陽キャアイドルの幼なじみがライバルのために行動した件について

 ――制服が長袖の冬服から夏服になった6月の、演劇部の劇の本番当日。

 オレは体育館に椅子を並べるため、学校に来ていた。

 篠原がオレに気がついて駆け寄ってくる。


「瀬尾くん。なんでここに居るの? 今日日曜日だよ?」

「美術部が体育館に観客のみんなの椅子並べることになったから学校来た」

「文化部なのに大変だね」

「実は美術部は石膏運んだりするから意外と普段から重いもの持ったりするんだ」

「そうなんだ」


 すると、木暮に声をかけられた。


「瀬尾、顧問の先生に呼ばれたからこっち来て」

「わかった」


 そして、生徒会と美術部のみんなで体育館に椅子を並べていた時。

 演劇部のみんながリハーサルをしていた途中で、舞台の照明が消えた。

 その場に居たみんなはざわつく。

 すると、演劇部の顧問の先生が言った。


「電球切れたので取りかえてからリハーサル再開します。それまで演劇部のみんなは30分休憩してください」


 演劇部の顧問の先生が舞台から降りて、美術部の顧問の先生と話しているのが見える。

 話し終わった後、美術部の顧問の先生が言った。


「美術部もいったん30分休憩にします」


 先生に言われて、みんなは体育館から出ていく。

 オレも体育館を出て、休憩を取ることにした。

 自動販売機の前に向かうと、横のベンチに笹山がカフェオレのペットボトルを持って座っていた。


「笹山」

「瀬尾くんも学校来てたんだ」

「美術部で体育館に椅子並べることになったから」

「そっか。おつかれさま」

「リハーサルは進んでるのか?」

「うん。みんな高校入って初めての劇だから緊張してるけど」

「見てることしかできないけど、観客として応援するから」

「ありがとう。そう言ってくれるだけで心強いよ」


 しばらくして体育館に戻る時間が来て、オレは笹山に声をかける。


「そろそろ体育館戻る時間だぞ」

「……うん。後から行くから先行ってて」

「どうかしたのか?」


 オレが聞くと、笹山はオレから目をそらして言った。

 なんか笹山の様子が変だ。


「ううん。大丈夫だよ」

「本当に大丈夫か?」


 オレが聞くと、笹山は立ち上がった。


「だから大丈夫だって――」


 それからオレに答えようとして、顔をしかめる。

 ふと見ると、笹山の右の足首が腫れていた。


「笹山、足捻挫してるんじゃないか?」

「さっき舞台の照明が真っ暗になった時、驚いた拍子にちょっとひねっちゃって」


 だからなかなかベンチから立ち上がらなかったのか。


「とりあえず保健室行こう」


 すると、笹山はいつもの調子で笑う。


「これくらい大丈夫だよ。歩けるし問題ないから」

「ほっとくとひどくなるぞ。まだ休憩時間あるし保健室行って先生に診てもらったほうがいい」

「でも――」

「私も付き添うよ」


 声が聞こえて振り向くと、そこには篠原が居た。

 そして、3人で保健室に行って先生に笹山が捻挫した右足を診てもらう。

 女性の保健室の先生は言った。


「軽い捻挫ね」

「よかった」


 笹山は安心したように息をつく。


「でも、今日の劇は出ないほうがいいわね」

「え?」


 笹山は目をみはった。

 保健室の先生は口を開く。


「当たり前でしょ。捻挫してるのに劇で1時間立ちっぱなしなんていくら軽い捻挫でも危ないわ」

「……嫌です」


 そして、笹山は続けた。


「今日の公演は、絶対中止にしたくないので」


 先生は笹山の真剣な表情を見て、ため息をつく。


「そこまで言うならしょうがないわね。でも、演劇部の顧問の先生と親御さんには連絡するから」

「わかりました」


 笹山がそう言うと、保健室の先生は先生と笹山のお母さんに連絡をするために職員室に向かった。

 篠原が口を開く。


「じゃあ私、先に体育館に戻ってるね」

「ああ」

「付き添ってくれてありがとう。篠原さん」

「どういたしまして」


 篠原はそう返すと、保健室を出てドアを閉めた。

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