企て
「一時はどうなるかと思ったが、だいぶ顔色が良くなったな」
「はい、先生にはご心配とご迷惑をおかけしました」
「お、おう……お前、まだ熱があるのか」
「はい、まだ少しあるようです。できるだけ無茶しないように気をつけます」
「そう、だな、それがいいと先生も思うぞ」
アルトが顔を洗いに泉へ行くと、トーマがミアに目配せした。
「アルトはどうしたんだ?」
「ですよね? 私も気持ち悪くて」
「まあそのうち元に戻るだろう」
「私もそう思います」
「ピコもです」
三人は顔を見合わせて笑った。こうして笑い合えることがミアは嬉しかった。
トーマが去った後、これからのことを話し合うためにミアはアルトに向き合った。
「どうやって湖を渡るつもり?」
「やはりボートを使うしかないと思ってる」
「それは私も同感」
ミアはあちこち破れた防水シートを見た。このままでは到底水には浮かばない。
「補修キットはあるから防水シートは何とかなると思う。問題はオールだ。生憎オールを一から作れるほど体力が残ってない。悪いけど島を回って使えそうな材料を探してくれないか。それと明日の朝の分までの食料も必要なんだが、頼めるかな」
「もちろん。できるだけ早く帰るからアルトは無理しないで待ってて」
「わかった」
ミアはピコと一緒に案内役の鹿と小猿を伴って島の探索に出かけた。泉から西へ向かって林を抜ける辺りでバナナを見つけた。まだ青いが火を通せば食べられる。手入れの悪い畑のようなところで野菜や豆も見つけた。西の浜辺は広く平らで砂が細かい。あちこちに焚き火の跡があるところを見ると、結構人間が訪れているようだ。野菜はそうした人間が植えて野生化したのかもしれないとミアは思った。
食料は十分調達できたので、ミアは浜辺に沿って漂着物を調べることにした。こちらにも様々な物が打ち上げられている。ミアは役に立ちそうな物を回収した。
「ねえ、ピコ」
水際で休憩を取っている時にミアはふと思った。
「やっぱりさ、アルトの様子変だよね? 命賭ける勢いでいたのに急におとなしくなっちゃって」
「確かに変でしたね。普段のアルトとは別人のようでした。……何か企んでるとか?」
「ピコったら、企むっていう言葉いつの間に覚えたの……え、ちょっと待って……まさか」
ミアは急いで荷物をまとめると一目散に走り出した。
泉に戻ると泉のそばでアルトが倒れていた。
「アルトっ」
抱き起こすと熱がぶり返したようで体が熱かった。呼吸も苦しそうだ。
「なにやってんのよ、もう! 無茶しないって約束したでしょ」
アルトがうっすら目を開けた。
「約束はしてない。だいたいミアひとりに任せられるわけないだろ」
「何言ってんの! こっちこそアルトひとりに任せられないよ。ピコだって私だっているじゃない。もっと仲間を頼ってよ!」
ミアの肩の上でピコもぶんぶん頷いている。アルトは一瞬目を見開きミアを見つめたが、すぐに顔をそむけた。
「とにかく、熱が下がるまで活動禁止」
ミアはボートまでアルトを支えて移動した。ボートはもうすっかりきれいになっている。ミアはマットを敷き直してアルトを寝かせると、額に冷たいタオルを乗せて言った。
「体力さえ回復したら何とかなるから、とにかく今は無茶しないで」
「……ごめん」
そう言うとアルトは目を閉じ、両腕で顔を覆った。ミアはストールを掛けてやるとそっとその場を離れて泉のほとりへ戻った。アルトはそこでオールを作っていたようで既に一本出来上がっている。この短時間で、しかもあの体でボートもオールもここまで仕上げたのだから倒れるのも無理はない。ミアは改めてアルトの執念を痛感していた。
(こうなったら何としても完成させなきゃ)
ミアはもう一本の作りかけのオールを手に取った。ここまでできているのならなんとかなるかもしれない。ミアは魔力のすべてをオールに込めた。
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