第6話 一人で

ベッドに横たわって、昔、両親が月を見るのが好きで一緒にぼんやり眺めたことを思い出した。

特に話をするわけでもなく、妹と4人でただ夜空に浮かぶを月を眺めた。

その月が美しいとその頃は思っていたけど、いつの間にかすっかり月を見ることを忘れていたし、月を見るために時間を作ることもなくなっていた。


司と健は、そんな栞に月を眺めて温かい気持ちや自分を見つめる時間を思い出させてくれた。

栞にとって、父親と二人で眺めた月も、司と一緒に眺めた時と同じで、時空間と自分自身が溶け込んでゆくかのような奇妙だが、特別な透明になるようなあの感覚であることも思い出した。懐かしさを何処かに感じ取っていたのかもしれないし、司だったから同じように感じたのかもしれない。


一方、健とは自分が透明になるような感覚ではなかったが、自分を見つめ直す会話がとても楽しかった。

一緒にいる人間で同じことをしても、こんなに時間の内容が異なるのにどちらもプラスの時間で、また一緒に過ごしたいと思える時間を過ごせたことに感謝していた。


家族と会話することも、お月見と一緒で昔に比べて減ったし、一緒に何かをする時間もなくなった。大学生にもなれば、どこも似た様なものかもしれないが、最近のお月見で事象そのものが影響するのではなく、誰とどんな会話や時間を過ごすかの方が有意義度のはるかに大きな要因だと思った。

今、家族と過ごして昔と同じように、最近のお月見と同じように感じられるだろうか。嫌な思いも、否定的な思いもしないだけでもいい両親だと思えた。


父は、日本のどこにもある家庭と一緒で仕事中心の生活で、運動会にはよく来てくれたが、授業参観やその他の行事は専ら母親に任せきりだった。それでも、テレビを一緒に見たりニュースの話題で盛り上がったり、高校生になっても会話や一緒にいる時間は減ったものの嫌悪感は持っていなかった。父も、帰りが遅いだの服装がだらしないだのあまりあれこれ注意する質でもなかったのが、幸いしているのかもしれない。


母も、勉強しなさいとかお料理しなさいとかいうこともなく、買い物付き合ってと頼まれることがほとんどで、学校のことや友達のことも根掘り葉掘り聞き出す人ではなかったことは、面倒くさくなくて幸いしている。

妹は、よくうちにくっついて友達に混ざって遊んでいたが、学校から帰る時間がズレる様になってから離れるようになった気がする。栞は家族のことも、今日のお月見がなかったらきっとこうやって考えることもなかったんだろうと思う。


父は、特に趣味らしきものもなく、休みの日は遅くに起きてゆっくりした時間を過ごして、買い物に家族で行くという週末だった。時々、思い出したようにお月見をしようとか、お花見に行こうとか言って出かけたが、家の年中行事ではなかった。そう考えると、父親とお月見をしたのもきっと片手で数えられるほどの回数なのだと思う。その時は、大概家族一緒だったから、父親と二人でお月見したのは、さらに少ないはずだった。だから、記憶に残っているのかもしれない。


 「今の時代って、個の時代とか多様化の時代って言われるけど、俺は正直言葉の意味が分かんないかな、恥ずかしいけど」

 「司は意図的な言葉や目的のある行動がいやらしくないから、うち的には時代に合ってると思うけどな」

そんな司との会話が急に思い出された。

 栞はあれこれ考えていたが、そのまま心地良い眠りにつくことができた。

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