奮闘
トーマが帰った後、ミアは泉の中に木の枝と石を組み合わせて囲いを作り、そこに果実を浮かべた。泉の水は冷たくて思わず身震いするくらいだ。ミアはアルトのココアを思い出した。
(火を起こせたらいいのに)
そんなことを考えていたら急にお腹が空いてきた。考えてみれば昨夜からろくな物を食べていない。ミアは動物たちが持ってきてくれた木の実が食べられないか知りたくなった。
「ねえ、ピコ、これって人間も食べられるのかな」
ピコは動物たちに聞いて回った。
「人間が火の上で何かした後、多分茹でたんじゃないかと思うんですけど、食べているのを見たそうです」
ピコはここ数日ミアたちの調理の様子を見ていたので、動物たちの証言からその人間の行動を推理したようだった。
「ありがとう、ピコ。となるとあとは火かあ」
ミアはちらりとアルトを見た。アルトなら難なく火を起こせるのに、自分は…。その時、ピコが虫眼鏡のレンズを覗き込んでいるのが見えた。
「それだっ!」
ミアは空き缶によく乾いた黒っぽい枯れ葉を詰め、レンズを持って日当たりのいい場所で太陽に向けた。
「お願い、着いて」
角度や距離を微妙に調整し続けると薄い煙が出始め、やがてぽっと小さな火が灯った。ミアは缶をそっと地面に置くと、枯れ葉と小枝を足して徐々に火を大きくした。
「すごいです、ミア!」
「いや、火をつけるのに夢中でその後のこと考えてなかった」
ミアは缶の周りを木と石で囲い、アルトがやっていたことを思い出しながら櫓を組んだ。それからひとまわり大きな缶に水を汲んで木の実をいれ、火の上に置いてぐつぐつ煮た。
(やっぱりアルトはすごいな)
不格好な櫓を見ながら、ミアはアルトの器用さに改めて感心していた。
ミアは頃合いを見て茹でた実を取り出し、ナイフで割って中の身を頬張った。少し甘くてホクホクして、いくらでも食べられる味だ。
「美味しい、ピコも食べてみて」
ミアは他の動物にも勧めて食べさせてやった。余程美味しかったのか、猿たちが何度も林の中に入っては実をもいできたので、足元には木の実の山ができた。ミアは動物たちが満足するまで繰り返しゆがいてやった。
その間にも、アルトが目覚めるたびに水で薄めた果汁を飲ませた。トーマの言うとおりアルトは喉越しの良くなった果汁を積極的に摂るようになって、夕方トーマが来る頃にはある程度会話ができるまでに回復していた。
「先生のアドバイスのお陰です。ありがとうございました」
「よくまあ凌いだな、ミア。だが熱は夜になると上がるもんだ。まだ油断はできないぞ」
トーマはアルトが寝袋に移る手伝いをしてから真剣な顔で言った。
「アルト、わかってるとは思うがまずは元気になることが先決だ。もう無茶はするなよ」
「わかりました」
トーマはゆがいた木の実を気に入って鷲掴みにして去った。ミアは缶詰のスープを温めてアルトに飲ませると、残ったスープに木の実を入れて自分も夕食を済ませた。そして早々に自分も寝袋に入り、あくびをする間もなく深い眠りに落ちた。
六日目の朝、ミアは清々しい朝を迎えた。隣を見るとまたしてもそこにいるはずのアルトがいない。ミアはテントを飛び出した。
「アルトっ」
目の前にアルトがいた。組み直した櫓のそばで食事をしているようだった。
「もう、起きたなら起きたって言ってよ」
「悪い、腹が減ったからスープ飲んでた」
そう言うアルトは少しやつれたように見えるが、昨日を思えばずっと元気そうだ。
「もういいの?」
「まだ少し熱はあると思う」
ミアは驚いた。これまで一度だって弱音を吐いたことがなかったアルトが正直に体の状態を言うとは思ってもみなかった。ピコもまた目を丸くしている。
「まだ夜明けまで間があるからもう少し寝たら?」
「そうさせてもらう。残りのスープは食べちゃっていいから」
そう言うとアルトは素直にテントへ戻った。ミアとピコは顔を見合わせた。
「いつものアルトと違いましたね」
「熱で頭がおかしくなったのかな」
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