星降る夜

 島に戻るとアルトが火のそばに物干し場を作ってあったので、ボートはアルトに任せてミアは火の管理と濡れたものを干す作業を請け負った。ノートや一部の食料は使い物にならなくなったが、衣類は暖かな日差しと程々の風のお陰で夕方までにはすっかり乾かすことができた。

 一方で、ボートは防水カバーがあちこち破れて浸水していたし、オールが流されてこのままでは乗ることができない状態だった。アルトはひと通りボートを点検した後すっかり黙りこんでしまい、ミアは声をかけることができなかった。


「随分と無茶したな」

 日暮れとともにやって来たトーマが話を聞くなり呆れた様子で言った。

「まあ、無事で良かった。食料はあるのか」

「はい、明日の朝くらいまでなら缶詰とかでしのげますけど物足りないです。先生、何か食べるもの持ってないですか」

 ミアがねだるとトーマがにやにやした。

「あるにはあるが、俺が何か渡すと減点になるけどいいのか?」

「こういう状況でもですか?」

「どんな状況だろうと寝る場所以外の提供は一切しないのが決まりだ。高等部になるとテントすら無くなるんだぞ」

「うわ、きっつー」

「まあ、どうしてもほしいときは明日の朝言ってくれれば用意するから遠慮するな。減点にはなるが失格にはならないから」

「アドバイス以外は何もいりません!」

 それまでずっと黙っていたアルトがきっぱりと言い放った。

「アルトならそう言うと思ったよ。今日は疲れただろう。早目に寝ろよ」

 それだけ言うとトーマはさっさと姿を消した。


 物足りない夕食を済ませると、ミアは早々に寝る準備をした。

「アルトも早く休んだ方がいいよ」

 声をかけてみたものの、アルトから返事はなかった。ろくに食事もとらず、ずっと焚き火のそばで引き上げたボートとにらめっこしているのだ。この数日でアルトの頑固さが尋常でないことを理解したミアはそれ以上何も言わずに黙って寝袋に入った。

 どれくらい経ったのか、ふと目覚めるとまたしても隣にいるはずのアルトがいない。それどころか寝袋すら広げた様子がない。ミアはため息をつきつつ表に出た。

 外は比較的暖かく、既に月は落ちて星がきれいだった。焚き火は消えていて、ボートはそのままだがアルトの姿はない。ミアは嫌な予感がしてアルトの名を繰り返し呼んだが返事はなかった。

「どうしたんですか」

 ピコが目をこすりながらミアの肩にとまった。

「アルトがいない。悪いけどピコも捜して」

 ミアの慌てた様子に驚いたのか、ピコはすぐさまミアの肩から飛び立ち自らもアルトの名を呼びながら捜し始めた。この世界の魔法レベルではミアの足元を照らす程度の光しか生み出せないので、月明かりのない浜辺でアルトを捜すのは容易なことではなかった。


 ミアは水際に沿ってひと通り歩いたがアルトの姿を見つけることはできなかった。アルトに限ってそんなことはないと思いつつ、絶望のあまり水に入ったのではないかとどこかで思っている自分がいた。ミアの周りの微かな光を頼りにピコが飛んできて肩にとまった。

「どこにもいません」

 力なくピコが言う。

「こっちもいない。そもそも暗くて見つけられやしない。一体どこへ行ったんだよっ」

 ふたりは一旦テントに戻り明るくなるのを待つことにした。アルトが何でもない顔で戻ってきたら怒鳴りつけてやろうとミアは思っていた。

 しかし、空が白んでもアルトが戻ることはなかった。ミアとピコはもう一度アルトの名前を呼びながら辺りを捜し始めた。

「随分明るくなったから、ピコは上から辺りの様子を調べてくれる?」

「わかりました」

 ミアはピコと別れて再び水辺を歩いた。黒い影がアルトに見えて駆け寄ると、流れ着いた流木だとわかることが何度も続いた。


「ミア! 来てくださいっ」

 諦めかけたその時、ピコが矢のように飛んできて叫んだ。

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