能力協会に連絡宜しく!」

「……」

「いやそんな目を向けるなよ。俺はライセンス持ってないんだからお前しか出来る奴いないじゃん」


 ギロッと俺を睨め付ける神埼に、俺は必死の言い訳……と言うより事実を話す。

 残念ながら俺は十傑ではないので、未だライセンス無しなのである。


「……はぁ、あとで色々と聞かせてもらう」

「お手柔らかに頼む」

「嫌」


 そう言った神埼は、仕方なしと言う雰囲気を出して目の前の時空の歪みを睨み付けながら電話を掛ける。

 電話は2コールの後で掛かった。


『はい、此方異能力協会日本支部です』

「第3異能学校の神埼琴音。目の前に時空の歪みが発生。対処する」

『神埼琴音……Aランクの神埼琴音さんですね。承知致しました。念の為、此方の人間を派遣致しましょうか?』

「ん、お願い」

『承知致しました。到着は10分後と予想されます。それでは、ご武運を』


 ———ツー、ツー。


 神埼は電話が切れたのを確認すると、スマホをポケットに収める。

 そして入れ替わる様に手に銃を持った。


「おお……流石現役異能力者。応対がこなれていますな」

「無駄口叩くな。それより、何でここに現れると分かった?」


 神埼が探るような視線で俺を見つめる。

 俺はそんな視線を受け、小さく笑みを浮かべた。


「それは———企業秘密、ってことで」

「……そう」

「それより、目の前の時空の歪みだろ? これ、1時間後には崩壊するからとっとと攻略するぞ」

「!?」


 俺の口から発せられた新情報に、神埼は目を見開き、俺に不気味なモノを見るような目を向けてきた。


「……本当に先輩は、何者?」

「……さぁな」


 自分でも分からねぇよ。

 

 そう心の中で毒付きながら、俺も愛銃である『黒天使』と『白悪魔』をガンホルダーから取り出し———時空の歪みへと侵入した。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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