陽キャアイドルの幼なじみはライバルに負けたくない件について

 ――演劇部のオーディション当日。

 学校の授業が終わった放課後、オレは部活に行く準備をする篠原に話しかけた。


「篠原、頑張れよ」

「うん。あれだけ練習につき合ってもらったからには、いい結果出せるように頑張るよ」

「公開オーディションだったら応援に行けたんだけどな」


 オレがそう言うと、篠原は嬉しそうに言った。


「じゃあ、ちょっとこっち来て」

「ああ」


 そして、オレと篠原は人が居ない階段の踊り場に行く。

 篠原は言った。


「手出して」

「こう?」


 オレは篠原に両手を差し出す。

 すると、篠原がオレの手のひらに自分の手のひらを重ねた。

 思わず心臓の鼓動が高鳴る。


「し、篠原!?」

「動いちゃダメ」

「わ、わかった」


 しかたなく、しばらく待つことにした。

 篠原はうつむいてから、笑う。


「瀬尾くんの手ってあったかいんだね」

「篠原の手が冷たいんじゃ――」


 そこまで言って、オレはあることに気がついた。

 篠原の手が冷たいのは、オーディション前の緊張のせいだ、と。

 こういう時、気のきいたセリフが浮かべばいいのに。

 何も言えない自分が悔しい。

 しばらくした後、篠原は手を離した。


「よし! もう大丈夫。ありがとう、瀬尾くん」

「どういたしまして」

「じゃあ、行ってくるね」

「ああ」


 そして、篠原はスクールバッグを肩にかけて演劇部の部室に向かった。

 オレは美術部で部活をしてから、帰り道にある本屋に寄る。

 そして、篠原のオーディションの結果が気になるのをまぎらわせるために、適当な本を開いて立ち読みをしていた時。

 近くで本を落とす音が聞こえた。

 音のしたほうを見ると、女性が本を落としてしまっていた。


「大丈夫ですか?」


 駆け寄って、本を拾って渡す。

 女性は帽子を深くかぶっていて、顔がよく見えない。


「ありがとう」


 そう言ってオレから本を受け取ると、レジで本を買って帰っていった。

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