第8話 いざ、後輩のクラスへ

「———…………」

「怜太ー、大丈夫かー? てか麗華さんと何か話し———」

「聞いてくれよ悠真ぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は朝比奈麗華と入れ替わるように、わざわざ心配からか保健室に来てくれた悠真に泣き付く。

 しかし悠真は俺をあっさり避けて不気味げな瞳を向けてくる。

 

「ど、どうした……?」

「あの女が! あの女が俺に最悪な依頼をしてきたんだよ!」

「あの女……あ、麗華さんか」

「麗華さん……?」


 俺の聞き間違いかな?

 何か悠真が親しげにあの女を『麗華さん』と呼んでる気が……。


「さてはお前……敵側だな? なら帰ってくれ。お前に話すことはない」

「いきなり辛辣だな!? どこに俺が敵側だと判断する所があったんだよ!?」

「あの女のことを麗華さんとか親しげに呼んでるじゃねぇか。言ってないとは言わせないからな?」

「あー! 何だ、そのことか」

「そのこと?」


 俺が親の仇を見るような視線を向けていると、悠真が合点したと言わんばかりに手を打って話し始めた。


「いやな? 俺って優秀だからだいぶ前から【草薙】に誘われてたんだよ」

「俺は自慢を聞きたいわけじゃないぞ? 自慢なら恋花にしてこい」

「別に自慢じゃないわ! その【草薙】に誘ってくれたのが麗華さんなんだよ。それでそう呼ぶようになっただけだって」


 あー、なるほど。

 つまり……悠真がお得意の無自覚女たらしを発動させて距離を詰めたってわけか。

 もう『女たらし』っていう異能力作れよ。


「ま、とにかく、何があったか教えてくれよ」

「……まだ完全にお前を信じてないからな」

「いや疑り深っ!?」


 俺は疑惑の目で悠真を見ながら口を開く。


「……あの女が、神埼琴音が何者かに狙われてるから護衛をしろって言うんだよ」

「あぁ……お前が使役モンスター全部倒して勝ったあの子ね……」


 そう、俺がただ勝って気まずいと言っているわけではない。

 神埼琴音がそれなりに気に入っていたらしいモンスターを、全部再召喚出来ないほどコテンパンにして勝ってしまったのが気まずい理由だ。

 それも彼女は後輩で、傍から見れば、年下の女子をボコボコにする最低な男みたいな構図なのが尚いけない。


 正直そんな俺が彼女を護衛するなんて不可能だと思う。

 近寄るな、の一言で一蹴されて終わる未来が予知スキルなんか使わなくても目に見える。

 あの女、絶対声掛ける奴間違えてるだろ。


「ただもう教師にも言ってるらしくて断れないんだよ……くそったれが」

「そ、それは気まずいな……お、俺が間に入ってやろうか?」


 俺の気まずさを想像したのか頬を引き攣らせながら提案してくる。

 きっと悠真は善意100%で言っているのだろう。

 ただ、俺の答えは1つだ。




「———チェンジで」

「何でぇ!?」




 だってお前がいると、女子がお前ばっかり好きになるんだもん。

 俺だってモテたいんだもん。


 と言うことで、俺は1人で神埼琴音に会いに行くことにした。

 


 










「———ここか……」


 朝比奈とのやり取りから1日。

 学校内で最も休憩時間の長い昼休憩の中、俺は明日は予知で学校に行けないので、仕方なく神埼琴音に会いに来ていた。


「き、緊張するな……」


 俺は1年3組と書かれた教室プレートを眺め、生唾を飲み込む。

 緊張から心臓が普段より早く鼓動を刻んでおり、足も若干震える。

 そんな俺を見て———悠真が呆れた様子で言った。


「……お前、その調子でよく1人で行くとかほざいたよな」

「う、五月蝿いぞ。俺はお前みたいにコミュ強の女たらしじゃないんでね」

「俺は女たらしじゃねぇよ?」

「1回自分の過去を俯瞰して見てみろクソイケメン。絶対そんな言葉ほざけなくなるから」


 結局、悠真に着いてきて貰った。


 だが、決して日和ったわけではない。

 悠真がいた方がスムーズに話が進むと考えただけだ。

 他意はない。


「……よし、行くか」


 必死に自分の過去を追想している使えない悠真を無視して、俺は覚悟を決めると1年3組の扉を開ける。


「すんません、神埼琴音っています……か……」


 瞬間———1年3組の生徒達の目が一気に此方へ向いた。

 その視線の殆どが好奇に満ちているが……ただ1人。


 肩でまで伸びた黒髪に、気怠げな様子でずっとジトーっとした瞳の美少女———神埼琴音だけは違った。

 彼女だけは俺を見た途端に目を見開いたかと思えば、全く隠そうともしないで露骨に顔を顰めて嫌悪や怒りの籠もった視線を向けてくる。


 やばい、普通に泣きそう。


 開始数秒で心がボロボロになる俺だったが、1年3組の誰かが俺を見ながら『あっ!』と何か思い出したかのように声を漏らして言った。



「———あ、あの人って『万能射撃士』の佐々木怜太先輩じゃね!?」



 …………お?


「マジで!?」

「あ……確かに2丁の銃持ってる……なら本物!? ヤバっ、めちゃくちゃ有名人じゃん!」

「あの佐々木先輩!? マジかよ!!」

「え、私普通にサインもらいたんだけど」

「私も!」

「しかも噂よりイケメンじゃん!」

「それな!」


 1人の言葉が伝染し、1年3組は完全にお祭り騒ぎとなる。

 そして俺も、内心で物凄くお祭り騒ぎになっていた。


 ふ、ふふっ……俺が有名人だってよ!

 それも女子からサイン欲しいとかイケメンとか言われてるじゃん!

 やだな〜〜有名人は困っちゃうな〜〜!


「なぁ怜太? やっぱり幾ら思い出しても何も———むぐっ!?」

「は、ははは……神埼琴音っている? ちょっと用事があるんだけど……」


 俺は何か言っていた悠真の口を手で塞ぐ。

 しかしそれだけではまだ心配なので……更に、絶対に声が漏れないようにスキル———【消音】も使って二重の対策を講じる。


 今コイツの存在を知られて全ての注目をコイツに奪われるなんて絶対許さん。

 一体今まで何度俺や休学中のアイツの注目を奪っていったか……考えただけでイライラするぜ。

 たまには俺にもチヤホヤさせろってんだ。


「むぐぐ……お、おい怜太てめぇ……」

「黙ってろよクソイケメン。俺は今最高の気分なんだ。話したらアイツの分まで俺がぶっ殺してやる」


 俺は、口を塞ぐ手を解こうと藻掻く悠真を横目に、訝しげな視線を向けながら此方に歩いてくる神埼琴音を笑顔で待った。

 

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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

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