第10話 驚くべき事実

「まず私の容姿についてですが、私は皆さんのように、異星人の格好に似せる手術を受けたわけではありません。これは生まれたままの姿です。


おわかりでしょうか?


そうです。私は皆さんから見れば、正真正銘の異星人なのです。ちなみに私の生まれ故郷の星の名はゲラファイドと言います。つまり、私はゲラファイド星人という事になります」


聴衆からワッと声が上がるかと思われたが、意外とその声は小さかった。皆、如何にも異星のUFOといった風情のこの乗り物に乗船した時より、大方の察しを付けていたからだ。


「さて、皆さんは各国の政府から、こう聞かされていると思います。探査ロケットがとある失われた惑星を発見し、その星の民の遺産を手に入れた。そこには宇宙の様々な種族の名鑑のようなデータがあった。


そして将来、それらの異星人達と交流が生まれた時、姿かたちが大きく違う彼らと上手くやっていけるのかを地球規模で実験するのだと。


ただ、地球人には、名鑑が発見された事は伏せて置き、あくまで学者が推測した姿であると発表する……」


首のないタイプの被験者以外、皆がウンウンと頷いた。


「皆さんには申し訳ないが、実はその言葉にもウソがあったのです。


地球人の限られた者達、トップクラスの政治家や学者ですが、彼らは既に我々異星人とコンタクトを取っていたのです」


船長の演説が続く。


「筋書きは、こうでした。


まず我々宇宙連合の科学力で、地球の探査ロケットを文明のある星へと巧みに誘導する。そこでその星の住人である者たちが、宇宙連合に連絡をし、地球人とコンタクトを取った。もちろん地球人たちは、あくまで偶然に出会ったと考えている。


地球の為政者たちは、我々の科学力に魅かれ、是非交流したいと願い出ました。だが我々は、それに待ったをかけます。地球の事を少し調べてみると、惑星上では様々な争いが起きている。肌の色の差、貧富の差、宗教の差、色々な事柄で絶え間なく紛争が起きている。


そんな住人たちが、自分たちと天と地ほどの姿形の差がある我々を、受け入れる事が出来るのか? むしろ、争いの種を増やすだけになるのではないか、と地球の為政者たちに疑問を呈しました」


異形の聴衆たちは、かたずをのんで船長の説明に耳を傾ける。


「そこでこちら側から、次のような提案をしたのです。


一つ、実験をしてみようじゃないか。地球人の一部を我々と同じ姿にして、その者たちと地球人が上手くやっていけるかを試すのだ。いきなり現存する異星人の存在を知らせてはパニックにもなるだろうから、あくまで学者たちがひねり出した推測だと言って」


ここまで話すと、船長は画面の外にあるコップに手を伸ばし喉を潤した。


「ただ真剣身をもってやってもらうために、もし上手く行かなかったら、宇宙連合は全力をもって地球の宇宙進出を阻止する。場合によっては有害な人種が宇宙へ飛び出すのを未然に防ぐため、気の毒だが地球を亡ぼす、と地球の指導者達へ伝えました」


A氏は船長の言葉を聞いて、今での疑問が氷解した気分であった。政府の異様なまでの、被験者に対する気の使いようは何故なのか。なるほど、下手をすれば地球が滅んでしまうのだ。それを考えれば、当然の処置だろう。


「しかし結果は、皆さんがご経験なさった通りのものになりました。


ここで誤解して頂きたくないのは、我々も決して地球が憎くてこのような事をしているのではありません。むしろ逆です。地球には、是非とも今回の”最終試験”をパスして欲しかった。それは宇宙連合に属する全ての星の住人の願いでした」


最終試験……。しかし結果を見れば、明らかに”不合格”と言わねばなるまい。A氏は心の奥が、少しズキッと痛むのを感じた。


「そして……、私は最初に”筋書きは、こうでした”と申し上げました。そうです。全ては、仕組まれた事だったのです」


落ち着いて演説を聞いていた聴衆も、ここではエッとばかりにどよめいた。


「我々は昔々、皆さんがまだ猿から進化したばかりの頃から地球を見守ってまいりました。その知性から、いつかは宇宙へ進出し、われらの友になり得る可能性を見出していたからです。


ただ、そうした星は今までにもありましたが、全ての星が友人となったわけではありません。様々な理由から、宇宙へ出れば災いを招く種族もいるからです。我々は宇宙の平穏を守るため、そうした種族を心ならずも幾つか滅ぼしてまいりました」


船長の声がくぐもった。


「そして地球は、そのボーダーライン上におりました。ただ、多くの問題はあるものの、友人になれる可能性は十分にあると考えておりました。


よって我々は様々な段階で地球人に知られる事なく助力をし、見守ってまいりました。また将来、我々を受け入れられやすいような工作、とでも言いましょうか、仕掛けも施してまいりました」


異星人たちが、そんな古の時から地球に関わっていたと知り、聴衆は顔を見合わせた。


「皆さん、不思議に思いませんでしたか。皆さんが擬態した姿は、明らかに地球人とはかけ離れています。でも、その割には、意外とパニックなどにはならなかった事を……」


そうだ。全くその通り。A氏は思った。そして何故なのかを考えた。……なるほど。A氏が辿り着いたのは、次のような推測だ。


確かに被験者の姿は地球人とかけ離れている。だがその姿は、A氏の怪獣タイプ、C氏のタコ火星人タイプなど、どこかで見たものが非常に多い。それが実際の宇宙人達の姿と、これほどまでに重なるのはかえって不自然だ。


「つまり、彼らは自分達の姿をさりげなく映画や小説の中に忍び込ませ、地球人が彼らの姿を受け入れやすくしていたって事だな」


軟体タイプのB氏が、A氏の結論をかっさらった。


「なるほどねぇ」


C氏が感心する。


そして船長がその後に語った話も、答え合わせとして完璧であった。さすがに唸る聴衆たち。


「さて、ここからが非常に大切な内容となります」


船長は、努めておごそかな声を出した。


「皆さんも既に感じられているとは思いますが、地球は最終試験を突破する事が出来ませんでした。それは皆さんが一番わかっていると存じます。


よって我々は、大変残念ですが、地球を破壊せねばなりません。皆さんには非常に理不尽に感じられる事態ではありましょうが、これは既に宇宙連合が先ほど最高会議で決した事柄なのです」

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