仲間

「さてと」

 大見得を切ったもののまだ解決策はひとつも浮かんでいない。ミアはとりあえず泉でタオルを濡らそうとして、いつの間にか鹿だけでなく猿やらリスやら鳥やらたくさんの動物が集まっていることに気づいた。

「そうだ」

 ミアは動物たちと何やら話をしているピコを呼んだ。

「ピコにお願いがあるの」

「何でも言ってください。ふたりの役に立ちたいです」

 ピコはいつになく張り切っているように見える。

「ありがとう、ピコ。アルトのために栄養のある食べ物が必要なの。それと、何か役に立ちそうな物があったら集めてもらるように頼んでくれない?」

 ピコは大きく頷くと動物たちのところへ飛んで行った。話を聞いた動物たちが我先にと林の奥へ消えていく。ピコもまたその後に続いた。


 ピコを見送った後、ミアはテントと寝袋とまではいかなくてもせめて背中が痛くないところでアルトを休ませてあげるにはどうしたらいいかを考えていた。しかし、タオルを泉に浸しながら見るとはなしに水面を見つめていると次々と雑念が浮かんでくる。

(でも、体調が回復したところで島から出るのは難しいだろうな。湖はこの何倍も大きいんだから。せめてボートが無事だったら……) 

「って、ボートだっ!」

 ミアはアルトのリュックからロープを取り出すと全速力でボートのある場所まで戻り、ロープを掛けて泉のそばまで引きずってきた。アルトの工夫のお陰でミアでも運べる程ボートは軽かったのだ。

 アルトのそばにボートを置いて安定させると、ピクニックシートとタオルを中に敷き詰めてから、ありったけの魔力を振り注いでそれらを少し厚みのあるマットに変えた。それから殆ど意識のないアルトを何とかボートに引きずり込むと、シャツをたたんで枕にし、余った衣類を毛布代わりにして上から掛けた。しかしこれではまだ不十分だとミアには思えた。


 そのとき、遠くからピコの呼ぶ声が聞こえた。ミアが立ち上がってそちらを向くと、更に多くの動物たちが色々なものを持ち帰ってくれていた。その中に大きなストールがあった。

「海岸近くの木の枝にかかってました」

「これすごくありがたい」

 それはかなり厚手のストールで傷みもなかった。最近誰か人間が忘れていったものに違いない。ミアはよくはたいてホコリを落とすと両手に持って魔力を込めた。徐々にストールが大きくなっていくのを、ピコを始め動物たちも驚いた様子で見つめていた。

「これでぐっすり眠れるよ」

 そう言うと、ミアは洋服の寄せ集めをどけて、ふんわり暖かいストールでアルトの全身を覆った。


 他にも、大きな葉があったのでそれを編んで日よけにしたり、集めてくれた木の実などを置く皿代わりにしたし、取っ手の取れたバケツは水を汲んで枕元に置いてタオルを浸した。他にも空き缶や木切れ、虫眼鏡の大きなレンズなどがあった。

「ミア、この実はとても栄養があるんですって」

 ミアの前に進み出た小猿が手にしていたのはレモン色の柑橘だった。お礼を言って受け取ると、泉で洗ってナイフで割り、果汁を絞ってひと口飲んでみた。甘酸っぱくて喉の奥がすうっとする。これはきっと体にいいに違いないとミアは思った。

「これってまだあるのかな?」

 ミアの言葉をピコから聞いた猿たちが一斉に木に登って我先に飛び去った。ミアは感謝の気持ちで胸が熱くなった。

「どうしてみんなこんなに親切なんだろう」

「ここは陸から離れてるから天敵がいなくてみんな仲がいいそうです。それにピコの祝福も嬉しいみたいですね」

 ピコはほんの少し頬を染めた。女神の元で暮らしていたピコにはきっと動物を癒やす力が備わっているのだろうとミアは理解した。

「ありがとう、ピコ無しじゃ私たちここまで来れなかった。ほんとに感謝してる」

「やめてください。最初に助けてもらったのはピコですよ。それにみんな仲間ですよね」

「そうだね、仲間だね」

 ミアが「仲間」という言葉の重みをこれほど感じたことはこれまで一度もなかった。

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