第7話 訪問と頼み

「———気絶、したのか……」


 俺は目を覚ました直後、辺りを見渡してこの場が保健室であることと同時に、自身が気絶したことを理解する。

 今、俺はベッドに寝かせられてカーテンで個室へと変えられていた。

 それにしても……めちゃくちゃ頭が痛い。


「痛ぇ……やっぱ【自動回避】なんか発動させるもんじゃないな……」


 まぁ発動させたくて発動させたわけじゃないけど。

 こういうのがたまにあるからスキルは怖い。


 俺は痛む頭を押さえながらゆっくりベッドから起き上がり……ふと小さな気配を感じ取り、不思議に思ってスキル———【空間把握】を発動。

 一瞬でこの保健室内全て———障害物も何もかもが情報として頭に入り込む。

 そしてカーテンの斜め左奥に何者かがいることを悟り、小さくため息を吐いた。


 さて……ここで話し掛けるか、話し掛けられるのを待つか。

 ワンチャンこのまま寝たフリしとけばバレな———。


「……起きてるわね?」

「……」

「今更無駄よ。私の感知能力を舐めないでほしいわね」


 ……めちゃくちゃバレてーら。

 

 正直勘という線も無いこともないが……相手が相手なので有り得ない。

 間違いなく相手は、俺が起きていて何者かがいることに気付いていることに気付いている。

 俺はこれから起きそうな面倒事に辟易しながら、その者の名を紡ぐ。



「……何の用ですか? 【草薙】副隊長———朝比奈麗華さん」

「あら、気付いていたの? 流石———『万能射撃士』の名も伊達じゃないわね」



 そう言って———小さく笑みを浮かべた朝比奈麗華がカーテンを開けた。










「———勝つとか豪語していた割に、情けない負け方だったわね」

「やめて下さい」

「でも、ウチが目に掛けている広瀬君相手に貴方は頑張ったと思うわよ?」

「本当にやめて下さい。同情されるほど惨めなものはないんですよ」


 現在俺は、ベッドの横に椅子を置き、それに座った朝日奈麗華によって辱めを受けていた。

 あまりの恥ずかしさに俺は耳を手で塞いで喚く。


「わーわー聞きたくないですー! こんなことのためにここに来たんですか、朝比奈副隊長は! 副隊長もお暇ですねー!」

「あら、貴方が本題に入りたくないかと思って無駄話を続けてたのだけれど……本題に入る?」

「どうぞ、無駄話をして帰って下さい」


 普通に聞きたくないので。


 しかしそんな俺の意図は、全く伝わらなかったのか、伝わっていたけど無視されたのか知らないが……結局効果はなく、真剣ながら此方を疑うような懐疑的な表情の中で話が始まった。


「佐々木君……あの時、どうやって避けたのかしら?」

「……あの時とは?」


 俺は朝比奈からの鋭い追及の視線を受け、心臓が跳ね、喉が酷く乾く感覚に苛まれながら訊き返す。

 そんな俺を朝比奈は更にジッと見つめてきたが……ふっと視線を逸らしてため息を吐いた。


「貴方が結界を破壊した攻撃の後よ。あの距離であの速度の攻撃を避けれる自信は私でもないわ。もう1度訊く。あれ……どうやって避けたのかしら? そう言えば戦いの最中、何度か微弱な魔力反応も出ていた様だけれど……」

「それは……」


 嘘だろ……アレ見られてたのか?

 あの時は爆煙で中の様子はまだ見えなかったはずなのに……。

 てかスキルの発動に気付くとかどんだけ感知能力高いんだよ。


 俺が少し衝撃的な彼女の言葉に、何と返さばいいか考えあぐねていると……中々答えない俺に朝比奈の視線が鋭く、そして表情が険しくなっていく。

 しかし俺の答えを待つのが面倒になったのか、彼女が俺を睨み付け、臨戦状態に入りながら先に核心を突く発言をした。



「はぁ……もう良いわ。単刀直入に訊くけど———貴方、『千差万別の仮面王』よね?」



 ……何でバレた??


 俺は内心物凄く動揺しながらも、スキル———【冷静】を発動して動揺を絶対に外に漏らさないようにする。

 このスキルは俺の持つスキルの中でも特に魔力を使用しないので、流石の朝比奈でもバレないはずだ。

 

「は、ははっ……そんなわけ無いじゃないですか。あのSS級指名手配の奴が俺? ありえないですね。それに聞けば奴は数多の異能を使うらしいじゃないですか。F級異能の俺には不可能ですよ」

「でも記録によれば、貴方の異能は発動不可のはずだけど? それに貴方の魔力の動きがアイツと似ているのよね」

「…………」


 そんな所まで気付く奴がいるとかもう狂ってるだろ……!

 これだからコイツには絶対会いたくないんだよ……!


 そう、俺は彼女———朝比奈麗華と『千差万別の仮面王』状態の時に何度か交戦しているのだ。

 まぁ毎度俺が彼女を出し抜いて逃げおおせているのだが……ゴリゴリの近接タイプなので正直めちゃくちゃ面倒臭い。

 しかもそれが彼女には相当な屈辱らしく、俺が現れたと知ったら業務を放って向かうこともしばしばあるとか。


 俺はそんな『THE天敵』である彼女に、笑みを浮かべる。


「またまた〜〜朝比奈副隊長は冗談がお好きですね〜〜? 俺みたいな一端の生徒なんかと話さず悠真とでも話してたらどうですか? 間違いなく俺なんかよりよっぽど楽しいですよ?」

「あら、私が冗談を言っているように見えるのかしら? それなら……今からここで逮捕してもいいのよ? そうね、数週間拘置所に居てもらってその間アイツが現れなかったら確定でいいわよね?」

「「…………」」


 対する彼女も、俺同様笑みを浮かべた。

 お互いの視線がぶつかってバチバチと火花が散り、無言の膠着状態が続くが……その膠着状態を破ったのは朝比奈だった。


「はぁ……生徒相手にムキになりすぎたわ」

「本当ですよ。もっと優しくして下さいよ。俺って病人……なんでもないです」


 俺はギロッと殺意すら籠もってそうな睨みを効かせられて黙る。

 そんな俺に、朝比奈が言った。




「貴方……神埼かんざき琴音ことねって知ってるわよね? 彼女のことで頼みがあるのだけ———」

「お断りします」




 俺は速攻で断る。

 理由は単純だ。



 十傑第9席、神埼琴音は……F級異能者に負けた唯一の十傑———つまり、俺に負けた張本人あり、物凄く気まずいからである。



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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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