第2話 予知とはハラハラドキドキである

「———良かった。今日は県内で」


 俺は適当な所に転移したのち、短距離転移のスキルで転移を繰り返しながら時計を見てホッと安堵に胸を撫で下ろす。

 これなら余裕で時間内に間に合いそうだ。


 今いる場所は俺が住んでいる第14地区の中でも最東端の一角に位置する住宅街。

 そして今回俺が対処するのは、約1ヶ月前に予知で見たとある殺人事件だ。

 詳細は至って単純で、異界から漏れ出したモンスターが偶々出くわした住民を5人殺したのち、通報でやって来た国家能力隊によって殺されることで事件は解決する。


 しかし、それでは駄目だ。

 このまま俺が動かず未来がそのままであれば……国家能力隊が来る前に人が死んでしまう。

 それも住人は結構グロい死に方をしている。


 あの夢を見た時は普通に吐きそうだったな……。

 そこら辺は鮮明に見えないで欲しいんだけど……まぁ俺に制御できないから願っても意味ないんだけど。


「後15分か……見回りでもしとこうかな」


 俺は見た目の同じ家が立ち並ぶ住宅地に辟易しながら歩き始めた。


 幾ら同じ県内と言えどこの住宅地は1度も来たこと無いので多少は地理を知っておいた方が良いだろう。

 もしも国家能力隊が来るまでに倒せなかった場合、逃げ道でも探しておかないと面倒極まりないことになる予感しかないのだ。


「それにしても……何処からモンスターは現れたんだろ」


 普通モンスターが現れるには、モンスターのいる異界とこの世界を繋ぐ時空の歪みが近くにある必要がある。

 そして時空の歪みが現れる時は必ず隠しきれない魔力を放出する。 

 その魔力をまさかこの俺が見逃すなんて有り得ない。

 有り得ないはずなのだが……。


「……全然、感知できないんだよな。時空の歪みって開くのに結構時間が掛かるはずなんだけど」


 何て思っていたその時———上空に膨大な魔力反応が発生する。

 俺が即座に上空を見上げると……空間にひび割れたような亀裂が生まれ、その亀裂を無理矢理こじ開けようとモンスターの頭が出現した。


 試しに【炎矢】を放ってみるも———亀裂の発生に伴う膨大な魔力によって弾かれてしまう。

 俺はそんな様子を見ながら小さくため息を吐いた。


「はぁ……やっぱ俺のじゃだめか。まぁた後ろ手に回っちまったな」


 まぁ未来が変わっていないようで良かった。


 そう安堵する俺に気付いた、鷹を巨大化させたような飛行型モンスターが此方へと超高速で降下してくる。

 俺は撃墜しようとスキルを発動させようとして……人々が沢山見ていることに気付いた。

 

「おっと、ここで戦うわけにはいかねぇな。ちょっと移動するぞ」


 認識阻害の付いた黒い仮面を付け、スキル———【飛行】を発動。

 重力に逆らうように宙へ浮いた俺は、一気に高度を上げて此方へおびき寄せるための牽制の【炎矢】を【狙撃】スキルを発動させながら放つ。

 炎で出来た矢が一直線にモンスターに向かい……狙い通りにモンスターの瞳に突き刺さった。


「———ピャァァァァァァァァァァァ!?!?」

「うっせ!? まぁいっか。結果的に付いてきてくれたし」


 俺は、怒り狂って此方へと迫るモンスターを引き離しすぎないようにチラチラ確認しながら速度を調整して高度1000メートル程度の被害の及びそうにない場所で止まる。

 

「おい、カラス……いやカラスじゃねぇや。何て名前に……まぁ直ぐに終わるし付けるまでもないか」


 てかそんなことより急がねぇと国家能力隊が来るんだった!


「手短に終わらせるぞ!」


 俺はモンスターに手を向け———呟く。




「スキル———【重力操作】」




 ———グシャ。


 俺が手を握れば、呼応するようにモンスターは重力の力場に挟まれて圧死した。

 血すら残らず潰れたモンスターのいた場所を少し見つめていると……国家能力隊と思われる魔力反応が4つ此方に近付いてきたのを確認。

 後は政府の者達が時空の歪みも攻略されるだろうから、俺の役目はこれで終わりだ。


「さて、国家能力隊にバレないようにとっとと戻りますかね」


 俺はスキル———【転移】を発動した。










「———あぁ、疲れた。毎回予知が当たっているかヒヤヒヤするのはホントに心臓に悪いな……」


 特に俺の予知は、間違っていたら間違いなく死人が出てしまうからな。

 ほんとこんなスキル、今直ぐ無くなってほしいわ。

 

 俺は家に戻ってロングコートを脱いで仮面を外すとベッドに倒れ込む。

 毎回毎回この予知スキルにはとことん振り回されっぱなしで嫌になる。


「まぁ取り敢えず今日は寝よ———」


 俺が心地よい眠気に身を任せて目を閉じようとした時———。



 ———プルルルルルルル。



「…………無視しようかな」


 絶対真希ちゃんじゃん。

 ただでさえ疲れてんのにお怒りの言葉は聞きたくないよ。


 俺はスマホの着信音を聞きながら再びそっと目を閉じようとするも……突然俺の部屋に魔力反応を感知する。

 しかし感知したのは良いものの、逃げる間もなく1人の黒髪切れ目の女性———真希ちゃんが部屋に現れた。

 

 


「———担任の電話を無視して寝ようとしている不真面目な生徒はここか?」

「は、ははっ……こ、こんにちは真希ちゃん……」




 真希ちゃんの怒りに眉がピクピク震えている様子を見ながら、俺は乾いた笑みを浮かべた。

 

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 この作品では都道府県を第〜地区と現してます。

 北海道が第1地区、沖縄が第47地区です。

 そして怜太達が住んでいる14地区は神奈川です。


 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

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