第5話 対戦表

 ———な、何も解決策が浮かばないまま遂に来ちまった……。


 俺はこの学校で最も大きな第1訓練場に整列して、冷や汗をダラダラ流しながら必死に焦りを隠していた。

 しかし、周りの奴らも浮足立っているお陰でソワソワしている俺が目立たないのは不幸中の幸いとしか言えない。


 何て思っていると……不意に肩に手を乗せられる。

 驚き過ぎて一瞬声が漏れそうになるもギリギリで耐え、精神統一をしながらゆっくりと後ろを向く。

 そこには———赤髪の少女がおり、俺の肩に手を置いて不思議そうに此方を見つめていた。


「え、どうしたの……? そんなにびっくりして……」

「……恋花か。ビビらせんなよな……あ、因みに悠真はあっちだぞ。ほらさっさと行った行った」

「ちょっ———そんな大声で言わないでよっ! じゃ、じゃあまた後でねっ!」


 そう言って頬を赤くしながら悠真の下へ走っていった少女———佐倉さくら恋花れんか

 ポニーテールの赤髪がトレードマークの体育会系美少女で、頭はおバカちゃんだが普通に引くほどの身体能力お化けであり、よく俺と悠真と絡んでいる所謂いつメンというやつの1人だ。

 因みに彼女の序列は十傑第7席で2年生の中なら3番目に強い。

 そして忌々しいことにクソイケメンである悠真に惚れている美少女の1人だ。


 ……あのクソイケメンは1度滅んだ方がいい。

 一体アイツは何人の美少女を侍らしてんだか。


「まぁ今はそんなことを考えている余裕は無いんだけどな」


 俺は、特別強大な気配がこの訓練場に近付いてきているのを感じて辟易する。

 もう俺的には普通に帰りたいのだが……目を光らせて此方を見つめている真希ちゃんがいるので絶対に不可能だった。

 流石従姉というべきか……完全に俺の思考を読んできている。

 恐ろしいったらありゃしない。


「2年生の諸君、これからこの場に【草薙】の一条真哉いちじょうしんや隊長と朝比奈麗華あさひなれいか副隊長がおいでになる! くれぐれも粗相のないように!」

「「「「「「はいっ!!」」」」」」


 本当に粗相しないよう気を付けないとな、特に俺。

 

 そんなことを思っていると……整列している俺達の右手側の入口の扉が開き、超絶私服姿の茶髪の男と、ビシッとしたスーツを来た黒髪の女が現れた。

 この2人が【草薙】の隊長、副隊長であると誰もが気付き、訓練場をピリついた緊張感が支配する。

 そんな中先生からマイクを受け取った茶髪の男———一条真哉がぐるっと訓練場にいる全員を見渡した後、にこやかな笑みを浮かべた。



「———始めまして、第3異能学校の2年生たち。今日は『あ、知らないおっさんと綺麗な美人さんがいるな』くらいに思っていつも通り頑張ってね」



 その瞬間全員の心の中が一致した。




 ———そんなこと出来るか!!

 

 


 俺が、正体を隠し通せるか更に不安になったのは言うまでもないだろう。














「———それじゃあ今日はそれぞれの担任が考えた対戦相手と戦ってもらう」


 学年主任のハゲ先生の言葉を聞いた後、それぞれのクラスの前に担任の先生が立って話し始める。

 勿論ウチのクラスは真希ちゃんだ。

 真希ちゃんはハゲ先生の言葉を引き継ぐように口を開いた。


「まぁ……そういうことだ。私も一応対戦表は考えてきたが……不満があったら言ってみると良い」

「それは言ったら殺すってことで良いですか?」

「佐々木、お前は1回死にたいようだな」

「そんなわけ無いじゃないですか。普通に命は大事ですよ」


 俺は威圧感たっぷりな真希ちゃんの言葉に目を逸らしながらちょっと後悔する。

 ただ、真希ちゃんがさっき言った時随分と威圧感があったものだから……つい口に出ていたのだ。

 脊髄で会話をするのは本当にやめた方が良いかもしれない。

 絶対やらかす自信しかない。


「はぁ……取り敢えずこれ見て並びを変えろ」


 そう真希ちゃんがため息を吐きながら対戦表を掲げて言えば、皆んな何かしていないと緊張でどうにかなりそうなのか、いつもの比じゃないくらいに対戦表を我こそはと言わんばかりに見に行く。

 その姿はまるでバーゲンセール中の買い物客みたいだった。

 俺は勿論皆んなの気迫に圧倒されて出遅れた。


「……お前らそんな焦んなよな」

「いやお前は焦ろよ」


 俺がヤレヤレとジェスチャーをしながら首を横に振っていると、呆れた様子で悠真が言ってきた。

 そんな悠真の横には、餌に群がる鯉みたいなクラスメイト達を苦笑気味に見る恋花の姿もある。

 俺は余裕そうな2人を半目で見つめた。


「何だよ、十傑だから余裕ってか? 良い御身分ですなぁ?」

「いや序列戦をなるべく回避してきた怜太が悪いだろ。お前の実力なら十傑入れるくせに」

「そうだよっ! それに良い加減学校サボっちゃいけないよ!」


 耳の痛いことをズバズバと言ってくる悠真と恋花。

 こいつ等は言葉の威力を知らないのだろうかと思うほどに容赦ない2人に俺は胸を押さえながら言葉を返す。


「い、良いんだよ……俺は。十傑とか面倒な仕事あるし。あと毎日学校行ってるのに俺より座学の成績が圧倒的に悪い恋花にだけは言われたくない」

「あーっ! 怜太が言っちゃいけないこと言った! 私だって頑張ってるのにっ!」

「おいそこの3人早く並べ。お前ら待ちだ」


 図星をつかれてギャーギャー騒ぐ俺達を、真顔で見つめながら真希ちゃんが言う。

 そんな真希ちゃんの手にある対戦表には———。





「お、俺と怜太か」

「チェンジで」

「もう変更の受付は終わった」





 俺と悠真の名前が隣に書いてあった。

 因みに恋花は余りなので真希ちゃんとの対戦だった。 


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