第4話 学校に連行された理由

「———あれ? 結局来たのか?」

「…………察しろ」


 教室に来た俺を見て意外そうに零した悠真に、俺は死んだ顔で後ろにいる真希ちゃんを親指で指した。

 すると、突然親指がギュッと握られたかと思えば曲がってはいけない方向へと無理矢理曲げられる。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”指がぁああああああああああ———ッッ!?!?」

「教師を指差すな」

「あぁ……強制連行されたか」

「何か言ったか、広瀬? お前もこうなりたいのか?」

「いえ! 俺は断じて何も言ってないです、真希先生!!」


 俺の悲痛の叫びと真希ちゃんの凄みに気圧された悠真は速攻で従順な態度を示す。

 こんなのでこの学校の十傑第2席なのだから本当に意味分からない。

 しかし悠真の行動のお陰で怒りを鎮めたらしい真希ちゃんは、俺の親指を離して素知らぬ顔で教壇に向かった。


 くッ……この恨み……今度必ず倍にして返してやる……!


 俺はジンジンと痛む親指を優しく押さえながら、何事もなかったかの様に授業を始めようとする真希ちゃんを睨みながら心に誓う。

 しかし次の瞬間———真希ちゃんと目がバッチリ合った。

 

「何だ? 何か言いたいことでもあるのか?」

「……な、何にもないです……」


 俺は今は形勢が悪いことを悟って目を逸らす。

 そんな俺と真希ちゃんのやり取りを、悠真やその他の同じクラスの連中は楽しそうに見ていた。

 おい、俺は動物園のパンダじゃないぞ。


「早く座れ、佐々木」

「はい」

「くくく……言われてやん———の!?」


 俺はクラスメイトにも悠真にも笑われ、屈辱に身を震わせながら席に座る。

 しかし追加で余計なことを口走った悠真には、仕返しの鉄槌と言う名の脛蹴りを食らわせておく。

 素っ頓狂な声を上げて痛がる悠真を見てクラスメイト達の笑いは俺から悠真へと変わった。


「これでよし」

「あとで絶対ぶっ飛ばす。覚悟しとけよ怜太」

「言ってろクソイケメン」


 俺は小声で怨嗟を呟く悠真に適当に返事を返し、真希ちゃんの話に耳を傾ける。

 

「あの馬鹿のせいで少し授業の開始が遅れたが……今日は何の日か知っているか、佐々木?」


 まさかの俺ご指名である。

 しかし残念かな、今日が何の日かなど全く知らない。

 寧ろこっちが何の日なのか聞きたいくらいだ。


「分かんないです」

「じゃあ広瀬」

「国家能力隊の上官達が俺達2年生を視察しに来る日です」

「正解だ、流石広瀬だな。そう———今日は国家能力隊……その中でも選び抜かれた精鋭部隊である【草薙】の隊長と副隊長が来る日だ」


 そう真希ちゃんが言った瞬間———クラスメイト達がざわめき出す。


「う、嘘……あの【草薙】が来るの……!?」

「マジかよ……そんなのこの学校初じゃね!?」

「いや第1席の星羅せいら先輩が2年の時も来たって言ってなかったっけ?」

「どっちでも良いわそんなこと! これはチャンスだ……ここで少しでも目に掛けてもらえれば将来安泰だぜ!?」


 始めこそ信じられないと言った感じの皆んなだったが……徐々に状況を理解してボルテージが上がり出した。

 ただ、そうなるのも仕方のないことだろう。


 そもそも、国家能力隊自体が異能力者の中でもエリートしか入れないと言われている特別な組織であり、殆どの異能力者は企業のお抱え能力者になったする。

 勿論企業のお抱えと言っても大企業なら国家能力隊と同じくらいの待遇の所もあるが……国家能力隊に入れれば、絶対に倒産とかの心配がなく、給料も待遇も良いので将来安泰だと言われている。


 そして———国家精鋭部隊【草薙】はそんなエリート集団の中でも特に抜きん出た実力者達のみで結成された、文字通り日本最強の部隊だ。

 日本最強の部隊に入る=異能力者として最高の名誉と地位だと言っても過言ではなく、小さい頃に誰もが1度は『【草薙】に入りたい』と口にするくらいだと言われている。


 因みに現在の【草薙】のメンバーは十数名であり……全員が名の知れた有名人。

 例の魔導具職人も【草薙】のメンバーだ。

 先程名前の上がった十傑第1席の星羅先輩は、この学校初の次期【草薙】メンバーらしい。


 そんな有名人達の中でも特に有名な隊長と副隊長が来るときた。

 興奮しない奴らは居ない。



 

 ———俺以外は。




 俺は他の奴らとは反対に、苦虫を噛み潰したような表情になりそうなのを必死に堪えていた。


 なるほどね……道理で真希ちゃんが強制連行させてきたわけだ。

 昔から俺に国家能力隊に入って欲しいって言ってたもんな、真希ちゃん。


 さっきも言ったが国家能力隊は将来安泰と名高い職業だ。

 俺を心配してくれている真希ちゃんがこのチャンスを逃すわけがない。


 しかし———俺には会いたくない理由があった。


 本来、異能力を使うことが許されているのは『異能力者ライセンス』というモノを持っている者達だけで、十傑を除いた俺達のような学生は、まだそのライセンスを持っていない。

 そのライセンスを所持していない者は、限られた場所以外での異能の発動を許されていないのだ。


 纏めると、俺は普段から人を助けるためとはいえその規定を破っているわけで。

 毎度『誰にもバレていない』や『被害に遭う人を事前に逃がしているだけ』と真希ちゃんに嘘付いて言っていたのだが実は———。


「やべっ……マジでどうしよ」





 俺、佐々木怜太は———【千差万別の仮面王】として政府から指名手配されているのである。

 それも———最高等級のSS級として。





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