第四話 奇跡の晴舞台


 舞台の灯りが暖かく照らす中、イケまち女二銃士の漫才は、観客の気持ちをつかむ笑いで徐々に高まりを見せていた。

 ふたりの掛け合いは、親しみやすい中盤から、終盤のクライマックスへと流れていき、観客は次の展開を期待して見守っていた。


 イケ子「せやったら、どないしたらええのや? あんじょう教えてや?」


 まち子「ぜんぜんややこしいこと、言うてへんで。簡単やろ。我欲をほかして、幻となった名作に、あんたが感想を寄せて光を当てるんや。感想やったら得意やろ?」


 イケ子「そらあ、そうやけど……」


 まち子「あんたが皆の名作を束ねて、エッセイを書いたらええんや。そないにしたら、もういっぺん、再生できるかもわからん。ほなら、あんたのフォロワーが増えるかもわかられへん。わかったやろ?」


 イケ子「なるほどなあ……。せやけど、うちのメリットはどこにあるんや?」


 まち子「まだわからんのかいな。ファンが増えた作家さんからの義理と人情の恩返しがきっとあるはず。お礼のプレゼントされたらどないすん。嬉しいやろう。本音で言うてみぃ。感謝感激雨あられやろ」


 イケ子「せやねんけど……」


 イケ子は、そうは言ってみたものの、まだピンとはきてない様子だ。彼女は首を傾げるポーズを取った。それを察したのか、まち子が言葉を続けてくる。


 まち子「次のコンテストの読者選考で、あんたが一番になるかもわからん。まだ、龍神ノベルス小説コンテストやったら、間に合うさかい。キーワードは、一芸、試行錯誤や。ちょうど今のあんたみたい。一等賞金はなんと百万円や、ええやろ」


 イケ子「ほしいけど、自信あれへんわ」


 まち子「イケイケのあんたならいける。うちがゴーストライターで書いたるから。せやけど、賞金は折半や。これ、儲かる話やで」


 まち子の提案に対し、イケ子は一瞬ためらいを見せた。しかし、その瞳にはわずかながら光が宿り始めていた。彼女の心の中では、不安と期待が入り混じりながらも、新しい挑戦への好奇心がじわじわと湧き上がっていたのかもしれない。

 まち子の言葉には、イケ子自身が忘れかけていた漫才師としての情熱が再燃する力があったのだ。


 観客たちもその変化を感じ取ったようで、イケ子が決意を固めると、会場は一層の熱気に包まれた。ひとりの観客は、イケ子の勇気に心を打たれ、目頭を押さえながら微笑んでいた。また、別の観客は、友人の肩を叩きながら、これから始まるであろう物語に胸を躍らせていた。


 まち子の相方を想う自信満々な姿勢に期待感が高まったのか、観客は、「ええぞ、ええぞ。鼻を明かしたらんかい!」 と声を大にして叫んだ。それは、涙もろい大阪のおっちやんによる、どこまでも温かい応援メッセージだった。


 まさみもつられたのか、目を輝かせて、まち子の表情を逃さないように、身を乗り出してじっと見つめている。


 イケ子がリヤカーを引く決意を固めた瞬間に、彼女の表情は一変した。不安げな面持ちが一掃され、代わりに自信に満ちた笑顔が浮かんだ。彼女は、まち子の提案に新たな希望を見出し、作家としても新しい一歩を踏み出す覚悟を決めたのだ。


 虫ニゲールプレミアムをリヤカーにぶら下げ、「効きまんねん。効きまんにゃわ!」と叫びながら、角川町を引いて歩いた。光が当たらず、ほこりを被った名作を再び世に問うために。観衆は、イケ子の決意に盛大な拍手を送り、その勇気を讃えた。

 

 そして、その日、角川町は不思議な騒ぎでいっぱいになった。リヤカーを引いて歩くイケ子の後ろには、興味津々の人々がついてきて、埋もれた名作に新たな命が吹き込まれたという。まち子のアイデアは、まさに小さな奇跡を起こしたのだった。


 会場は笑いと歓声が交錯する中、私はイケ子の行動に感動し、彼女の背中を見守った。そして、観客からは盛大な拍手が送られて、舞台の幕が下りた。


 そして、イケ子が舞台を去る際、観客からは惜しみない拍手が送られた。彼女たちの漫才は終わったが、その日の物語はまだ終わらない。この後にもっと感動的なドラマが待ち受けているとは、思ってもみなかった。


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