第3話:妖狐の村

 一人の女性が森の中を駈けていた。

 女性には狐のような耳があり、八本の尾が生えていた。


 一見獣人のようだったが、詳しい者が見れば気づいただろう。彼女が魔獣の中でも進化し続け、人の身体を手に入れた非常に貴重な存在であると。


 しかし、そんな強大な存在であるはずの彼女は焦りを隠せない様子で駈けていた。


「ニナ! どこじゃ! ニナ!」


 彼女の眷属である子狐は普段からこの「断片の森」に勝手に訪れていた。


 この森には魔物はいないとは言え、肉食大樹が辺りに根を張っていて、万が一があれば危険だ。たびたび注意はしてきたのだが今日は夕方になっても帰ってきていない。これは何かがあったに違いないと、慌てて飛び出してきたところだったのだ。


 何せ、今日は久しぶりに「残滓」が落ちてきたのだから。


 この森は人間からは「断片達の墓場」と呼ばれている。人間達が「不明の残滓」や「不明の断片」を遺棄する場所。それがこの森だ。


 そして、「不明の残滓」はともかく、「不明の断片」は予期しない強大な力を持った存在である。普通は落下したあとそのまま動けなくなり、大樹の餌食になるだけだが、極々稀に生き残ってしまう個体がいる。


 そういった「不明の断片」に村を襲われたことも一度や二度ではない。もちろん撃退こそしてきたが、犠牲が出たこともある。もしかしたらあの子ももう……。


「ニナ……!」

「きゅーん!」

「ニナ! 無事じゃったか……」


 ぴょん、と茂みから子狐が飛び出してきた。どうやら無事だったらしい。

 安心するのもつかの間、今まで何をしていたのか怒ろうとしたところでいつになく子狐、ニナが焦っていることに気がついた。


「きゃーう! きゃーう!」


 そして、ニナは彼女の洋服の裾を咥えて引っぱり、どこかへ連れて行こうとする。そして、彼女に念話で何かを伝えた。


「む? 何? 助けてくれた人がいて? 怪我をして倒れている? 助けたい?」


 それは確かに、助けたくもなるものだろう。

 それに、この状況で自分たちを襲うどころか助ける「不明の残滓」など聞いたことがない。


「うむ、すぐ行こう。どこじゃ」

「きゅう!」


 子狐が駈けていって、彼女もそれに追従するように走り去った。


**


 目が覚めた。


 倦怠感を感じる中、うっすらと目を開けて、目だけ動かして辺りを見回す。

 景色は森の中ではなかった。小さな小屋の中のようだ。


 そして、俺は何かに包まれるようにして眠っていたようだった。


「生き、てる……?」


 ぽつりと呟いた瞬間、胸に衝撃が走った。


「きゃーう!!!」

「げっふぉ!」


 胸に飛び込んできたのは先ほど助けた子狐だった。すりすりと鼻を頬に擦り付けてくる。


「お前が……助けてくれたのか?」

「きゅ? きゅっきゅー……きゅうーきゃう! きゃきゅー!」


 何故だろう。ニュアンス的に『助けてくれたのはあなたでしょ? ありがと!』みたいに聞こえた気がした。


「いや、動物がしゃべるわけ……落下のときに頭打ったかな……」

「きゅ?」


 と、頭をさすりながら呟くと、俺を包んでいたベッドのようなものがもぞりと動いた。


「ヒィ!?」


 慌てて飛び退こうとするが、極太の何かで押さえつけられた。毛むくじゃらで、妙に温かいこれは……獣の足だ。


「まだ動かんとけ、坊主。怪我が治っとらん」


 ものすごく低く、渋い声がした。震えながらその声の方向に首を向けると、超巨大な狐の顔があった。牙が鋭い。こわい。


「ヒ、ヒェ……」


 そう、ベッドだと思っていたものは巨大な狐の5本の尾であった。


「おう、ビビるのも分かるがまあ大人しくしとけ。俺様の毛皮に包まれるなんて貴重な体験だぞ。Aランクの魔獣に包まれた人間はお前が初めてだろうなあ……おう、ニナ。ちょっとオデット様呼んできてくれや」

「きゅあ? きゅー!」


 ニナと呼ばれた子狐は『やだ!』というように俺の胸にすがりついた。かわいい。


「いいから呼んできてくれって。ほら行った行った」

「ぎゃおー!」


 子狐は文句を言うように歯を剥き出すとそれでも小さな尻尾を振りながら小屋を出て行った。


「……言葉通じるんだ……」

「あん? あぁ、お前……俺たちが何なのか分かってねえのか?」

「え?」

「俺たちはただの動物じゃねえ。魔獣だぞ。その中でも知能が高い種族だからな。あいつみたいにまだランクが低くても言葉ぐらい通じるわ」

「魔獣っすか……」


 尻尾が5本ある時点で何となくそんな気はしていたが、魔獣か。自分は魔獣に包まれて寝ていたのかと戦慄した。同時に、頭がおかしくなったわけじゃないようで安心した。しゃべる動物の幻覚が見えているわけじゃないらしい。

 魔獣といえば、神殿で見た巫女たちは人間の敵だと言っていたか。RPGでも敵モンスターになっているような存在だが、自分を助けたということは頭ごなしに悪いと決めつけてしまうのは違うのだろうか。


「ていうか、ランク? って何ですか?」

「ランクも知らないのか? お前どこから来たんだ……」


 と、そこで小屋の中に誰かが入ってきた。


「うむ、大事ないようじゃな。間に合ってよかったわ」


 そこにいたのは金髪の狐耳の女性だった。幼さの残る可愛らしい顔立ちではあるのだが、どことなくその雰囲気には妖気のようなものを感じさせた。簡単に言えば違和感が凄い。女子高生が歴戦のオーラを放っているような感じといえばわかってもらえるだろうか。


「あなたは……」


 思わず敬語になってしまう。本能的に身構えてしまったのだ。


「相手の素性を聞く前に助けてもらった礼を言うのが筋ではないか?」


 金色の目で眇められる。強烈な威圧感を感じさせる目だ。だが、それで気づいた。この女性は人間ではない、と直観が囁く。魔獣なのだろう。


「えと……助けてくれてありがとうございました、あなたは……?」


 その答えに少しだけ女性は驚いた様子を見せる。そのあと、くふ、と柔らかく笑った。


「ほう、身構えこそすれ、儂に恐れ戦くことも無いか。ただの残滓にしては肝が据わっておる。儂は妖狐種のオデット。この村の長をしておる」

「妖狐種?」

 

 確かに狐耳も生えているし、尻尾も8本。なのだが……洋服だ。ヴィクトリア朝のゴシックに近いだろうか。ゴシックロリータからフリフリ要素を取っ払えばだいたい合っている。正真正銘の洋服だ。

 妖狐のくせに着物じゃないんかい。


「お主、何か変なことを考えたな」

「いえ何も!」

「嘘が下手じゃのう……まあよいわ。妖狐種を知らんとは、お主、何も知らぬようじゃの……レベルも1だし、そんな状態で神国に発見されて即座にここに廃棄されるとなると……やはり、異世界から来たばかりといったところかの? レベル1の者が鑑定される機会などそのぐらいじゃしな」

「異世界!? 勇者ってことかよ」


 その言葉にベッドにされている狐が驚いて吠える。俺を包んでいる尻尾もバサバサと大きく動き、尻尾の中でもみくちゃにされた。


「げっほ! ぶふぉ!」

「あ、すまん」

「いや、大丈夫です……そうです、召喚されたと思ったらステータス見られて突然落とされました」


 それを聞いたオデットさんは非常に複雑な表情をした。やっぱりか、というような納得のほかに、もっと違う何かが混じっていた。


「異世界召喚された残滓、か……どう思う、アドルフ」


 アドルフと呼ばれた大狐は思案するように少し黙った。


「……いや、どうだろうな。勇者召喚に残滓が紛れ込んでたなんてあり得るんか。残滓は澱み……澱んだエーテルに長時間晒されると残滓化するってのが常識じゃねえか。エーテルがそもそも無い異世界に残滓がいるはずがねえ」

「それはそうじゃな。だが、澱んだエーテルの流れが影響して自然発生する例も無くはない。召喚の過程で何かが起きたと考えるべきじゃろうな」


 そのまま会話を続けていく二人。そして、置いてけぼりにされている俺と子狐。

 とりあえず、俺はレアケースということなのだろうか。


 子狐はというと俺の隣でおすわりをしている。だが、撫でようとしたら抵抗された。


『ちょ、ちょっとやめてよ! 恥ずかしいでしょ!』みたいな感じだったが無理矢理抱っこして撫でることにした。撫でられはじめるともう子狐は抵抗せずごろごろと甘えた声を出しはじめる。


 伊達に実家の牧場で動物とふれあっていたわけではないのだ。撫でマスターの白井とは俺のことである。

 オデットさんはそんな子狐のことを少し驚いたような様子で見ていた。

 ふふ……。俺の撫でスキルは異世界でも通用するようだぜ!


「……いや、そんな場合じゃねえし。そもそも残滓って何ですか」


 残滓。

 槍使いの巫女が叫んでいた通り、これが俺が追放された原因なのだろう。

 一体残滓とはなんなのか。


「ん? おお、そうじゃな。説明しとかねばならんのう、残滓というのはまあ……神敵じゃ。人間の敵そのものなのじゃ」

「しんてき?」

「うーむ。何も知らんお主に説明するのは骨が折れるが、まあしょうがないのう」


 と、いうわけで以下、可愛い狐娘(自称)の説明まとめ。


 まず、この世界はスティルゼ神国という国によって統一されているらしい。その中に、アメリカでいう州のような自治区がいくつもあるという状況のようだ。


 そして、それらの州は全てが一つの宗教を信仰している。絶対神スティルゼを崇めるエーテル教だ。そのおかげで統一も出来ているということなのだろう。宗教戦争が無いというのは大きい。


 が、しかしである。

 そう上手くは行かないもので、この世界には人間以外にも多数の種族がいる。


 まずは魔族。人間に近い姿をした亜人のような存在のようだ。おなじみ吸血鬼とか、巨人とか、そういったものたちを指し、一体一体が非常に強力とのこと。あと、エルフとかドワーフも魔族に入るらしい。ファンタジーだとそのあたりは人間の味方のイメージがあったから意外だな。


 次に獣人。これもファンタジーではおなじみだ。動物の特徴を持った人間……とでも言えばいいだろうか? 魔族との違いはエーテルへの適性がほぼないということらしい。まずエーテルって何だ、と思ったのだが、世界中に漂う魔力の元のようなものらしい。これを使って魔法だったり、スキルだったりを使うと。


 そして次が普通の動物。姿形は多少違うが元の世界とほとんど一緒。魔法も使えないただの生き物だ。


 次が魔物。特定の場所や条件下で自然発生する生き物だ。総じて人間を見れば襲いかかってくる。


 次に魔獣。目の前にいる狐達は魔獣らしい。自然発生しない、動物にエーテル適性がついたものだとでも覚えておけば良いらしい。ドラゴンやトレントもとりあえずここ。まあ、ぶっちゃければ魔物と違って生殖で増えれば魔獣だ。


 そして神獣。ぶっちゃけ魔獣と変わらんわ、と若干不機嫌そうにオデットは吐き捨てていた。ただ、ステータスの「性質」に「神聖なる獣」と書かれていれば神獣となる。


 さて、以上、人間、魔族、獣人、動物、魔物、魔獣、神獣の7種類におおまかに分類されるわけだが、彼らのほとんどは人間と共存することは無い。それにはある理由がある。


 ステータスの「性質」だ。


 ここが「神聖なる」になっていないものはこの宗教国家には認められない。神に認められていない存在ということになるからだそうだ。


 「神聖なる」が付与されるのは人間と神獣、動物のみ。というわけで、他のはみんな劣等種扱いというわけだ。


 それに反抗するのは主に魔族達で、彼らと人間の戦争(まあ、魔族たちに国はないことになっているので内戦なのかもしれない)がもう何千年も続いているらしい。獣人はどっちつかずだが、劣等種として人間の街で暮らしたりすることもあるようだ。だいたいは魔族の街にいるようだが。そりゃ差別されるような街にはいたくないだろう。いくらこの世界最大唯一の国家だとしても。


 ちなみに、魔物、魔獣は基本的にはただの動物なのでそういうしがらみは無い……のだが、本能的に人間を優先して襲う性質があるらしい。


「あれ? 俺、今その魔獣に囲まれてませんか」

「そうじゃな」

「そうだな」

「きゃお」

「……」


 襲われちゃうのかなあ……。


 で、ここからが本題。


 この世界はエーテルで満ちている。この世界の生物はそれを魔力に変換する事で、奇跡やら法術やら魔法やらを生み出す。魔物を生むという害もあるが、無くてはならない存在だ。


 だが、エーテルで満たされたこの世界ではエラーが起きることがある。


 「澱み」という現象だ。


 この世界には、エーテルのほかに澱んだエーテルと呼ばれるものがある。実際にはエーテルとは全くの別物らしいが、便宜上澱んだエーテル、澱みと呼ばれているらしい。澱みはエーテルと反発する性質を持っているが、ほとんどエーテルと同じようなものらしい。

 普段であればエーテルの中にごく微量にしか存在しない上、普通の生物ならば澱みを吸収する事は無く体内のエーテルが反発して侵入を阻止するから問題は無い。


 しかし、澱みが大量発生して空気中のエーテルよりも多くなると、体内のエーテルで防ぎきれず、体がエーテルの代わりに取り込んでしまう。その澱みの中に長時間捕われ続けると性質が「???の残滓」になってしまうのだそうだ。これは人間だけでなく、魔族や獣人、魔獣でも変わらない。「???の残滓」はステータス上そう表示されており、「???」の部分が全く読めないことから、一般には不明の残滓と呼ばれるそうだ。


 残滓になってしまうと、身体がエーテルと勘違いして澱みを吸収できるようになってしまう。すると、体内のエーテルと反発して拒否反応を起こし、精神に異常をきたしてしまい、廃人になってしまったり、無差別に暴れまわったりしてしまうらしい。


 だが、廃人になる事無く澱みに適応できれば、性質が「不明の断片」に変化する。その場合、強力な固有能力を得る上にエーテルを逆に吸収しなくなり、拒否反応が消える。

 エーテルを教えの軸にするこの国の宗教にとっては認められない存在だ。エーテルがいらないというのだから。

 まして、残滓のうちに暴れまわってしまうことから魔族から見てもあまり良い目では見られないそうだ。


「断片はなまじ強力であるがために、味方に付けられれば外道とはいえど心強い。しかし、断片は宗教の問題で人間からは差別されるから人間の敵にはなれど味方になることはないのう。それに、残滓のうちに廃人になって暴れまわってしまうものも多くての……そういうわけで、人間達は残滓はとにかく排除しておる。それがこの場所に破棄するということじゃな」

「……何でその場で殺さないんだ?」

「うむ。それも残滓の厄介な特性でな。下手にその場で殺すと他の断片が死体から溢れた澱みにつられてやってくる可能性があるのじゃ。ほら、空気中の澱みはごく微量じゃからな。本来エーテルで賄うはずだった魔力を得るために、断片はむしろ澱みに餓えておる。だから、この誰も入れない地下迷宮に生きているうちに廃棄しているわけじゃな。どうせここからは出られないとたかをくくっているのじゃろう」


 さっきから廃棄廃棄ってここはゴミステーションか。


「……で、俺がその残滓と。人生どん底は継続中かあ」

「そうなるな。じゃが、おかしいことがいろいろ多くてのう」

「おかしいこと?」

「お主、それなりに落ち着いているように見える。拒否反応を起こしているようには見えんじゃろ」

「あ、あー、そういえば……」


 確かに、自分が何か変わったという感じはしないな。


「あと残滓とかには関係ないけどの? 勇者召喚された割にはステータスがしょぼい」

「しょぼい!?」

「鑑定で見させてもらったがスキルがろくに効果を発揮しとらん。適性も魔獣使いじゃし」

「んん?」


 スキルがろくに効果を発揮していない?


「要はゴミスキルしかないんじゃ。勇者でもない人間の神獣使いでもまだマシ。あとステータスもゴミ」

「ウッソだろオイ」


 衝撃の事実。


「とりあえずお主のスキルじゃけど、『念話』『魔獣敵対無効』『神聖の拒絶』『人間からの乖離』『共鳴Lv1』じゃろ? 

 念話はまあ、悪くはないけど。特別強いわけじゃないはずじゃ。むしろ、地上じゃと法律で禁術指定されてるんじゃなかったかのう。人の心が読めるのはぷらいばしー? の侵害とかで。持ってるだけ損じゃな。捕まるな。

 魔獣敵対無効は見たことは無いが……効果は魔獣の敵対心を失くすという効果じゃな。今は役に立っておるけどだから何って感じじゃな。普通は魔獣って人間にとっても敵じゃろ。多分殴れば普通に襲ってくるぞ。

 神聖の拒絶も見たことは無いが……お主の体内からエーテルを感じられんから、大方エーテルを拒絶しておるスキルじゃろうな。つまりお主は普通の魔法は使えんと思っていい。

 人間からの乖離は不明じゃな。このスキルの効果で共鳴とかいう謎スキルがついてるがの。ついたらすぐにメチャクチャ強い効果を発揮するのが売りの固有スキルのくせにレベル付き。どうしようもないの。あと魔獣使いに必須の『使役』すらないし」

「聞きたくなかったァー!!!!!」

「苦労すんなぁ坊主」


 けらけらと笑うオデットと、哀れみの目を向けてくるアドルフ。そして、『気にしないで良いよ! 私が守ってあげるから! 私もレベル1だけどね!』と言いたげなドヤ顔の子狐。お前は何様なんだよ。


「で、なんじゃが……お主、しばらくこの村に住まんか。どうせ行くところも無いんじゃろ」

「行くところも無いっていうか、もう出られないんじゃ……?」

「いや、それは違う。ここは迷宮の最下層のさらに下に位置している隠し階層みたいなものでな。隠し階層のさらに下、真の最下層に到達できれば話は別じゃ。じゃが、まあ無理じゃろう? だからここに住まんか、というわけじゃ。魔獣敵対無効も役に立つしな」


 儂らの村は魔獣しかおらんからな、とけらけらとまたオデットは笑う。


「……出られる方法があるのか……」

「……お主、最下層に行く気なのか?」

「いやあ、だって俺、まだ19だし、地底で一生過ごすなんてゴメンですよ。出られる方法があるなら出たい。残滓だかなんだか知らないけど、ここじゃはできない気がする」


 その言葉に、子狐が俺を見上げる。何を考えているかは伝わってこなかった。対し、しばらくオデットは考え込んで、そして子狐を見た。


「のう、ニナ。お主、この小僧が気に入っているようじゃが……手伝ってやる気はあるかの」

「きゃう!」


『もちろん!』というように元気に鳴く子狐。それを聞いて、オデットは諦めたようにため息をついた。


「ま、何事も挑戦かもしれんな。分かった。お主を鍛えてやろう。そんなステータスじゃ絶対に迷宮は突破できんからな。SSランクの魔獣に教えを請えるなんぞ絶対に無い機会じゃ。感謝しろよ?」

「ありがとう! 助かります!」


 俺が元気に返事をすると、オデットはくふ、と笑った。


「楽観的じゃの。じゃが、覚悟しろよ? 儂の修行はキツいぞ。2、3回死ぬかもしれんの」

「えっ」


 ……まあ、とりあえずこうして俺の異世界生活はようやくスタートしたのであった。

 正直先行きに不安しか無いけれど。

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